【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第295回

2016/6/16
 「まさかの坂」

 ナビスコ杯予選(Bグループ)第7節、福岡×新潟。
 Bグループは予選最終節を前に全チームがほぼ横一線に並んだ。どこがベスト8に進出してもおかしくない。新潟は2年連続の決勝トーナメントを目指し、敵地・レベスタに乗り込んだ。勝つべき試合だ。アビスパ福岡は2日、熊本地震のため中止になったリーグ戦第7節(名古屋戦)の代替開催を戦って中2日の強行日程だった。事実上のターンオーバー(中2日続けてのスタメンは亀川諒史、ダニルソン、為田大貴、キム・ヒョヌンの4人のみ)である。

 新潟は一週間しっかり調整して、準備万端だったはずだ。スタメンはGK川浪吾郎。DFが左から大野和成(!)、増田繁人、舞行龍、松原健。ボランチがレオ・シルバ、小泉慶。サイドハーフに田中達也と加藤大。トップは山崎亮平、平松宗。「4-4-2」だ。今季最も安定感のある布陣だ。大野カズの左SBにちょっと驚くが、期待できる顔ぶれが揃った。特に今季初スタメンのマツケンを大いに激励したい。

 前半6分、山崎亮平の(待望の!)今季初ゴールであっさり先制したときは、そりゃそうなりますよね、という感想だった。奪って持ち込んで、落ち着いて流し込む。言っちゃ悪いけど、控え組の福岡とほぼベスメンの新潟だぜ、落ち着きってもんが違うよ、そんな見方だった。まさかその後、チームがガタガタに崩れるさまを見ようとは。

 この世にはまさかの坂があるという。前半16分、ヘディングでクリアしようと飛び出したGK川浪が、目測を誤ってボールに頭を越されてしまう。これを福岡・金森健志があっさり決め同点。俗にいう「やらかし」だ。高校サッカー選手権でもあんまり見かけないクラスのそれだ。たぶんこのとき、いったん選手らの集中力が途切れたのじゃないか。そうとでも考えなきゃ理解できないプレーがこの後、続いてしまう。

 まず川浪の心理状態が不安定になる。ゴローは責任感の強い性格だ。振り払おうとしてもショックが振り払えない。前半19分、金森のスルーパスが平井将生(!)に通り、ゴローがカンタンに釣り出され、かわされてしまう。平井はそのまま流し込んで逆転。新潟ゴール裏は「忘れろ!」と叫んでいる。「忘れろ! ゴロー忘れろ!」

 が、GK一人の「やらかし」でまさかの坂は越えない。GKに限らず、やらかすこともあるのがサッカーという競技だから。何で手を使わないルールに定まったかというと、制御の不自由な(やらかすこともある)足を使ったほうが面白いからだ。その遊戯性がサッカーの本質だ。「やらかし」は折り込まれている。サッカーはミスするスポーツだ。ミスをするからカバーリングやフォローが大事なのだ。ミスをするからチームで戦うのだ。違うだろうか?

 「最初の失点は川浪のミスですが、GKが飛び出したときに周囲は何をすべきだったでしょうか。セオリーは『空いたゴールのカバーに入ること』です。タイミング的にはちょっと難しかったので厳しい言い方かもしれませんが、ボールが裏に抜けたタイミングで一番ゴールに近い増田にカバーに回る素振りが少しも見られなかったことが哀しかった。
 2点目は、マイケルと増田が作った『門』を、平井にやすやすとななめ右前に通りぬけさせてあげたところがきっかけでした。(中略)きれいなゴールでしたね。何しろ、増田はシュートに対して十分間に合ったにもかかわらずスライディングでブロックしようともしないし、その奥にいたマイケルものんびりジョギングしていて、真剣にゴールにカバーに入ろうともせず、誰にも触られることなくゴールに吸い込まれていきましたから。
 3点目も再び平井を『門』から通してあげて、そこに送られてきたロングパスに対しても、マイケルは平井の後ろについていくだけで、自由にプレーさせてあげる優しさを見せます。(中略)泥臭く食らいついて、体を投げ出して、最後まであきらめないで、全力で走った結果の失点であれば、それがどんなに拙い守備でも改善の余地はあると思います。でも、この日の2人のプレーぶりは、そもそもプロとしての姿勢を問われるもの。守備の戦術や組織について議論するレベルに達していない、という意味で、非常に根が深いでしょう」(「平澤メモ」。中略はえのきど)

 元サカマガ編集長、平澤大輔さんに失点を解析してもらった。何故、新潟はああもやすやすとゴールを許したのか。平澤さんは(川浪のミスについては「何も言えることはありません」とした上で)2人のCBの「態度」を問題視する。また、それが「いまのアルビレックス新潟を覆う空気感そのもの」ではないかと警鐘を鳴らしている。

 まことに耳の痛い言葉ではあるが、納得せざるを得ない。持ち前の粘り強さが消え失せてしまった。これは一時的な混乱か戦意喪失か、規律やモチベーションの低下か。新潟のナビスコ杯は終わった。吉田達磨監督は「戦術や組織」と同時に「戦術や組織以前」をテコ入れしなければならない状況となった。


附記1、とはいえそれがチームマネジメントってものです。達磨さんは百も承知でしょう。次の大宮戦に限っては戦術のオーガナイズよりもモチベーターとしての仕事が重要かもしれませんね。ホントに大事な試合になります。僕らも「ここでひとつにならずに、いつなるんだ」(ナビスコ福岡戦のハーフタイムコメント)を胸に刻みましょう。

2、本文に入らなかったですけど、松原健選手の90分フルタイムの活躍、鈴木武蔵選手の復活ゴールは超ポジティブな要素でした。それから後半、「3-4-3」にトライしたんですね。まぁ、この日は「戦術や組織以前」の日なのでその評価は難しいですけど。

3、この流れで申し上げるのもちょっと何ですが、モバアル掲載日の6月9日は吉田達磨監督の誕生日です。おめでとうございます。是非、2日遅れのバースデー勝利といきましょう。

4、大宮戦に先だって、クラブ創設20周年企画「新潟クラシック」が開催されますね。僕も12時半キックオフに間に合うよう家を出ます。参加OBの顔ぶれが素晴らしいですね。これは絶対見逃せません。
 

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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