【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第289回

2016/5/5
  「男になれ!」

 J1第8節(第1ステージ)、名古屋×新潟。
戦前の評判は「勝ちから遠ざかってる者どうし」のガチンコ勝負だった。順位もほほ同じ。かたやレオ・シルバ(累積)かたや楢崎正剛(ケガ)と中心選手を欠く事情も似ている。ともに新監督を迎え、チーム再建に着手しているところだ。が、「着手している」というエクスキューズ(言い訳)もそろそろ時間切れになりかかっている。結果が欲しい。手にすることで更にプラスの結果になっていくような、最初の手がかりが欲しい。両軍にとって喉から手が出るほど「獲りたい試合」だ。いや、そうであるはずだった。

 そうであるはずだったというのは、ぜんぜんそうじゃなかったからだ。スコア上は1対2の僅差で決したのだから、一見、白熱したクロスゲームだったように見える。白熱はしなかった。内容的には凡戦、勝負としては完敗。僕は実のところ、この原稿を既に十回くらい書き直している。どう書いたらいいか迷ったのだ。そして、心を鬼にして書こうと決めた。

 まず、大前提の話。新潟はいつからあんなに戦わないチームになったのだろう。最初のうちこそ五分にやり合っていたけど、何だか知れないが次第に気弱になっていく。レオがいなくて不安なのか。シモビッチの高さや永井謙佑の速さが怖いのか。敵のプレスにびびったのか。

 戦わなければ守勢にまわる。押し込まれて余裕のないプレーになる。最初の失点(前半25分、シモビッチ)はそういう流れからだった。自陣で大野和成のパスがあっさりさらわれた。パスが弱かったのもある。受け手の小林裕紀(復活スタメン)も軽かった。そのときの和泉竜司のシュートはポストを叩き、いったんは何とか助かった。

 が、「助かった」は観客が思うことでピッチの選手が思っちゃいけない。それを舞行龍(復活スタメン)がテキトーにクリアしちゃうんだなぁ。誰もいない右サイドに。タッチに蹴り出すのでもなく。非常に雑でもあるし、試合形式の練習でもやってるような軽さも感じる。これを高橋諒にさらわれ(このとき、ラファエルは寄せに行かない)クロスを入れられ、和泉がスラしてシュート。GK川浪吾郎が弾いたところにシモビッチが詰めた。

 その失点から更に腰が引けてしまうんだ。悲しくなった。忘れたら困るよ、アルビレックスは新潟の誇りなんだ。瑞穂のスタンドで直射日光に焼かれるサポはあんな不様な姿を見に来たんじゃない。

 達磨さんはハーフタイムに檄を飛ばしたようだ。手元にコメント資料が届いて、やっぱりなと思う 。
 「アルビレックス新潟 吉田達磨監督 
・できると思わなければできない。同じことを繰り返さないこと。
・距離感を大事に。セカンドボールに集中しよう。
・俺達はプレーをしに来たんだ。後半は男になれ! ひとつになれ!」

 といって後半、劇的に状況が改善したかというとそうでもない。後半16分、自陣でプレスを受けた小林が左にパスをさばく。このパスが弱くて、またも和泉に突っかけられ、こぼれを永井謙佑に拾われて、中央まで持ち込まれロッベン(バイエルン)ばりの豪快なシュートを叩き込まれる。

 率直な疑問。名古屋の狙いは明らかに「つないで来るから、パスを奪って即攻撃!」だったと思う。前半からミドルシュートも打ってきたし、ショートカウンターの連続だった。僕が「腰が引けてる」と形容したのは、たぶん狙われて疑心暗鬼になってるチームの姿だ。「ヤバい、狙われてる」「危ない」「つなげないよ」etc。そんな不安感が伝染してる感じだった。

 これは大方の読者が感じている通り「レオ依存症」だ。普段ならレオが何とかしてくれる。奪い返して持ち出してくれるし、預ければ落ち着かせてくれる。で、そりゃレオに頼ってばかりじゃいけませんよ、なんだけど、現にレオがいなくて大慌てしてるんだ、自陣からつながなくていいんじゃないのかな? 小林が狙われた2失点目なんか、ロングボール蹴ればよかったんじゃないか? それは戦術的にブレたってことにはならない気がするのだが。

 いや、これは指揮官の考え方なんだよ。「相手がこう来るからこうする」という柔軟性。達磨さんは戦況に合わせ、システム変更やポジション変更を用いる監督で、それはこの日も見られた。だから「相手がこう来るからこうする」は大いに持ってるんだ。だけど、狙われてるのに「自陣からつなぐ」は引っ込めない。「男になれ!」と檄を飛ばして、貫徹させようとする。ここが肝なんだな。

 指揮官の考えといえば、小林裕紀、舞行龍(ともにケガ明け)のスタメン起用は完全に裏目に出たと思う。(勝敗は変わらなかったかもしれないが)前節、頑張った小泉慶、増田繁人でよかった。特に小林はフェイスガードを着けて強行出場し、あの凡ミス連発は不本意だろう。ていうかミスはミスで起こり得ることなのだ。いちばん「裏目」なのは小林、舞行龍がミスをして、皆に不安が伝染することだった。

 後半19分、端山豪(初スタメン、FW起用!)のゴールで1点返し、終盤、名古屋の足が止まったところで猛攻を仕掛けるが、敵GK・武田洋平の好セーブに阻まれた。名古屋・小倉隆史監督は「最後は武田さまさま」とコメントしている。ちなみに名古屋は前節・福岡戦が熊本地震の影響で中止になった後、ミッドウィークにナビスコ予選を戦って中3日だった(新潟はナビスコ休みで中1週)。27.2℃の夏日、最終盤、足が止まるのは充分考えられた。

 だから名古屋は「出来はともかく勝ち点3を死守」したのだった。それが最大のミッションだった。新潟は得るところがなかった。これで公式戦4連敗、リーグ戦3連敗。リーグ戦4分の1が終了で、勝ち点7。このペースだと7×4=28。黄信号点滅だ。どうしたもんじゃろのう。


附記1、踏ん張りどころですね。試合後、ゴール裏に来た小林裕紀キャプテンの目に涙がありました。浮上のきっかけが欲しいなぁ。甲府戦マジで重要ですね。

2、この日の名古屋は本当に暑かったです。僕は岐阜に前泊して会場入りしました。養老鉄道の終点、揖斐(いび)駅。地名でいうと岐阜県揖斐郡揖斐川町ですね。ここはお茶が取れるところで、「揖斐茶」っていうんですが、地元の小さな和菓子屋「揖斐菓匠庵 みわ屋」で、その揖斐茶を惜しげもなくふんだんに使ったまんじゅう、その名も「いび茶おし饅頭(イビチャオシマズ)」という、サッカー偏差値のめっちゃ高い商品を出してるんですよ。木村元彦さんにも写メしました。まぁ、イビチャ・オシムさんに食べていただく機会はちょっとないんだろうなぁ。えーと、だから僕は暑いパロマ瑞穂競技場の記者席で「いび茶おし饅頭」が悪くならないだろうなぁと、そっちも気が気じゃなかったんですよ。

3、この日、瑞穂で熊本地震の募金活動が行われました。アルビも居残り組が動いてくれたみたいですね。次節はビッグスワンで義援金募金を呼びかけます。是非、ご協力下さい。ロアッソ熊本を思うと胸が痛みます。「黄信号点滅」なんて言ってられるのはぜいたくなことかもしれません。一日も早く状況が落ち着いて、「うまスタ」がサッカーを取り戻すことを願ってやみません。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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