【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第294回

2016/6/9
 「ライン割るまで追いかけるのが新潟のサッカーだったはず」

 J1第14節(第1ステージ)、仙台×新潟。
 後半戦を占う重要な一戦。勝てば長く続いたトンネルを脱出、負ければ光明を見失い、再び暗闇のなかへ。もう何が何でも命がけで獲りにいくべき試合だ。順位争いの上でも、勝って仙台のいる「降格圏のひとつ上のグループ」にまぎれ込みたい。このところ上位勢相手にドローを演じたこともあって、雰囲気は上々だった。リーグ戦での久々の勝利を見届けるべくサポーターも大挙、ユアスタに押し掛けた。

 が、その見込みは大ハズレだった。5月の終わりに僕らが目撃したのは(ちょうどひと月前の)8節名古屋戦を下回る「ワーストゲーム」なのだった。前半ロスタイム、2失点目を喫したときは悔しさと腹立たしさと情けなさとが相まって、軽いめまいに襲われた。名古屋戦で底を打ったわけじゃなかったのだ。まいったなぁ、これはひどい試合を見てしまった。

 ひとつのアヤは前野貴徳、守田達弥の欠場にあるだろう。やっと安定してきた後ろの二枚が使えなくなった。といってスタメン出場したのがコルテースと川浪吾郎だからセカンドベストの選択は叶った。DFのスタメンは大野和成、舞行龍がCB、小泉慶が右SB。仙台が鋭いカウンターのチームだというのはわかっている。セットプレーで勝負をかけてくるのもわかっている。ここ数節、上位勢を完封してきた守備陣は仙台を沈黙させるはずだった。

 キックオフから仙台はプレスをかけてきた。新潟は中盤で奪われて再三ピンチを招く。それをどうにか最終ラインで防ぎながら、反撃のチャンスをうかがっていた。指宿と山崎にそれぞれワンチャンスあった(オフサイド判定)。慣れてくると案外プレスがゆるい。これは何とかなるんじゃないかという30分過ぎだった。指宿が引っ掛けられ、絶好の位置でFKのチャンスを得る。キッカーはレオ、直接狙ったシュートは低い弾道で仙台ゴールに襲いかかる。

 これがGK六反勇治に止められた。惜しーい。新潟応援席からため息が漏れる。と、その瞬間、六反はもう蹴っていた。的確なフィードが金久保順に渡る。新潟はコルテースと小泉の対応だ。が、これが軽い。カンタンに間を割られ、そのまま左足を振り抜かれた。前半37分、これ以上なくシンプルな先制(失)点。仙台の思うツボだ。

 まぁ、油断といえば油断だし、だからカウンターというのは効くのだが、レオのFKシュートが本当にいい感じだった。サポだけじゃなく、新潟の選手らもコンマ何秒「惜しーい」となった。そのスキを突かれた格好だ。金久保の突破力は見事だけど、あれは止めなきゃいけない。「GK→シューター」のパス一本、これ以上なく単線的な攻撃だ。

 だけど2失点目に比べたらショックは大したことなかった。2失点目は冒頭述べたようにめまいに襲われた。僕がいちばん見たくないシーンだ。前半ロスタイム、敵DF大岩一貴が「行って来い」で大きく蹴って、ボールは新潟の左側エンドラインを割りそうだった。それを必死で追いかけたのがハモン・ロペスだった。ライン際で追いつき、折り返す。新潟は大野が追っていたが、途中で足をゆるめた。僕はショックだよ、ライン割るまで追いかけるのが新潟のサッカーだったはず。

 で、ハモン・ロペスの折り返しを野沢拓也がフリーで打つ。これもね、ショートバウンドに合わせる難易度の高いシュートだったけど、野沢を誉めるしかないのだろうか。応対した選手は何をしていた? 何故、野沢をつかめない? 結果、最悪の時間帯に追加点を許すことになり、これが最後まで尾を引いた。

 「何故、つかめない?」は後半14分、3失点目(得点者・渡部博文)にも感じた。ベガルタは別に凝ったことをしてきたわけじゃない。シンプルかつ積極的なだけだ。あの渡部がつかめないのは守備組織がおかしい。か、もうこの試合は負けと思ってスイッチが切れていたのか。

 唯一、救いになったのは松原健の交代出場だ。年明け、長いリハビリからやっと戻ったと思ったら、U-23代表戦でまたおかしくしてしまった。その間、思うところは山ほどあったと思う。後半22分、小塚に代わって投入されるとさすが本職というところを見せた。後半2点返せたのは松原の安定感あって(&中盤に入った小泉の安定感あって)のことだ。今後、松原がスタメン復帰すれば小泉をボランチ起用できる。これは朗報じゃないか。

 試合後、達磨さんは「2ヶ月前に戻ってしまった」「もう一度、自分たちが下手くそだというところからやり直したい」とコメントされている。要はこの試合、新潟がカン違いしていたという意味だ。上位勢相手に引き分けた(勝ってもいないのだ!)くらいで、サッカーの原点を忘れてしまった。

 敗因は実際には重層的なものだろう。個人のクオリティー、キャスティングの問題、組織のあいまいさ、気持ちの足りなさが積み重なっている。が、最大のものが何かといったらひと言で表現できる。ひたむきさの欠如だ。仙台のほうが懸命にサッカーをした。僕はエンドラインまで全力で駆けたのがハモン・ロペスでなく、大好きな大野和成であって欲しかった。言いたいことは以上だ。


附記1、僕は前日入りでした。東日本大震災から5年、仙台の街はよみがえったとか何とかいう次元じゃなく、素晴らしい活気でした。試合日の朝は(開館と同時に)宮城県美術館に飛び込んで、洲之内徹コレクションを見た。震災後、Eテレで佐伯一麦さんが松本竣介の絵を語ってたのを思い出しました。僕、ひんぱんに新潟へお邪魔してるのにまだ砂丘館へ行ってないんですよね。中央区西大畑町ってとこにあるらしいんだけど。

2、何か「緑ユニはエンギが悪い」ってことになっちゃってつまんないですね。早くそういうジンクスも打破してもらいたいなぁ。

3、BSNニュース『ゆうなび』で特集「アルビ赤字転落のワケは? J1アルビ経営通信簿」(5月31日放映)が組まれたそうですね。僕は放送エリア在住ではなく未見ですが、経営情報自体は開示されていて、2015年度は1億2千万円の赤字(7年ぶりの赤字転落)だったんですよね。興行収入ではなく、移籍金やグッズ収入等が大きく落ち込んだようです。非常に気になりますね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

photo
 


ユニフォームパートナー