【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第290回

2016/5/12
「実戦先生」

 J1第9節(第1ステージ)、新潟×甲府。
 13位甲府と14位新潟の「川中島ダービー」。これが秋なら残留をかけた6ポイントマッチだが、GWの初戦だ。そう窮屈になることはない。今は実戦のなかで学び、成長することではないか。「実戦先生」だ。ときに授業料が高くつくことはあるが、学ぶことで次のステップへ行ける。学ばなければ同じ過ちを繰り返すだけ。

 この試合のポイントは煎じ詰めれば2つ、「5-4-1と守備を固めてくる甲府をどう攻略するか」と「甲府のカウンター&セットプレーをどう防ぐか」だった。前半14分、いきなり守りにほころびが出てしまう(得点者・田中佑昌)。クリスティアーノというスーパーな選手にやられたと表現することもできるが、「相手が悪かった」ではいつまでも進歩がない。セットプレーからの失点はここ何戦、繰り返されてきた形。これは対策を徹底しよう。

 勝負のアヤはすぐ同点に追いついたことだったと思う。同18分、セットプレーでお返し。加藤大のFKのボールを大野和成が競って、こぼれを田中達也が押し込んだ。甲府に先制されて抱え込んだストレスから一気に解放された。あのまま守りを固められ崩せずに、1点ビハインドのままあせりを募らせていたらどんなに苦しかったろう。

 「実戦先生」の教えてくれたこと。アンカー役の小泉慶が抜群の出来だった。吉田達磨サッカーの大事なピースが埋まった瞬間ではないか。カバーリングの早さ、的確さは目を見張った。チームに軸が出来た。これはこの先、大いに楽しみである。

 「実戦先生」の教えてくれたことその2。交代出場の野津田岳人の「勝負パス」。チームは後半、またもクリスティアーノにやられビハインドを背負った。こちらも攻めるが、一本調子なパスばっかりで甲府の堅守を崩せない。そうしたら、途中投入された野津田がリズムを変えてみせた。ドーンと縦パスを入れて、指宿洋史が受けて一拍つくり、その間で加藤が飛び込んでシュートに行く。これが幸運にも甲府のオウンゴールを誘った。

 スカパー解説の水沼貴史さんが「これは広島でやってたからですよ」とコメントした。広島のパス(!)。水沼さんは新潟の攻撃について、パスの距離、強さ、リズムが単調で、アイデアが足りないと言う。ワンタッチでつなぐとか、横に振る等の変化をつけるべきだと言う。で、野津田のパスだ。タイミングを変え、一気に距離をつめる縦パス。この感覚は素直に学ぼう。練習から合わせていけば達磨サッカーはグンとステップアップする。2対2のドロー。


 J1第10節(第1ステージ)、鹿島×新潟。
 ラファエル・シルバ欠場(肉離れ、全治6週間)が発表され、このタイミングで上位勢と当たるのかぁと愚痴りそうになり、ハッとする。アウェー鹿島戦は決して相性悪くない。ていうか、新潟は上位勢を食うのが芸風だったじゃないか。鹿島、G大阪、浦和、川崎と続く「強豪さんシリーズ」できっかけをつかみたい。今日が大事だ。今日、ボコられたら泥沼に陥る。逆に今日やり合えたら気持ちが前向きになる。もちろん勝つのが最上。

 指宿洋史1トップの4-1-4-1。野津田岳人が新潟初スタメン。アンカーは当然、小泉慶が務め、CBは大野和成と増田繁人(舞行龍はベンチを外れる)、そしてGKに守田達弥が戻った。達磨さんはそれでも守田を買っているのだ。「強豪さんシリーズ」の大事な初戦に守田を持ってきた。是が非でも復調させたいという起用。守田の心情を思うとひりひりするものがある。勇気をふりしぼってピッチに立つ。もうミスは許されない。さあ行こう守護神守田、俺たちのゴールを守れ!

 で、フタを開けたら充分やり合えていた。たぶん鹿島もこのところ結果が出てなくて、出来としてはイマイチだったろうと思うんだが、それにしてもやり合えていた。サッカーになっていた。ちょっとしたエアポケットを突かれてカウンターから失点(前半22分、得点者ジネイ)したけれど、それは試合ではあり得ることだ。やり合うというのは負けずに攻めるって意味だ。

 後半21分、増田のヘッド(打点高い!)で同点に追いつく。CKからの得点は今季手にした武器と言える(昨シーズンまで望み薄だった)。同点から先は男の勝負だ。達磨さんの勝負手は伊藤優汰か端山豪か、はたまた平松宗か。僕は漠然と端山投入を想像していた。

 が、交代策は後半33分、酒井宣福OUT小林裕紀IN。僕は一瞬、「ゆーきこばやしにサイドバックやらせる?」と目を丸くした。もちろんそんなことはない。小林がボランチに入り、小泉はSBにポジション替え。この一瞬の隙だった。酒井の足がつっての交代だったが、ほんの少し景色が変わった隙を突かれた。後半34分、金崎夢生スルー→西大伍シュート。これが決勝点だ。

 「実戦先生」の教えたくれたこと。右サイドバックは補強が必要。雨漏りの応急処置では足りない。あの2点目は小泉慶(ずっと効いていた!)にも小林裕紀にも、もちろん達磨さんにも残念すぎる。打てる手を打って競り負けたんだったらまだ納得もいく。補強のアテはないかなぁ。

 「実戦先生」の教えてくれたことその2。2失点してしまうと途端に勝ち目が薄い。ポカやエアポケットがあっても1失点まで。むろん無失点が最上だが、「2対1で勝つか1対2で負けるか」と想定するのが現実的。2対1で勝つ努力を。

 まぁ、やり合えたことを評価する一方で、やり合えたのに負けたことを問題視する発想はあってしかるべきだ。「○○の大ポカ」みたいなハッキリした敗因が挙げにくい分、こっちのほうがたち悪いとも言える。しかし、練度ってなかなか上がらないな。まだパスコース探して、プレスに引っかかってるもんな。


附記1、ゴールデンウィークの鹿島遠征は渋滞すごかったです。特に帰りは駐車場出るのに1時間、高速乗るまでに1時間、おまけにディズニーランドの営業終了にぶつかって東関道でまた詰まった。片道5時間コースは記録ですね。

2、鹿島戦の朝、関東地方は台風並みの悪天候でした。あれが前倒してくれて助かりましたね。前線通過後はカンカン照りの夏日で、強風だけ残りました。

3、英プレミアリーグのレスターシティー優勝は素晴らしいですね。人口30万足らずの街ですよ。リネカーの出身地として知られる程度の土地だった。世界じゅうの地方クラブの夢ですよ。またその歴史的快挙に岡崎慎司が加わってる事実!

4、そういえばブリーラム戦でタイへ行ったとき、空港でキングパワー免税店を見かけました。レスターのレプリカユニ売ってて、何でタイでプレミア?と思ったものです。胸スポンサー、っていうかオーナーだった。記念に買っとけばよかったなぁ。
 

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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