【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第293回

2016/6/2
 「成長途上」

 J1第13節(第1ステージ)、新潟×川崎。
 2月のプレシーズンマッチで散々ボコられ、4月のナビスコ杯戦では大敗したフロンターレ戦である。チームの成長を計測するのに最適な相手がホームに来てくれた。タイミングがいい。G大阪、浦和と互角にやり合い、ミッドウィークにはナビスコ柏戦に勝利したばかりだ。自信がついてきたところで当たりたいなと思っていた。正直、これがひと月前だったらもっと気が重かったに違いない。今は楽しみしかない。

 川崎は風間八宏監督が仕上げた完成度の高いチームだ。(うちが浦和と引き分けたこともあって)試合日の時点で浦和と入れ替わり首位に立っている。もちろん初優勝を視野に入れている。直近の動きを確認すると、ミッドウィークはナビスコ鳥栖戦(ベススタ)だったから「鳥栖→新潟」とダイナミックなアウェー転戦だ。試合間隔がタイトなところに加え、移動疲れも考えられる。この点もタイミングがいい。条件的には断然、新潟有利といえる。

 心ひそかに勝つんじゃないかなぁと踏んでいた。で、ほぼフルメンバーの川崎を退ければ自信は確たるものになる。スタメンが興味深かった。僕の見立てでは小林裕紀&小塚和季(FW起用!)の「ナビスコ抜擢組」が勢いをもたらすイメージ。小泉慶はアンカーではなく、右サイドバックだ。彼も浦和戦で見せた戦闘能力を発揮したい。キャプテン小林を「抜擢組」とくくるのはたぶん読者に異論があるだろう。それはその通りで、一般的にはアンカー→小林、右SB→小泉は「元に戻った」だ。だけど、僕には「攻めのスタメン」に思えた。

 あ、「攻めのスタメン」は要説明だなぁ。攻撃的な布陣という意味ではなく、意欲的人事というニュアンス。僕はね、小林が3日前、CB起用された意味を考える。小林にはショックだったかもしれない。が、前半の45分間、慣れないポジションを必死でやり切ろうとする姿は胸に打った(後半は交代の関係でボランチに入る)。チームメイトもそれを見ていた。川崎戦でいちばん必要なのはこういう必死さだと思う。「相手選手の剥がし方」リーグNO.1という川崎戦は、とにかく対応の粘り強さが求められる。小林の起用は「元に戻った」じゃないと思った。新しく「必死の小林」が抜擢されたくらいの強いメッセージだ。

 そして、この試合を「4-1-4-1」にしたのが大変興味深い。このところ、「4-4-2」で安定感が出てきたところじゃないか。5月に入って善戦が続いてるが、もしこの川崎戦を0対4くらいで失えば元の木阿弥になりかねない。人情としては安全策に走りたくなる。だから、これは非常に積極的かつ勇気ある決断だ。チームを信頼していなければできないものだ。「4-1-4-1」にした意図はこれから試合で明らかになるだろう。今、新潟の試合は考える習慣のある人ほど楽しめる気がする。噛めば噛むほど味があるってやつだ。

 試合。守りはヒヤヒヤした。失点の危険性は常にはらんでいた。「4-1-4-1」の意図は「前でやり合う」のようだった。前めで奪うかつぶすかしているほうが、引いて守るより川崎相手には得策という発想だ。

 「4-1-4-1」の難しいところはどこかというと、もうパッと見た感じでもわかるけど「1」だ。元サカマガの平澤大輔さんはそれを端的に「1人はつらいよ」と表現する。この試合の「1」はアンカーの小林と、1トップの山崎ギュンギュンだ。アンカーの「1」は両横のスペースが使われやすい。1トップの「1」は孤立しがちである。それはもう構造的にそうなのだ。

 「あくまで個人的な感覚としては4-1-4-1の並びで戦う場合、①、長い時間、主導権を握ることができて、②、攻撃的で、③、強烈な1トップとアンカーがいて、④、できればウイングタイプのワイドプレーヤーがいる、というチームがその効果を存分に発揮できると思っています」(「平澤メモ」より)

 僕は平澤さんより攻守の切り替え主体の「4-1-4-1」をイメージしていて、「主導権」や「攻撃的」はそんなに重視しない。ただタテ展開のスピードは欲しい。奪ってタテへ送る。この試合で不満だったのはやたらとレオにあずけたりして(また川崎がそれを狙ってたりして)スピードがなかったことだ。ズバッと勝負しないと得点機自体の数が少なくなってしまう。

 ところで「4-1-4-1」のシステムに書いてもらえない「1人はつらいよ」が存在するんだなぁ。何で「1-4-1-4-1」とか「1-4-4-2」とか勘定に入れてもらえないのか。出場選手なのに。サッカーは11人なのに。システム表に載らない「1」、GK守田達弥がこの試合の殊勲者だ。再三のピンチをファインセーブで防いでくれた。特に前半11分、小林悠の足元に飛び込んだセーブは「第6節磐田戦のトラウマ」を乗り越える感動的なものだった。サンキュー守田!

 試合展開としては勝ちパターンだったと思う。粘っこく守り、やり合い、終盤まで0対0で行って、相手に疲れが見えてきたところを仕留める。交代投入された指宿洋史、伊藤優汰にオーラスそれぞれ決定機があった。指宿はGKと1対1の場面でふかし、伊藤は止められる。敵GKチョン・ソンリョンもまた大仕事をしたのだ。

 ホームゲーム勝利を逃したのは残念無念だ。この日は終盤、会場がひとつにまとまり素晴らしい雰囲気になった。あの熱気こそがビッグスワンだ。サポーターの歓喜の爆発が見たかったなぁ。サポーターはもう半年以上、ヒーローインタビューってものを見ていない。指宿か伊藤がお立ち台に立つべきだった。いかれぽんちをいかれのぽんちにするべきだった。本当にいい試合だったけど、勝たなきゃいけない。


1、川崎戦キックオフ前、レオ・シルバ、大野和成両選手のJ1リーグ通算100試合出場の表彰セレモニーがありました。おめでとうございます。また大野選手はお子さんが生まれてパパになったそうですね。重ねてお祝い申し上げます。

2、小泉慶選手のチャントがお披露目になりましたね。

3、僕ね、監督会見で「現在の選手のやりくりは、ケガ人等が多くて本当にやりくりしてるのか? いずれ固定メンバー(いわゆるレギュラー)を目指すプロセスというイメージなのか? それとも化学変化を待っている感覚なのか?」という質問をしたんですよ。「固定メンバーを目指してるわけではない」「目先の1試合に勝つためじゃない、共通のベースをつくっている」という回答でした。

4、25日のナビスコ戦ですけど、僕は(下見と称して)等々力のバックスタンドで川崎vs仙台を観戦しました。スワン(横浜FM戦)はまたも勝ち切れない試合でしたね。イブはハットトリックしてもおかしくなかったのに。結果、B組は全5チームが勝ち点8か7という空前絶後の団子レースとなりました。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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