【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第283回

2016/3/24
  「早春の烏屋野潟」

 J1第3節(第1ステージ)、新潟×横浜FM。
 デンカビッグスワンは快晴に恵まれた。待ちに待った本拠地開幕戦だ。早春の烏屋野潟に2万人が集結する。Eゲート前広場のあちこちで皆、「今シーズンもよろしく!」と挨拶を交わしている。僕も早めに着いてブリーラム戦の観戦仲間と再会した。あとAGFブースでブレンディ・スティックカフェオレ「勝てオレ」アルビ応援バージョンの列に並んだり、新潟日報ブースで「ホームファーストゴール投票」をしてみたり、セイヒョーブースで「笹だんゴール!」(三種類のイラストパッケージが選べる)を買ったり、売店前でビッグスワンのペーパークラフトをチェックしたり、つまり落ち着きというものがなかった。

 しばらくしてモバアルでメンバー発表があり、「ギュンギュンは?」の声がさざ波のように広がる。皆、先週発表された鈴木武蔵、松原健、黒河貴矢の戦線離脱にショックを受けているのだ。まさか山崎亮平まで? 幸いギュンギュンは故障ではないようだ。ヒザの様子をみるべく今節は大事を取ったと聞いている。

 開場時間になりスタンドが埋まってくると、スタジアムが生命をとり戻す。やがて恒例の「守田ダンス」が始まる。この人数がとんでもなかった。皆、サッカーを待っていたのだ。やっと3節になってホームゲームにありついた。その幸福感がダイレクトに伝わってくる。それからもうひとつは守田への大激励だ。開幕の湘南戦から少々不安定な守備が目についている。本当にたのむぞ、頑張ってくれよというところだ。

 この日、新潟は(長年馴じんだ)4-4-2の布陣に戻った。今季、吉田達磨監督は4-1-4-1との使い分けを構想しているらしい。前節は途中から4-4-2だった。この日は前めのMFが田中達也&加藤大の「機動戦士コンビ」だ。相手は堅守に定評のある横浜FMだ。フツーのことをやってちゃこじ開けられない。動いて勝機を見出す一手か。あと今季の新潟はセットプレーで点が取れるから、先方のお株を奪うFKゴールもいいな。ちなみに横浜FMは今季未勝利で新潟へ乗り込んできた。

 試合。始まってやっぱりこうなるのかと思った。横浜FMは引いて守りを固めている。前にどーんとスペースを空けといて、富樫敬真、遠藤渓太らを走らせるアイデア。プレスにも大して来ない。ので、新潟は今季初めてプレッシャーなしで自由にビルドアップできた。が、それは守備ブロックの外側の話で、内側は堅牢そのもの。縦パスが一本通せない。自然、外で回して、様子をうかがう感じになる。

 新潟は前半途中まで「支配してる」といえば支配してるし、「持たされてる」といえば持たされてるビミョーな時間帯を過ごす。仕掛けは何度も試みた。が、決定的に崩すには至らない。いや、決定的に崩さなくてもゴールさえねじ込んでくれればいいのだが、そういう強引さもない。ちょっと手詰まり感があったのだ。

 で、前半25分の失点シーン。横浜FMの狙い通りだ。DF早川史哉が富樫にスルッと入れ替わられてしまう。これは早川君のミスだろうけど、何であんなカンタンにやられちゃったかなと思うじゃないか。

 その疑問に元「サッカーマガジン」編集長・平澤大輔さんが答えてくれた。平澤さんは昨秋、BBM東京本社へ異動になり、小出での単身赴任生活に別れを告げた。嬉しいことにすっかりアルビびいきになり、「関東サポ」化して今日を迎えている。スカパー・オンデマンドにも「MYクラブ登録→アルビレックス新潟」で加入した由。では、久々の「平澤メモ」抜粋。

 「最初の失点は早川のミスでした。ミスだったのですが、むしろ決めた富樫を讃えたいと思います。マリノスから見て左にボールが運ばれていくのですが、その間、富樫はオフサイドポジションにいました。これは新潟が最終ラインを上げてオフサイドトラップをかけていたことによるのですが、富樫の動きを見ると、あえてオフサイドポジションに残っていたと思われます。
 早川はラインを上げる。富樫は残る。すると、2人の間に距離ができます。早川からすれば、相手はオフサイドポジションにいるのだから、距離が開いたとしても問題ないという判断でしょう。一方の富樫からすれば、自分がオフサイドポジションにいたことは分かっている→相手が離れてくれる→だからフリーになれる、という考えだったのではないでしょうか。
  次の瞬間、富樫は自分からボールを引き出します。もちろん、オンサイドのポジションに戻るようにするので、これでオフサイドではなくなった上に、早川との間にできていた距離を利用して先にボールに触ります。
 焦ったのは早川です。オフサイドになるはずがならなかった。相手との距離はある。でも、インターセプトを狙える……と思って前に出た瞬間に、富樫が体を上手に使って早川をブロックしてすり抜けてしまいます。
 早川がラインを上げるときに油断して相手との距離を詰めておかなかったこと、そして無理にインターセプトを狙ったことが判断ミスです。守備の基本はボールと自分のゴールの間に自分の体を入れることですから、戻りながら守備をすれば少なくともすり抜けられることはありませんでした。
 ただ、シュートは息を呑むほど美しかった。その意味では、早川が悔やむべきなのはシュートを打たれる前まででいいのではないでしょうか」(平澤メモより)

 なるほどねぇ。早川君は同学年の大卒ルーキー・富樫敬真(関東学院大)にやられたのも悔しい。生涯忘れられないビッグスワンデビューになった。このマッチアップは今後何べんも見ることになるだろう。火花散らす戦いを大いに楽しみとしたい。

 さて、先に失点して新潟は苦しくなった。先方はアクションを起こす必要がない。ミスを待ってればいい。横浜FMとしたら願ったり叶ったりだ。堅固な守りはなかなか突き崩せず、皆、フラストレーションをつのらせた。ラファエルが余計なイエローをもらったのもそのひとつ。

 これは厄介だぞと気をもんでいたら、後半2分、いきなり同点に追いついたのだ。それもセットプレーから! ショートコーナーからキャプテン小林裕紀がクロスを入れた。これをヘッドで決めたのはラファ! 3試合連続ゴールだ。戻りながらの難しいヘディングだった。さぁ、ビッグスワンの雰囲気は最高潮に達する。

 が、逆転の気運は長く続かなかった。後半17分、エリアで倒れたラファがダイブを取られ、2枚目のイエローで退場、10人対11人の試合になってしまう。達磨さんは伊藤優汰を入れ平松宗、酒井宣福を入れるが事態は好転しない。時計が進むにつれドロー逃げ切りが現実的な目標に思えていた。

 よく耐えてたんだけどなぁ。後半44分、CKから混み合ったところを斎藤学に蹴り込まれた。CKが三本連続して嫌な予感してたんだ。中村俊輔に三本もCK蹴られちゃ決められるなぁ。また敵の選手がななめに切れ込んだり、色んな動きをしてくるんだ。新潟の選手は基本、ボールを追ってるから敵の動きについていけてない。

 3試合で9失点。守備が課題なのは誰の目にも明らかだろう。まぁ、サッカーは攻撃と守備が一体だからチーム戦術面のそれはブレずに続けてもらいたい。サッカーのやり方自体を一から作り直す必要はない。チーム戦術ではなく、局面や個々人の戦術的対応があると思う。例えばセットプレー時のように守備だけ切り離して考えられる局面。これは改善の余地大ありだな。

 ただそんな専門家めいたことを僕が言ってもしょうがないね。二つ言いたいことがある。一つはナイスファイトだったこと。数的不利になってからの粘りはしびれた。守田も気持ちが入ってた。負けはしたけれどその姿は素晴らしかった。

 もう一つはね、特にラファに言いたいんだけど、感情に負けてちゃ一流にはなれないってことだ。チームを支える存在にはなれない。この試合ビデオを見て、今後戦う相手はどう思う? 守りを固めてラファエル・シルバをイラつかせればいいんだな、じゃないかな。


附記1、新潟日報ブースの「ホームファーストゴール投票」は僕、当てたんですよ。ラファって書いたもん。担当の方も運動面で連載持ってるヤツが応募してくるとは思わなかったに違いない。

2、翌朝のスポニチ(新潟版)が1面トップ「アルビ/今季一番のゲーム! 吉田監督手応え」で来たのには驚きました。負け試合ですよ。僕はあんまり「今季一番」とも思わないんだな。

3、未熟だけど4-1-4-1のほうがチームが生き生きして見えますね。勝ったからもあるけど、僕は断然、湘南戦が好きだなぁ。 

4、次節、柏戦は早くも「正念場」感ありますね。ただでさえ両チーム、結果がほしいところに、達磨さんの古巣対決やレイソルのメンデス監督電撃辞任(家族の健康問題)と要素がテンコ盛りです。間違いなく序盤戦のヤマでしょう。

 
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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