【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第278回

2015/11/19
 「本拠地最終戦」
 
 J1第16節(第2ステージ)、新潟×湘南。
 さっぱり実感がともなわないが、11月7日の「本拠地最終戦」だ。今季のJ1リーグは2ステージ制を採用し、チャンピオンシップの分、前倒しの日程が組まれた。去年の「大雪中止→カシマ代替開催」と比較すれば、何とまるまる1ヶ月早いホーム最終戦だ。今年のチームをビッグスワンで見るのは最後になる。

 これはビミョーな問題をはらんでいる。考えてもみてほしい。11月初旬だ。クラブ側も選手側も「0円提示」や移籍を公表できるわけがない。ファン、サポーターはスタジアムで別れを惜しむ機会を奪われるのだ。これはせつないよ。あぁ、誰々をスワンで見たのはあれが最後だったのか‥、と後になって気づく。

 しかし、センチメンタルな想像にひたっている余裕はない。新潟はまだ降格の可能性を残していた。残り2節、「新潟が連敗、松本山雅が連勝し、かつ得失点差で上回られた場合のみ」と圧倒的にこちらに有利な条件ではあるが、残留が確定するまで安心はできない。

 いちばんいいのは、もちろん今日スッキリ勝って残留を決めることだ。チームはそのための準備をしてきた。以下はリアリズムという話になる。次にいいのはドローで残留を決めること、3番目にいいのは1点差で惜敗することだ。試合展開としては先制、追加点…、とゴールラッシュが望ましい。何故かというと勝つ可能性が最も高く、大敗する可能性が最も低いからだ。

 しかし、スタメンが発表になって衝撃が走った。GK守田が前節負傷していたらしいことは当日の新潟日報で知った。だから黒河貴矢の先発や、ホーム最終戦「守田ダンス」無しについては心の準備があった。そしたらFW先発が田中達也と平松宗だ。これは考えてもいなかった。ラファエル・シルバ、山崎亮平はケガ。それからベンチ入りした指宿洋史もケガで、アップすらしなかった(!)。逆に復帰してきたのはDF先発のイム・ユファン、ボランチ先発の加藤大だった。こうね、入り口のとこに「ケガ人&ケガ明け一覧表」を張り出してもらいたかった。

 つまり、ホーム最終戦は「ケガでメンバーが揃わない2015アルビ」を象徴するゲームになってしまった。キックオフからバタバタの対応だ。湘南はFC東京、鹿島に勝ってきた自信と勢いがある。「1年やって仕上がったチーム」だった。対して新潟は急造チームに見えた。今季はずっとこの繰り返しだ。後手を踏んであわてる。呼吸が合わない。武器がない。まいったなぁと思ったのは、五分の競り合いで相手に見切られていたことだ。こっちはいっぱいいっぱいで、相手には余裕がある。

 前半30分、左サイドを突破され、ゴール前、跳ね返りの連続する「ピンボール状態」から湘南・高山薫が先制ゴール。後半24分には菊池大介に追加点を許し、イメージしていたのと真逆の展開だ。ケータイ速報を確認するとノエビアでは松本が1ー0で勝っている。ちょっと血の気が引いたなぁ。このまま終われば最終節・柏戦で地滑り的大敗もあり得る。松本山雅は連勝してくると思ったほうがいい。

 だから僕は「1点返せ!」と念じ続けたのだ。勝たなくていい。追いつかなくていい。せめて1点返せ。同じ負けるにしても負け方がある。0ー2でなく1ー2で終われば最終節、松本にプレッシャーがかけられる。泥臭いゴールでいいんだ。セットプレーで(交代出場の大野が)頭でねじ込むんで上等!「得失点差のきわどい残留」だって、やり遂げればクラブの経験値になる。ナビスコ杯の決勝トーナメントがホーム&アウェー「180分の戦い」なら、リーグ戦は90分×34節で「3060分の戦い」だ。

 が、ゴールの気配はまったくなかった。それどころか足が止まっていた。ひどい試合だと思ったよ。ホーム最終戦に駆けつけたファン、サポーターにお見せできる内容ではない。そのまま何も起きずに0対2でタイムアップしてしまった。これは最終節、J2降格を覚悟したほうがいい。

 そうしたらスタジアムでだけ顔を合わせる健さん(本当の名前は存じ上げない。男っぽい雰囲気なので、僕は勝手に男のなかの男、高倉健さんにあやかり「健さん」とあだ名をつけている)が立ち去り際、「神戸が追いついた…」と教えてくれた。え、マジか! そして健さん、終了と同時に席を立つって最終戦セレモニー見ないのか! それが健さんのダンディズムか!?

 健さんの言ったことは本当だった。神戸は後半40分、森岡亮太のゴールで同点、更に同48分、ペドロ・ジュニオールの決勝ゴールで2対1と逆転勝利する。ひと昔前と様変わりしたのは、(僕は依然としてケータイ速報だが)スタンドで皆、スカパー・オン・デマンドを視聴していたことだ。こっちが望み薄だと判断して、試合終盤ワンセグで「神戸×松本」を見ていた人がけっこう多い。

 で、そういう人が周囲に教えたんだね。試合が終わってしばらくの後、スタンドで歓声が起こった。ややあって場内アナウンスが松本山雅の敗戦を伝える。どうにかこうにか新潟はJ1残留を決めた。派手なガッツポーズもハイタッチもなく、皆、とにかく安堵のため息をついていた。


附記1、「健さん」が見ずに帰った場内一周&最終戦セレモニーですが、柳下正明監督の様子が気になりましたね。選手らの場内一周につき合って、サポーターに手を振ったのは初めてでしょう。挨拶の「残り1試合、全力で頑張ります」もつい意味を深読みしちゃいました。そうしたら週明け、退任のニュースです。あぁ、そういうことだったのかと思ったなぁ。やっぱり寂しいですね。

2、何かさっそく新聞辞令でホン・ミョンボさん、反町康治さん、チョウ・キジェさんらの名前が上がってますよね。果たして新監督はどんな方なんでしょう。あ、それはそうと来年2月、バンコクで開催される「トヨタプレミアカップ」で、アルビがタイリーグ王者と対戦することになったみたいですね。初の「アジアタイトル」に誰監督のどんなチームで挑むのか? 見に行きたいですね。

3、北書店トークイベントに参加された皆さん、どうもありがとうございました。何か佐藤店長、イスを借りてきて席数を増やしたみたいですよ。イベントの模様は新潟日報サイトに動画ニュースがアップされましたね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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