【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第299回

2016/7/14
 「好調の理由を聞きそうになってやめた」

 J1第1節(第2ステージ)、柏×新潟。
 ブレークなしの第2ステージ開幕だ。物理的には前節終わってフツーに1週間練習して試合だ。特に変化がない。あるとすれば人間の心のなかだけだ。心機一転がんばろう。フレッシュな気持ちでスタートを切ろう。こういうのは厳密にいえば虚構なんだと思うが、僕はバカにならないと思う。両軍モチベーション高くぶつかるのが期待された。まして柏は吉田達磨監督の古巣だ。

 達磨さんが新潟の監督として日立台・柏サッカー場に立つのは5月のナビスコ戦以来だ。あのときは小塚和季の決勝ボレー弾で2対1と勝利した。当日、達磨さんの様子を見ていて思ったのはやっぱりレイソルと戦うのは特別なことなんだなということ。まぁ、何しろレイソルのスタッフや選手がバンバン挨拶に来る。で、勝利監督として臨んだ会見でホントに晴れ晴れした顔をしていた。そりゃそうだよな。血の通った人間なら誰だってそうなる。

 この日は(人に指摘されて気づいたのだが)試合前のアップからミラーゲームになっていた。すごく面白いことだ。「同門対決」感がいや増す。シュート練習になってやっと左右のピッチがやり方を変えるのだが、途中までは完全に同じことをしていた。

 スポーツ紙的な注目は中村航輔(柏GK)だったろう。前日発表された五輪代表、最終18名に選ばれたのは両チームで彼だけだ。鈴木武蔵、野津田岳人、中谷進之介(柏DF)はバックアップメンバーとして帯同、松原健は選外となった。バックアップメンバーにはまだわずかに可能性が残るが、マツケンはノーチャンスだ。ケガがもったいなかったと思う。こうなったらフル代表返り咲きを目指し、リーグ戦で大暴れしてもらいたい。

 一方、サッカー誌的な注目は帰り新参のクリスティアーノ、戦列復帰のラファエル・シルバだったのじゃないか。この2人はチームの浮沈のカギを握っている。第2ステージでどれだけ爆発してくれるか。しかし、新潟は(短期間に)2チームでクリスティアーノと当たる羽目になったなぁ。後世の人は試合記録を見て「甲府クリス」と「柏クリス」が同一人物だと理解できるだろうか。

 試合。これが想像以上だった。まるで1週休養してコンディションを整えたチームみたいだ。試合にフォーカスできてるっていうのはこういうことだろうか。前節、負傷退場劇のあったGK守田達弥(顔を30針縫ったという。志願の強行出場!)を筆頭に非常にみなぎったものを感じる。この日は(南ア戦出場のマツケンを控えにまわし)小泉慶が右SBを務めた。前のほうは指宿&山崎の2トップに田中達也、加藤大のSH。

 真夏を思わせる暑さのなか、積極的にプレスをかけにいった。奪って自分たちのリズムをつくっていく。僕は「全員めちゃめちゃ調子がよく見える」のと「戦術的にスッキリ整理されて見える」のは、どっちがどうなんだろうと思っていた。全員好調ってことあり得る? 好調不調という問題じゃなくて、取り組んできたことが形になってきたのか?

 そこら辺はよくわからないのだ。ただ皆、ホントに好調に見えた。記者席では元サッカーマガジン編集長の平澤大輔さんと並んで見てたんだけど、平澤さんが小林裕紀と舞行龍のフィードを絶賛する。その正確さがコルテースの凄みを引き出してると指摘する。確かにこの日、柏はコルテースが邪魔くさくて仕方なかったと思う。

 あと久々に指宿洋史のコンディションがよかった。ちょっと下がって間で受けていた。指宿はコンディションのいいときが少ないプレーヤーだ。状態さえよければクサビを受けて、展開の軸になれる(状態のいいときが少ないのはラファエルも同じだ。そこが泣きどころってやつだよ)。指宿は何とこの試合でオーバーヘッドを試みた。身体が切れていた証拠だろう。(終盤、武蔵も試みたが、イブと武蔵じゃ排気量が違う。わかりやすく言うなら「コンボイトラック」と「スポーツカー」だ)。

 指宿の好調を疑問視する向きもあろうかと思う。後半7分、CKから絶好のこぼれ球が指宿の前に出て、それを決めきれなかった。彼には「あれを決めてくれてたら…」的なサポーターの声が多く聞かれる。それだけ主力として得点を期待されている。だけどね、この日は指宿が下がってから敵の間に入って受ける役がいなくなって、展開力が落ちた。存在感は非常に大きかったと思うのだ。

 その直後の後半8分、今度は攻め込まれ守田、舞行龍の連携で辛くも防ぐシーンがあった。そのシーンは象徴的なものだ。すんごい頑張っていたのだ。だから後半27分、敵FKからの折り返しが舞行龍の足に当たってオウンゴールになったのは責める気になれない。あれは残酷な光景だった。ああするより他にやりようがない。

 というわけで0対1の負けだ。終盤投入されたラファも武蔵も結果は出せなかった。が、僕はこの試合を高く評価したい。どのくらい高く買うかというと、監督会見で達磨さんに危うく「会心の試合だったんじゃないですか? 好調の理由は何ですか?」と質問しかけた(けど、それもどうかと思ってやめた)くらいのもんだ。これ逆張りしてるんじゃないですよ。やっと吉田達磨のサッカーが見えてきた。

 あとは上がるだけ。選手らは勝たなきゃこのサッカーを手放すことになる。これは苦しんで手に入れた宝物だ。ここからは勝ち点にこだわっていこう。得点にこだわっていこう。アルビレックス新潟に力があることを証明するんだ。


附記1、五輪メンバー18人に入れなかった鈴木武蔵、野津田岳人、松原健のコメントご覧になりましたか? 武蔵は気丈でしたね。グングン精神的に成長している。野津田は苦しいコメントも、立て直して修正したコメントも胸にしみた。あとマツケンはソッコー、室屋成に激励の電話をしたそうですね。何て素晴らしい選手だ! 僕は松原健を誇りに思います。

2、日立台小景。この日は試合が止まったタイミングで輪湖直樹選手が達磨さんのとこにあいさつに来てましたね。達磨さんはボトル渡してやってた。なかなかよかった。

3、平松宗選手の水戸レンタル移籍が発表になりました。武者修業ですね。実戦経験を積んで更に持ち味を伸ばしてくれたらと思います。関東サポはJ2開催日、平松を見に行く楽しみができましたね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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