【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第285回

2016/4/7
  「正直な木こり」

 ナビスコ杯第2節(Bグループ)、新潟×鳥栖。
 国際マッチデー・ウィークに合わせ、リーグ戦は休止、チームは先週ミッドウィークからナビスコ杯のグループステージを戦っている。第1節・アウェー仙台戦は大幅にスタメンを組み替え、0JT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の様相を呈した。実戦のなかで新たな選手を試し、また組み合わせを模索したりする機会だ。試合自体は支配しつつ攻めきれないという、フラストレーションのたまる内容(0対1で敗戦)であった。

 注目ポイントはU-23代表ポルトガル遠征に招集された小泉慶の「抜けた穴」じゃないだろうか。僕は小泉がU-23代表でもチームでも右SBを任されてる状況にまずびっくり仰天する。U代表もチームも松原健のケガは大誤算だ。U代表はそこに室屋成(明大退部→FC東京)のケガが加わる。チームは川口尚紀を清水へレンタルに出してしまって、やむなく(本職SBではない)小泉を起用していた。が、何が幸いするかわからない。小泉は「ポリバレント」(複数ポジションがこなせる)な選手としてリオへ行く可能性が出てきた。

 新潟にとって右SBはもともと手薄な箇所だ。オリンピックで小泉不在の期間が生じるという風に仮定すれば、今、このナビスコの実戦を使って色々と試しておきたい。仙台戦では酒井宣福が試され、鳥栖戦では早川史哉が試された。僕は早川は充分行けそうだと思ったなぁ。宣福は前で起用したほうが強味が生きる気がした。まぁ、どちらも相手あってのことだし、一戦見ただけで判断できるものじゃないけれど。

 だもんでナビスコ鳥栖戦は見どころ満載だったのだ。テーマを列挙しよう。本拠地での公式戦初勝利。守備戦術の変更(マンツーマン→ゾーン)にまつわる混乱の解消。GK守田とDF陣の連携確認、及び自信回復。「堅守」型チームの攻略。前めのベストマッチングを探る。控えFWのポテンシャルを見る。こう言っていくと「全部」と表現したほうが早いのかもしれない。「全部」が見どころ? では木こりよ、どういう試合がお望みかな? 川に落としたのは金の斧かな銀の斧かな? 正直に言いなさい。

 木こりは答えた。「ウノゼロ(1対0)の本拠地初勝利が見たいです。前線では平松宗が全力を出し切り、中盤では小塚和季から加藤大に素晴らしいパスがつながり、後方では大野和成、増田繁人が身体を張り(あ、大野カズが豊田をはじき飛ばすのでいいですか? 是非お願いします)、守田達弥はサポの大声援を受け、神がかりのスーパーセーブを連発する。え、決勝点ですか? そうだなぁ、レオ・シルバでお願いします。レオが決めて、達磨さんやスタッフが大騒ぎっていうのが見たいです」
 女神の確認。「じゃ、ご注文を繰り返します。ウノゼロ、本拠地初勝利etc。あ、達磨さんの戦術ボード投げはオプションになりますが、どうなさいますか?」
 木こりは答える。「戦術ボード投げ、トッピング追加でお願いします。磁石拾いは『途中であきらめる』のほうで」
 女神にっこり。「ありがとうございます。承りました」

 と、もう女神なんだかファミレスの店員なんだかさっぱりわからないが、とにかく「正直な木こり」の願いが聞き遂げられたと思ってほしい。そんな試合だったのだ。読者よ、やっぱり正直がいちばんだなぁ。

 僕はちょっとわかりかけてきたのだが、「達磨アルビ」がひとつ勝つのはものすごく大変なのだ。未熟でアラはあるし、うっかりミスも多いし、試合運びも下手だ。第一、まだベストメンバーも定まらない。ネガティブに考えようとすればいくらでもネガティブになれる。

 が、すごくいいところもある。感動する。プロなのにサッカー部みたいだ。気持ちが入っている。あるいは勇気を奮い起こして戦っている。この日は守田と平松が泣けた。この日、デンカビッグスワンに来た人は(特別、サッカーに詳しくなくても)彼らのハートの部分がわかったと思う。意地だとかね、決意や覚悟だとかね。びりびり伝わるものがあった。

 たぶん皆、見終わってすごく疲れたと思うのだ。僕もぐったりした。感情移入させるし、最後まで心配させるんだなぁ。それは達磨さんが先頭切ってそうだよね。僕はブリーラム戦から見てるけど、ずっと何か投げてる(ブリーラム戦はノート)。いちばん気持ちを出して、言っちゃアレだけど落ち着きがない。僕は退席食らわないかとハラハラして見ている。最高の男だよ。見ていて本気が伝わってくる。

 だから、木こりは達磨さんなのかもしれないね。うそのない、本気の木こりだ。で、勝利の女神は達磨さんに「本拠地初勝利」を授けた。その瞬間が見られたのは(ぐったりはしましたけどね)サッカーファン冥利ってもんだ。

 粘り強く行こうじゃない。どうせこの先も山あり谷ありだよ。とりあえずリーグ戦で福岡、磐田の昇格組と当たる直前に完封勝利ができてよかった。ポジティブな気持ちで福岡へ旅立てる。酒井宣福を育ててもらったお礼をしないとね。


附記1、大型FW、カリウ(クリシューマ)の加入を楽しみにしていたら、今週突然、野津田岳人(広島)の期限付き移籍が発表され、イスから転げ落ちそうになりました。アルビレックス新潟すっげぇ! これ、森保さんが野津田選手に新潟をすすめてくれたんだとしたら嬉しいですね。

2、しかし、カップ戦ユニ、勝率すごいですね!!

3、この日も僕は青春18キップでした。で、これが残念なことに(朝、4時台の)始発に乗ってもレディース開幕戦のキックオフに間に合わないんですよね。あきらめて長岡で途中下車して、松キッチンで洋風カツ丼食べました。いつか試合後、ごろえんって店に行ってみたいと思ってます。

 
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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