【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第274回

2015/10/22
 「アウェーゴール」

 ナビスコ杯準決勝・第1戦、新潟×G大阪。
 試合前、ピッチサイドでフジテレビの青島達也アナ、解説の山口素弘さんに出くわして、あぁ、ホントに準決勝なんだと思った。当たり前だが、当夜のナビスコ戦はたったの2試合しか行われていない。ベスト4だ。ここまで来た。ビッグスワンには精鋭9018人が集った。正直なところを言えば、普段それほどサッカーを見ない「スポーツファン層」を呼び込みたかったところだ。3大タイトルのセミファイナルだ。(W杯を別にすれば)ビッグスワンで行われた最も格の重い試合だ。

 新潟にとっては千載一遇のチャンスである。ガンバは代表組の4人(宇佐美、東口、丹羽、米倉)に加え、ACL疲れでコンディションのきびしい遠藤、今野、パトリックが欠場。こんなことはそうそうあるもんじゃない。といって新潟だって松原健に始まって小泉慶、加藤大、コルテース、成岡翔がケガ、佐藤優平が出場資格なし(今季、既に横浜FMからナビスコ戦に出ている)と苦しいやりくりが続いている。カンタンな試合になるわけがない。

 試合の入りは固かった気がする。別の言い方をすると受けに回るというか後手を踏むというか。まぁ、ビッグスワンの空気がびりびりに緊張している。先制点はガンバだった。前半33分、ワイドな展開から大森晃太郎のヘディング一閃。くわー、アウェーゴールってやつだ。そうしたら直後の同36分、山本康裕が右サイドから同点弾をねじ込んでくれた。直後ってところが大きい。チームに勇気をもたらすゴール!

 後半は新潟ペースで始まる。CKから大野和成ヘッド(後半3分)、レオ・シルバFKはクロスバー直撃(同6分)。が、そんな一切をご破算にしてしまう「大事件」が勃発する。レオが相手選手を蹴って、一発レッドを食らった。もう場内は騒然だ。何があったのか事情の飲み込めない観客も多かった。

 試合は一変する。10人で耐える展開。交代で入った川口尚紀が流れに乗れない。いやもう、ヒヤヒヤの連続。何度も死ぬかと思った。終盤、大奮闘した指宿に代え、ラファエル・シルバを入れたけど、勝負パスが出せる選手は誰だろうと思う。成岡がいれば適任なんだけどなぁ。

 それは前野貴徳だった。狙っていた。耐えて忍んだロスタイムだ。左サイドでボールを奪うと一気に前線へ送る。これをラファが見事に決めた。ラファの決定力はハンパないね。2対1で逆転勝利! レオ退場の「緊急事態」感に固さも何もふっ飛んだ。ふとんがふっ飛んだよ。一種、火事場の馬鹿力だ。俄然、万博が面白くなった。(ふとんもないし?)皆、興奮して眠れない夜を過ごす。


 ナビスコ杯準決勝・第2戦、G大阪×新潟。
 大阪モノレールの広告を見たら万博競技場の10月日程がすごかった。今日のナビスコ準決勝が終わると、次が14節・浦和戦、その次がACL準決勝の広州恒大戦だ。万博最終年にどれだけビッグゲームが続くのか。ガンバは遠藤、今野、パトリックがスタメンに戻った。一方、新潟は小林裕紀と端山豪の「ヴェルディ出身コンビ」が2ボランチに入る。ちなみにレオは「1試合出場停止」の裁定が下り、決勝戦には出られることになった。レオの性格なら自分のつまらない行為でチームに迷惑をかけたのを悔やんでいるだろう。出来るなら決勝戦でチャンスを与えたい。

 勝ち抜けの条件はガンバのほうがきびしかった。ガンバは勝利が絶対条件だ。それもただ勝つだけじゃダメで、「完封勝利、もしくは2点差以上つけた勝利」が必要。新潟側から見ると「アウェーゴール」を1点奪ってしまえばものすごく楽になる。早い時間に先制すれば相手にプレッシャーがかけられる。

 で、結論から言うとこの1点が遠かった。前半終わり間際、山崎亮平のポストを叩いたシュートが入っていればぜんぜん違う展開になっていたと思う。試合はきっちりやり合えていた。遠藤らの戻ったガンバと五分に渡り合う。告白するがめっちゃ楽しかったよ。あんなわくわくしながらサッカーを見たことがないくらいだ。ただ1点が遠かったんだよ。アウェー・フロム1点だよ。

 後半12分、遠藤にFKを決められる。大野カズのファウルだけど、あそこだけだね。大野はパトリックを封じたり、すんごい頑張ってたんだ。あそこだけしくじった。ていうか、遠藤に誘い込まれるようなファウルだった。合気道みたいな、気のかけひきで誘い込むファウル。ニュース映像は「見事なFKゴール」ばっかりだけど、ファウルのもらい方とFKの両方が天下一品だと思った。あれも技術なんだ。

 で、そのまま時間が経過してしまう。完封負けならガンバの勝ち抜けだ。ロスタイム、GK守田達弥が上がってパワープレー勝負に出る。いや、正確には出ようとする。去年のJ2プレーオフ、山形GK・山岸範宏が決勝ヘッドを決めたイメージだ。が、ボールを奪われ、無人のゴールにロングシュートを決められてしまう。タイムアップ寸前、スコアは0対2。

 それでも1点を奪えたらトータルスコア「3対3」で延長戦に持ち込めたんだ。決勝進出の夢は最後の1秒まで消えはしなかった。サポーターは声を枯らして「アイシテルニイガタ」を歌った。やがて主審の笛が鳴り、夢はそのとき消えてなくなったんだよ。選手らはピッチに倒れ、しばらく動けなかった。

 残念ながら決勝進出&タイトル奪取の夢は叶わなかった。だけど「初のベスト4」は達成だと思うのだ。僕らはこの経験を忘れないようにしたい。ビッグチャレンジの興奮、楽しさ。それを失う虚脱感、悔しさ。いつか絶対に勝って泣こう。


附記1、遠くイングランドからラグビー日本代表の稲垣啓太選手(新潟工業出身)がエールをくれたのは感激でしたね。ツイッターはW杯中の選手と日本を平気でつないじゃうんですね。稲垣選手こそ命がけのビッグチャレンジを戦った勇者です。しかも、幼稚園時代に体重40キロです(!)。

2、天皇杯・徳島戦ですけど、負けちゃいましたね。5年連続3回戦敗退ですか。せめてJ1に負けて去りたいなぁ。まぁ、土曜日の松本山雅戦に向けて主力を温存した結果ではあるけど、たった数日で「ナビスコ敗退」「天皇杯敗退」の急転直下です。松本山雅戦にすべてを懸けるしかなくなった。これは運命の一戦になりますね。

3、その大事なときに散歩道本の発売です。もうちょっとのんびりしたタイミングがキャラ的には合うんですけどね。『アルビレックス散歩道2014/夏の終わり 物語は更新される』。またサイン会やることになりそうです。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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