【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第287回

2016/4/21
 「2PKと2DKはかなり違う」

 J1第6節(第1ステージ)、新潟×磐田。
 前半終わった時点では互角か、新潟が押してる印象の試合だった。ネットのプレビューでは「(ミッドウィークに)0-5と大敗したナビスコ川崎戦」の後遺症が云々されていたが、それは全く問題ではなかった。やっぱりレオがいると違うな。新潟は指宿洋史の欠場(股関節の違和感)もあって、ラファエル&山崎亮平2トップの「4-4-2」に布陣した。狙いはシンプルにDFの裏を突くイメージ。

 「前半は田中達也のポジションがつかみ切れなかった」と磐田・名波浩監督がコメントされていたが、キレキレの達也は相手にとって最も厄介な存在だった。前半最大のチャンスは30分、敵のクリアが大井健太郎に当たり、ちょうどプレゼントパスのように達也の前にこぼれたシーン。あとは決めるだけだったが、左足のシュートはちょっと力んでしまった。

 磐田側の狙いも徹底していた。「ロングボールをジェイに供給」だ。僕の世代は磐田の黄金期を知っているからなかなか感慨深いものがあった。あの流麗なパスサッカーのジュビロ磐田が(「N-BOX」の中心、名波浩を監督に据えて)リアリズムに徹したサッカーをしている。時間帯によっては新潟がポゼッションを握って、組み立てている。これは「名波さん恐るべし」じゃないか。理想は理想で携(たずさ)えつつ、いったんジュビロ黄金期の幻影を頭から消し去っている。

 二人の野心に満ちた若い監督が対峙している。吉田達磨と名波浩。率いているのはともに経験の浅いチームだ。磐田は(新潟から帰参した)大井や山本康裕がベテラン・中堅層という年齢構成。で、面白いことに両軍とも、この日はシンプルな攻めを構想していた。もっと言えば「相手がシンプルな攻めで来ることを想定して、尚かつシンプルな攻めで行こう」と構想していた。ちょっと意地の張り合いみたいなところもあった。その結果、何が起きるかというとハイテンションな攻守の交替だ。一発勝負でサイドの裏にボールを通し攻め込んだと思ったら、奪われて一発勝負で自陣深く攻め込まれる、といった連続だ。

 どっちが先に結果を出したかというと新潟だった。後半3分、ラファエル・シルバの先制ゴールが決まる。中盤で奪って、山崎亮平がななめに持ち込んでスルーパス、左サイドを上がったレオが敵を引き付けて更にパス、ファーに駆け込んだラファが決める、という見事な崩し。デンカビッグスワンは春の歓喜だ。スタンドもベンチも爆発的に沸き返る。

 と、そのわずか1分後(後半4分)、エリアまで持ち込まれてPKを献上、ジェイに同点ゴールを許してしまうんだな。これは何だろう。暗転とでもいうのだろうか。サポーターはラファゴールに酔い、チャントを歌い、あるいはハイタッチし終わったくらいのタイミングだった。あれっ、自陣深く運ばれてる。あれっ、主審がPKのジェスチャー? 誰もがキツネにつままれたような感じだ。何で1分後にあんなところまで攻め込まれた? 1分じゃカップラーメンもできないよ。

 映像で確認するとこのPKはちょっときびしい判定ではあった。審判によっては取らないかもしれない。が、もちろん取るかもしれない。それよりもそんなギリギリの瀬戸際までボールを運ばれ、一か八かの勝負に行ってる状況がおかしい。ゴールの歓喜の後、気持ちが緩んだのだと思う。それを磐田は鬼のように突いてきた。その愚直さや意思はあっぱれだ。こっちに甘さがあって、向こうはタスクをやり切った。

 形勢が一変する。磐田が活気づき、新潟は後手にまわる。ジェイがボールの受ける位置を変えたらしく、おさまるようになった。といってまだスコアもイーブン、どっちに転んでもおかしくない状況だ。敵将が先に動く。後半16分の松井大輔投入(アダイウトンOUT)。結果的にこれがハマッた。

 後半19分、エリア内にこぼれたボールを松井が追う。松井は間合いをはかり、たぶんDFを飛び込ませようと誘っていた。と、GK守田達弥がそこへ猛然と飛び出していく。意図としては「ボールに先に触る」だったと思うが、ラグビーの低いタックルみたいに見えた。松井がバランスを崩して転ぶ。主審はPK判定。ジェイがまたしても決めて、何と新潟は2PKで逆転を喫する(!)。

 指摘せざるを得ないのは守田の軽率な飛び出しだ。前節・福岡戦のウェリントンのときは見逃してもらえたけど、今度は取られた。飛び出しの判断がちょっとおかしい。またあそこまで飛び込んでしまうと「あっさりかわされてパス→無人のゴールに決められる」というリスクだって高い。主戦GKとして試合が作れていない。「守田ダンス」の人気者だけに皆が復調を願ってるよ。

 というわけで「2PKで逆転負け」だ。つまり自滅。ホームでのリーグ戦勝利はまたもお預け。苦しいところだね。うまくやれば勝てた試合だった。達磨さんの指示で印象に残ったのは「落ち着け」ということ。チームの若さだろう。奪った勢いで攻め、ゴール前で余裕がない。あわててアバウトになる。スワンの大声援でアドレナリンも出ている。だけど、ハートは熱くても頭は冷静でないとね。

 それから落ち着かせる役がいたらなぁと思った。現状、それはレオや小林裕紀なんだろうけど、相手に流れが傾きかけたとき、局面を落ち着かせる存在が必要だ。この日のイメージで言うとレオは火消しで手いっぱい、ラファはイライラしてカンシャクを起こしかけてる。もうね、皆、やばいなぁと感じ始めた時間帯、そこで何とかしてくれる存在だね。「闘将」タイプじゃなく、遠藤保仁みたいに別のこと考えてるタイプでもいい。試合運びがあまりにも拙い。それで結果がすごく変わると思うな。


附記1、タイトルと本文は特に関係ありません。まぁ、あえて「2PK」をマンションの間取りだとしたら、2ルーム&ペナルティキッチン(自炊できる牢獄?)でしょうか。引っ越しましょう。

2、でも、僕はヤングアルビレックスがいつか「自炊できる牢獄」から卒業し、羽ばたいてくれると信じている。←って言ったら気分が尾崎豊っぽいのは何故なんだ。

3、この日は亀田製菓デーでした。「ターン王子」や「たねっち」「ぴーなっち」勢ぞろいでしたね。僕は「ターン王子」と記念写真撮りました。「おばあちゃんのぽたぽた焼」のおばあちゃんは「おばあちゃん」でいいんですかね?


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

photo
 


ユニフォームパートナー