【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第284回

2016/3/31
 「意地と根性について」

 J1第4節(第1ステージ)、新潟×柏。
 どう考えたって注目のカードだ。Jリーグ日程が発表になってすぐ柏戦を探し、「おお、いきなり第4節か!」と興奮したものだ。言うまでもなく吉田達磨監督の古巣である。昨シーズン開幕時に時計を戻せば、達磨さんは「レイソルの新監督」だった。まさか翌年、新潟の監督に就任して、ビッグスワンでレイソルを迎え撃つことになろうとは。

 しかも柏レイソルは先週、ミルトン・メンデス監督が「電撃辞任」し、下平隆宏ヘッドコーチの監督昇格が発表されたばかりだ。第4節で何と「達磨さんの次の次の監督」が指揮を執る事態になった。これはもう古巣対決だの何のという次元ではない。僕はサッカー界の事情に精通してるわけじゃないが、この試合が実はものすごく大事なものをかけて戦われる一戦になると思う。最小限に見積もっても生存競争だ。「達磨アルビ」はこの試合を経験して一段磨かれるんじゃないか。

 昼前、新潟駅に到着したら雨だった。僕はそのまま駅南の食堂いちばん(フィンランドの田中亜土夢にLINE写真を送ったら「お、パワースポットですね」という返り)でオムライスを食べたんだけど、わずかの距離だと思って折りたたみ傘を出さずに歩いたらけっこう濡れた。その後、小雨に落ち着いたが、試合終了まで半日スッキリしなかった。気温は13℃ちょい。風があって寒かったせいだろうか、観客動員数が伸びなかった。この注目カードに1万4千人強だ。もったいないね。

 試合。最大のアヤは何かというとラファエル・シルバの欠場ではなかったか。ゴール量産、絶好調。このペースなら得点王も夢じゃないラファが(前節、レッドカードをもらった関係で)出られない。達磨さんは2トップの一角に戦列復帰の山崎亮平、前めのMFには田中達也、加藤大を配した。「機動戦隊」だ。僕はこれがハマッたと見た。

 特に田中達也が素晴らしかった。全盛期を思わせるキレと意欲。「機動戦隊」を引っ張ったのは間違いなく達也だ。高い位置でボールを奪い、攻撃につなげる。前半9分、レオのパスを受けて、遠めからファインゴールを決めた。前が空いたから迷いなく打った感じだ。この積極性。この短髪。

 前半は新潟が牛耳ったと言っていい。前半見せてくれたのがチームがやりたいサッカー、「16年アルビ」スタイルなんだと思う。出足がいい。出足でつぶし、奪う。セカンドを拾いまくる。すぐに攻撃が始まり、連動していく。これが90分続けられたら相当面白いぞ。問題は90分続かないってところだ。

 一般的に考えてもサッカーには試合の流れや波みたいなものがある。「相手の時間帯」に耐えていれば、いずれ自軍がペースを取り戻す(こともある)。この試合は前半、新潟が主導権を握り、後半になって柏に盛り返されるのだが、田中達也の負傷交代が響いた。「機動戦隊」の隊長さんがピッチから消えたのだ。

 で、後半に関して「隊長さんが消えた」以上の解説を求める向きには、吉田達磨監督ご自身のコメントをお伝えしよう。もっとしっかりサッカー的に解析するとこうなります。
 「後半、秋野(央樹)くんのところに後ろからのプレッシャーがまずかからなくなった。柏はサイドの選手をより張り出してきたというところで、真ん中のプレッシャーが前半ほど決まらなくなり、サイドのプレッシャーが若干遅れていきました。そこで田中達也に代わり、伊藤優汰が入ったんですけど、彼の投入で真ん中への守備とサイドへの圧力をもう一度高めようと思ったんですけど、彼はアタッカーの選手なので、なかなか守備のバランスを整えるところ、仲間に何かを発するところでちょっとうまくいかないところが出てきた。秋野くん、大谷(秀和)くんのところにプレッシャーをかけられなかったのが(要因)。サッカーには流れがあるので、相手の流れの中でも、もう少しこっち寄りにできたんじゃないかなと思います」(監督会見より)

 後半の2失点はほぼ同じ形だった。フリーでクロスを上げられ、なかで競り負け、キーパーも弾き出せない。毎試合これだもんな。今日もこれだもんな。

 この日、センターバックに増田繁人がスタメン起用された。十分合格点を与えられるプレーぶりだったと思うが、先制してひっくり返されたのは猛烈に悔しかった。で、もうひとりそれに輪をかけて悔しがってたのが大野和成だ。ぜってー負けねぇ。心にそう誓った好漢2人が試合終盤、大仕事をする。

 ロスタイム1点ビハインド、もう上がるしかない。なりふり構っていられるか。サポーターは小雨のなか、大声援を続けている。時間がない。酒井高聖が放り込んだ。それを増田が折り返し、駆け込んだ平松が無理繰りシュートする。で、キーパーのこぼれに大野が身体ごと突っ込んだ。すっげぇ。大野和成、新潟での初ゴールは起死回生の同点ヘッド! 意地と根性だ。最高に泥臭くて最高に泣けるゴールだ。

 注目の一戦は2対2のドローで決着した。両軍スタッフが試合後、抱き合い握手し、健闘をたたえ合った姿が印象に残る。達磨さんも下平さんもいい顔をしていた。


附記1、この柏戦は僕にとってもチャレンジでした。「青春18きっぷで新潟日帰り観戦」です。これまでは甲府や清水がせいぜいです。あ、いっぺん仙台に挑戦したか。とにかくね、「南千住⇔新潟」は初めてですよ。ざっくり言って合計16時間以上、電車に乗っていた。ま、ブラジル行くよりは近かったな。で、料金が笑いますよ。「11850÷5=2370」だから片道にすると千円ちょい。

2、という計画があったんで先週の高崎線・籠原駅火災と2日に及ぶ運転見合わせには気を揉みました。

3、ちょっとデリケートな話。僕も(個人的には)指宿洋史選手の例のシーンはPKじゃなかったかなと思います。また前節・横浜FM戦の決勝点は(当日、ごちゃごちゃしてわからんかったけど)録画を確認してみるとオフサイドだった気がしてしょうがありません。だから気持ちはすごいわかるんです。わかるんですけど、スタジアムで常態化している「退場する審判団へのブーイング」はちょっと困ったなと感じています。ま、ブーイングしてる人にしたら「常態化してるのはミスジャッジのほうだよ」となるんでしょうけど。あんまりアルビレックスは得しないと思うんですよね。

4、ナビスコ仙台戦は0対1の負けでした。引かれて打開できない、ちょっとフラストレーションのたまる内容でしたね。スタメン出場のGK・川浪吾郎選手が張り切ってました。日曜日の鳥栖戦は僕も参戦予定です。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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