【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第282回

2016/3/17
 「発電と洗顔について」

 J1第2節(第1ステージ)、神戸×新潟。
 TBSラジオ『ナイツのちゃきちゃき大放送』出演の後、午後から鎌ヶ谷で取材を入れてしまい、今節は神戸へ行かなかった。と、なるとスカパーが頼りだ。ところが再加入の手続きをしないまま、ずるずる当日を迎えていた。で、帰宅の京成線車中でふとひらめいたのだ。TUNE IN RADIOで「ヴィッセルラジオ(Vラジ)」を聴いてみよう。これはヴィッセル神戸が自前運営しているインターネットラジオ中継だ。一昨年、ブラジルW杯でレシフェに長逗留したとき、スマホのラジオアプリをいじっていて発見した。ちなみにそのときは「南半球でエフエムしばたを聴取した最初の日本人」(加藤恵里花さん評)の栄誉をものにしている。

 たぶん楽天の関係だと思うが、ヴィッセル神戸と東北楽天ゴールデンイーグルスは自前のネットラジオ中継に積極的なのだ。どちらも全ホームゲームを無料配信している。おかげでレシフェでは朝6時から楽天×オリックスかなんか部屋で流していた。時差の関係で日本のナイターは「早朝野球」になる。「Vラジ」も聴いてみたかったんだけど、なかなかタイミングがなかった。今回は千載一遇のチャンスだ。

 僕は自他ともに認める「ラジオ人間」で、ラジオのスポーツ中継が大好きなのだ。ちなみにNHK-FMの「FMシアター」もたまに聴く。スポーツ中継もラジオドラマも絵がない分、勝手に想像をふくらませる余地があって面白い。だもんで当コラムでもFMポートの「アルビフリークLIVE!」やラジオ3の「ベガルタ仙台実況中継」等々を取り上げたことがある。昨シーズンはJ2の大一番「栃木×大分」(CRT栃木放送)に胸を詰まらせ、同入れ替え戦「大分×町田」(OBS大分放送)に涙した。ラジオのほうが泣けることもあるんだ。

 そして自前のネット中継はJクラブの未来をひらく可能性がある。既にYOU TUBEに選手インタビューや告知を上げる手法は一般化してるじゃないか。ネットで聴けるラジオ中継というと浜松エフエム(ジュビロ磐田)、三角山放送局(コンサドーレ札幌)が挙がるけど、純然と自前で、かつネットラジオに特化して取り組んでるのは「Vラジ」に尽きる。これはいずれ課金できるようなスポーツコンテンツに成長するかもしれないし、別のビジネススキームを展開するポータルになるかもしれない。

 で、定時にいきなり始まった「Vラジ」は本当に興味深いものだった。あ、「定時にいきなり」には説明がいるか。フツーのラジオ局とは違って、試合中継以外は停止しているステーションなのだ。選局してもずっと無音。で、時間が来るといきなり始まる。CMもなし。実況はフリーアナウンサーの林哲也さん、相方は松竹芸能所属の高島麻利央さん。二人は『GOGO!ヴィッセル神戸』(ラジオ関西)という応援番組のパーソナリティーであるらしい。

 斬新だったのは女性タレントの高島麻利央さんが「解説者」の役回りだったことだ。まぁ、中継のフォーマットは二人でやるならどちらかが実況担当になり、どちらかがコメンテーターになる。そのコメンテーターが高島さんの役だった。選手エピソードや監督、スタッフのコメント等を紹介し、試合に入ったら局面局面の戦術的な読みを披露する。かと思うと「危なーい!」「お願い、あー!」みたいなサポっぽいノリも見せる。すごく達者なタレントさんだった。実にこなれてる。「達者」も「こなれてる」もあんまりいい響きじゃないかもしれないが、誉めている。つまり実況を手の内に入れているのだ。

 実況席にOBの元プレーヤーがいたほうがおさまりがいいのはもちろんだ。が、予算の制約もある。三角山放送局のように実況者一人が全国のスタジアムへ出かけて、ディレクターから技術から一切合切こなしてくれたら低コストで中継が実現する。コスト面のハードルを下げる意味で、非OBの記者やパーソナリティーが「解説者」の役回りがこなせるかどうかは意外に重大だ。まして、高島さんは女性だ。「非OB」で「女性」っていう二重の難しさを抱えている。それがけっこう違和感なく聴けたんだから大したものだと思う。

 「発電してますかね?」
 例えば高島さんはこんなフリを発した。僕はぜんぜん知らなかったが、ノエビアスタジアムの神戸側ゴール裏の床面には発電システムが設置されてるそうだ。サポーターが飛べば飛ぶほど、電力が供給される(!)。この日、ヴィッセルは6点大勝だったから、さぞや発電のほうもはかどったに違いない。まぁ、アレだ、こういう小ネタだとかチームの空気感みたいなものは、ラジオの本領じゃないか。ラジオがテレビ中継より強いのはコミュニティの醸成力だ。「発電してますかね?」は仲間意識をかきたてる。あぁ、皆、飛んでるんだと思う。今日は頑張らなきゃと思う。いつもより発電して見えてるんだ、盛り上がってるなと思う。

 で、ここまでご覧になった読者はお気づきの通り、試合が始まって僕はものすごく後悔することになる。「Vラジ」なんか聴くんじゃなかった。前半9分、いきなりの失点も「おっと行け行け行け、落ち着いて~、やったぁ~!」なのだった。石津大介の積極性は語られるけど、何があったのかもうひとつわからない。まぁ、応援放送はそうなりますね。あとで映像を見て、小林裕紀が自陣深くで信じがたい奪われ方をしたと知った。

 前半45分の2失点目もあんな状況だとは思わなかった。絵を想像しながら聴くといっても、リスナーは常識的な展開しか想像できない。まさかGK守田達弥があんなに飛び出して、しかも奪われ、戻れず決められたとは。映像を確認するとDFも守田の突進に驚いて、ゴール前を固めていない。うまく行ってないなぁ。痛恨のミスで2失点だ。

 が、そこから新潟は3点取って逆転してしまう。まず前半ロスタイム、CKから指宿洋史が右足で一発回答! 新潟としては待望の「セットプレーからの得点」だ。昨シーズンはこれにどんだけ恋い焦がれたか。視点を変えれば、柳下正明監督時代からの宿題に「達磨アルビ」が一発回答したとも言える。非常に大きな出来事だ。

 で、前半は1対2で終了。そこからラファ2発で3対2とひっくり返し、レアンドロ、PJ2発、相馬崇人と4点決められ、最終スコアは3対6だ。わけわかんない試合なんだよ。後半は4-4-2にシステム変更して、それが奏功し、いったんは逆転に成功した。それが後半22分から28分の6分間にボッコボコにされる。6分間で3失点だよ。更に終盤、ダメを押される。

 守備が軽い。僕は「達磨さんになってマンツーマンからゾーンディフェンスに変わりました」みたいな大枠の話がしたいんじゃない。それはそれで練度を上げていく必要があろうけれど、この試合に感じた問題点はもっとシンプルものだ。責任取れよ。たのむよ。あんなの新潟の守りとは言えない。これは監督が変わろうが選手が変わろうが、きっちり要求すべきことだ。新潟の守りは魂が入ってるんだ。

 ひとつだけ情状酌量の余地があるとすれば、実戦不足だと思う。今年のキャンプは移動が多く、実戦数が少なかった。まぁ、タイでの経験自体は将来につながると思うが、もっとJリーグ勢と試合を組んで、トライ&エラーを積み重ねたかった。

 まぁ、公式戦が始まってJリーグ勢とは毎週当たってる(?)のだから、ここでトライ&エラーを積むしかない。魅力と欠点がいっぺんに出た試合だ。しっかりしろ、情けねーぞと思うけれど、別に凹みはしない。次節はホーム開幕戦だ。顔を洗って出直せ!


附記1、「Vラジ」が面白かったのは後半、得点を畳みかけたとき「ゴオオオールー!」みたいに絶叫する方向へ行かず、むしろ絶句してたところです。放送席がポカンとしちゃってた(だから聴いてた僕は失点したのかどうかわからず、ちょっとイライラした)。どうも昨シーズンはほとんど勝ち試合を放送できなかったらしいんですね。勝ち慣れていない。事情はFMポートの「アルビフリークLIVE!」中継に酷似してますね。ホームゲームの勝率が悪いと色んな人が困るってことです。

2、大敗を受けて翌日、さっそく聖籠で動きがありました。サポが「やられたらやり返せ、倒れても起き上がれ、達磨新潟」の断幕を掲示、リカバリー中のチームを鼓舞した。と、達磨さんが「すごく嬉しい。でも、倒れてないから」と返したっていうんだな。このエピソード、サポも達磨さんもいい感じだ。

3、その日曜日、FMポートは夕方、『スポーツスペシャル リアルアルビ~ホーム開幕直前 番記者SP』を放送、スポニチの渡辺直美さん、フリーライターの野本桂子さんが登場して、チームの雰囲気を語った。ナビゲーターは松村道子さん(昨年末の「ヤンツーインタビュー特番」素晴らしかった!)です。聴いてて向こうには高島麻利央がいるかもしらんがこっちには松村道子がいる、と思いました。

4、明けて月曜日(7日)、北嶋秀朗コーチが「本当に弱いチームなら0-2から逆転なんかできないだろうし、本当に強いチームなら3-2に逆転したら勝ち切れるだろう。まだまだ色んな部分で発展しなければいけないけれど、一人一人が強いチームになるための振る舞いを間違えなければ、俺達は必ず強いチームになれる。」とツィートしていて胸が熱くなりました。言葉を持ってる。そして発信力あるなぁ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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