【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第291回

2016/5/19
 「距離感」

 J1第11節(第1ステージ)、新潟×G大阪。
 スタメンが発表され、うわ、すげぇと思った。新潟日報の予想スタメンともだいぶ違っている。ラファだけじゃなく、イブもコルテースもいない。平松宗(今季初スタメン)と前野貴徳(同リーグ戦初スタメン)の大胆起用だ。舞行龍はどうも右SBに入り、宇佐美貴史とマッチアップするらしい。GKは守田達弥だ。そりゃもう因縁の宇佐美を沈黙させてほしい。

 ガンバ戦は燃えるなぁ。うっかり宇佐美の「忍者ゴール」(昨シーズンの第1ステージ第7節、宇佐美はFKを止めた守田の背後に潜み、味方への指示に気をとられボールから手を離した瞬間、かっさらってゴールした)を思い出してカーッとなった。ACLの影響か、今季はガンバも2ケタ順位からなかなか浮上できない。だからガンバ戦は「強豪さんシリーズ」であると同時に「順位の近い相手シリーズ」でもあるという、面白い戦いだ。

 僕はこれどういう意図なんだろなぁとスタメン表をにらんで興味津々だった。これも「試合の一部」だ。ていうか、試合前の一週間、空想をめぐらして強気になったり弱気になったりするところから「試合の一部」だ。当コラムは先週から「実戦先生」(実戦を通じて学び、成長する)方式を採用しており、それには事前の空想というか妄想というか、まぁイメージングが不可欠だろうと思う。「こうなるんじゃないかなぁ/それともこうかなぁ」→「こうなりました」→「なるほどなぁ、実戦先生勉強になりました」。このループだ。

 ガンバ戦で僕がイメージしたのは中盤の戦いだ。遠藤保仁、今野泰幸という日本を代表する2ボランチがターゲットだ。ここをつぶしまくる。仕事をさせない。やりにくくする。特に遠藤はガンバの強みであると同時に弱点でもある。遠藤のところをつぶせばガンバは半ば機能不全に陥るだろう。但し、それは誰もが思うことだ。実際にはどうやる? 

 スタメンを見てレオと小泉慶を当てるんだなと思った。「4-4-2」だ。遠藤、今野を新潟自慢の2ボランチが迎え撃つ。特にね、ガンバサポの皆さんには「小泉慶」の名前を覚えて帰ってもらうことになりますよ。必ずあのワカゾー面倒くさいと思うことになりますよ。

 2トップは山崎亮平と平松宗。試合後、吉田達磨監督は2トップにした理由を問われ、そのひとつに「遠藤、今野のところにいいボールが入らないように」を挙げている。ちなみに理由はあと2つあって「うちの選手たちの走力、走って出ていくところを最初からフル回転で行きたい」「サイドバックが藤春も米倉も出てくるので、その後ろにしっかりランニングできる選手で構成」だ。僕は試合前の時点で「マトが2つになる強み」を想像していた。

 さて、「実戦先生」が教えてくれたこと。現在のベスト布陣は間違いなく「4-4-2」だ。開幕したての頃は「4-1-4-1」のほうが生き生きして見えたこともあった。が、選手も揃わない今は完全に停滞している。この試合は序盤をしのいだ後、完全に新潟ペースで終始するのだが、これは「4-4-2」の安定感がもたらしたものだ。

 僕の目には攻守にわたって大変スムーズに見えたんだけど、この「4-4-2」の効用は何なのか? 単に「長年やってて慣れてる」じゃ具体的なところがわからない。解像度を上げて、「4-4-2」問題を解析してくれたのは(毎度お世話になります)、元サッカーマガジン編集長・平澤大輔さんだ。これがね、論旨明快。

 「理由は『距離感』。選手と選手のラインは、どの組み合わせも適切な距離を保てていて、それが間延びしたり近すぎたりしませんでした。これでマスゲームにも似たきれいなブロックができて、ほとんどのシーンでガンバの攻めにも慌てずに対処できました。(中略)ボールに対するチャレンジ&カバーがブレなく効果を発揮していましたし、前向きでプレスして奪ってカウンターという一連の攻守も機能していました。
 「あるプレーから次のプレーへの切り替えが『守→守』『守→攻』『攻→守』のどれであってもシームレスに行われていたのは、この距離感のおかげでしょう。これまでは、この『→』のところで毎度毎度『よっこいしょ』という声が聞こえてきていました。(後略)」(「平澤メモ」より)

 もしかすると達磨さんは「対ガンバ戦術」として「4-4-2」を採用しただけかもかもしれず、あるいは主力のケガから「4-4-2」を採らざるを得なかったのかもしれない。が、これだけ劇的な変化を見逃すはずがない。すんごい手応えあったと思うのだ。スコアレスドローではあったけれど、100パー、今季ここまでのベストゲーム。

 もっとハッキリ言えば勝てた試合だ。勝ってしかるべき内容。この試合は平松が出色の出来だった。平松が決めていればというシーンが何度もあった。あと前野も素晴らしかったな。個人的には前野クロス→平松ヘッドの決勝点が見たかった。

 というわけで「実戦先生」が教えてくれたことその2。FWで平松、左SBに前野が急浮上した。また懸案の右SBは舞行龍で文句なく安定する。チームの土台ができた印象。すぐに勝てる保証はないが、このチームならそう型崩れしないだろう。(少々お疲れ気味だったかもしれないが)ガンバとの中盤戦を制したことは自信にしていい。

 最後に別の話。この試合の前半、田中達也のシュートがブロックされ、山崎ギュンギュンがこぼれ球をシュートしたシーンに触れたい。オフサイド判定となりゴールは認められなかったが、ガンバの選手が1人残ってるように見える。オンサイドではないだろうか。Jリーグ審判は事例検討会をやってるそうだから、よく話し合ってもらいたい。こちらは1つの勝ちに生きるか死ぬかがかかっている。


附記1、モバアルに記事がアップされる日(5月12日)の朝、「三菱自 日産の事実上傘下に」という衝撃のニュースが飛び込んできました。このタイミングで浦和戦ですねぇ。第12節自体には直接の影響ないと思うけど、レッズもサバイバルをかけてテンションMAXで来るでしょう。いい試合になるといいです。

2、U-23代表のガーナ戦は3対0の快勝でしたね。欲をいえばスタメン出場した野津田岳人選手にゴールが欲しかった。90分出たってことは浦和戦はリザーブでしょうか。

3、松原健、鈴木武蔵両選手が全体練習に合流したそうですね。嬉しいなぁ。あせらず一段ずつステップアップしてほしい。がんばれマツケン、ムサシ!

4、はんにゃむ~ほんにゃむ~、平の松の~、推し松の~、あとひと文字がシュウとした字~、浅草はセイヤセイヤの三社祭の日~、ばっちりゴールを決めるであ~ろ~う~。あれっ、久しぶりにこんなの出ましたけど。あれっ、うちの近所、明日から3日間お祭りだぞ、やけに威勢がいいぞ、これ何の祭りだ?


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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