【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第300回

2016/7/21
 「結果結果結果」

 J1第2節(第2ステージ)、新潟×湘南。
 「相手の監督は俺と選手のときに24時間一緒にいてサッカーのことを語り合った仲なので、それに恥じない試合をしようと思ってました」(チョウ・キジェ監督、会見コメント)。「同じ釜のメシ」とか言うより、いっそ「盟友」「同志」という感じだ。先月、馬入でサテライトの試合やったときも、キジェさんと吉田達磨監督はイスを2つ並べてずっと話し込んでいた。表面的には志向するスタイルが違うようだけど、そこには確実に響き合うものがある。

 これはつづきものである。2月下旬のJ開幕戦(於・BMW平塚。1対2で新潟が勝利)が前提にあって、あのときは双方、持ち味をそのまま表現するプレーンな試合をした。展開としてはオープンだった。キジェさんは「本当は開幕の内容で勝ちたかった」と言う。この日、セットプレーからのヘッド一発(前半32分、得点者アンドレ・バイア)で勝ちはしたけれど、戦術的な達成は「6割7割」だったと言う。社交辞令半分としても「内容的には相手のほうが1枚も2枚も上だったかなという気持ちしかなくて…」「取った後にどういう形でボールを動かすかというのも彼らが1枚上でした」と持ち上げてくれる。

 たぶんサポーター目線でいうと「大事なところで指宿洋史が決めきれず、フラストレーションのたまった試合」だったに違いない。切り札のラファエル・シルバ投入も惜しいところで不発に終わった。ここ何試合ビリビリ伝わってきたテンションのようなものが少し落ちたのか湘南のプレスに寸断されたのか、リズムが生まれない。先に失点し、後半はフタをされて打つ手がなかった。

 新潟側の戦術的意図は達磨さんが端的にコメントしている。
 「湘南のプレスはよく自分たちも知っていて、わかっていて、その前の節も、その前の節も、その前の節もその前の節も湘南(の対戦相手)を見ると、基本的にはプレーすることを半分捨てて、その出てくる圧力を受けずにプレーするというチームが多いなかで、もちろん僕たちもそういったことをホケンとしては持っていましたが、そのホケンを何回も使うことなく、選手たちが相手のプレッシャーの先にあるものを見て、読んでプレーしていくということに関しては本当に、今日のハーフタイムでも彼らのプレー自体に対して文句をつけたり修正したりということは本当になかったです。ハーフタイムの修正で大きなものが必要ないという試合をこれだけ試合をしてきましたけど初めて迎えました」(達磨さん会見コメント、カッコ内えのきど)
 
 プレスをかわしてロングボール、というサッカーをしなかった。キジェさんのフレーズを拝借すると「ボールを動かす」だ。それがやれたと達磨さんは言っている。まぁ、相手のプレスのせいで全体のリズムはよくなかったかもしれないが、「ワンタッチでつないで敵陣深く迫る」シーンも散見された。

 「後半(中略)、分厚いブロックを崩さないといけない展開になりました。分厚いブロックがあればもちろんあわてて攻めることは難しいですし、難しいというか不可能ですし、そのなかで(加藤)大から何回か出たスルーパスもそうですけど、最後割れたという質、あとは前半後半通じてそろそろ相手のDFラインの前でフリーができそうだなというのを予測して斜めに走っていく、裏を狙っていく、そういったクオリティが疲労とともに少しずつ落ちて(いった)」(同、中略&カッコ内えのきど)
 
 「自分たちが手に入れつつあるものを手放すのは簡単なんですけれども、ボーンと蹴ってガーと走って、ドーンと入るかどうかわからないシュートを打って、相手に反則をして、1点取って時間を作ってと。こうするのは簡単ですけど、するつもりはさらさらないですし、自分たちの選手をこれからも信じて、彼らの今持ってる、湘南を湘南らしくさせなかったという積み上げてる質を信じて(川崎戦へ向かう)」(同、カッコ内えのきど)
 
 一方、キジェさんは「スペースそのものが彼らの好物だと思っていたので、それをいかに出させないか」に気を配ったという。「取られた後に戻るとか、彼らが突きたいスペースを埋めてディレイさせたというのは1つ勝因かなと思います」

 公平な評価をすると、新潟は「スタイルは出せたが、結果には遠かった」というところだろう。こういうのは「ケチャップがドバっと出る」感じで劇的に変化するのか、それともあくまで少しずつ少しずつなのか。


 J1第3節(第2ステージ)、川崎×新潟。
 途中までは「これがケチャップが出た試合か!?」と思って見ていた。川崎はチームの要、中村憲剛を負傷で欠くも目下、11戦負けなしの好調チーム。その相手に二度リードを奪う大熱戦を演じていた。梅雨のさなかの首都圏ナイターだ。試合終盤を迎えて1点リード(敵地なのでスコア表記は「1対2」)。野津田岳人の先制ゴール(前半35分)も痛快だったし、レオ・シルバに追加点(後半20分)はハードワークに幸運が微笑みかけた形(後述します)。こういう日は勝っちゃうんじゃないか。心配事は中3日&湿度90パーの疲れだなぁ。こういうタフな試合を勝ち切らなきゃチームに自信がつかない。

 ただ後半は守勢にまわっていた。サイドからいいクロスを入れられすぎ。達磨さんこれ手を打ってよ。いつか決壊するっていうか、決壊は時間の問題だと思って見ていた。決壊して同点になるのが先か、後半投入されたラファエル・シルバ(虎視眈々と狙っていた)がカウンターで逆を取るのが先か。「次の1点」ってやつだ。ラファの決定力を考えれば押し込まれてせっぱつまった状況は、むしろチャンスになり得る。

 決壊が先でした。後半39分、小林裕紀のオウンゴールによる失点。これは柏戦同様、ああなったらしょうがないというOG。で、ロスタイムには小林悠の決勝ヒールを食らう。これは映像を確認するとオフサイドのようにも見えるが、審判の判定は覆らない。クラブとしてはリーグに問題提起するところまでだろう。感情としては釈然としない。NHK-BS中継は「等々力劇場の劇的逆転勝利」を放送できたかもしれないが、「決勝ゴールはオンサイドであったか?」を吟味する批評性は持ち得ていない。

 が、感情はいったん横に置くことにする。「○○のせい」と敗因をよそへ向けても沈んでいくのは自分だからだ。戦術的には川崎・風間八宏監督はサイドに狙いをしぼっていた。達磨さんはそこに対応したが、一手読み負けたと言える。プレーの面では、もう終盤ぎりぎりの球際の闘争だ。何でも理詰めで決まるわけじゃない。根性が足りなかった。勝ち点3が勝ち点1になって最後0になるという、ずるずる負けだ。

 ショックが大きい。これで更に中3日で仙台戦だ。「風間監督が5年かかって作ったチーム」とやり合えことは前向きにとらえていい。でもなぁ、結果が出ない。正味の話、ショックを振り払い、仙台戦へ気持ちを奮い立たせるのは相当なエネルギーが要るよ。

 話題を変えてレオの2点目について。等々力競技場の上層階からピッチを見渡して、新潟はFWと中盤の間が空いちゃってるなぁと思っていたのだ。いつも指宿洋史はそこに下がってボールを受けようとする。他にあんまりそこで受けようとする人はいない。僕は(本当の本当は)指宿はそれが仕事じゃないんじゃないかなぁとも思っている。でも、チームはそれで大いに助かっている。レオの2点目のときは、その空いたスペースにちょうど榎本一慶主審がいた。相手のパスが引っかかって、結果的に「榎本主審のプレスが効いた」(?)みたいなことになり、レオ&ラファのワンツーで抜け出すんである。僕はあそこに普段から榎本さんじゃない人がいたらどうだろうと思う。


附記1、湘南戦前、久々に実施された「史上最大の入り待ち」作戦に僕も参加しました。ビッグスワン正門前の2千人のサポーターはやっぱりしびれる。試合は負けはしたけど無駄じゃなかったと思いますよ。あの道路に並んだ一人一人の人生にとっても無駄なわけない。「お客さん」でも「評論家」でもない、当事者として戦うつもりの人間がとりあえず2千人いるんだってことですよ。それをチームにハッキリ示した。

2、湘南戦の日、遅ればせながら『ラランジャ・アズール』創刊号と第2号を購入しました。さすが大中祐二さんの仕事ですね。取材も編集もホントにていねいです。達磨さんのサッカーは日頃、聖籠に詰めてる大中さんや野本桂子さんがいちばん理解してると思います。まだご覧になってない方、これはおすすめです。

3、川崎戦の日、等々力のプレスルームで小澤一郎さん(政治家は「小沢一郎」さんです。サッカージャーナリストの「小澤一郎」さんはスペイン帰りの理論派、僕はスカパーの『プロホガソン』でご一緒した仲です)と話をしました。小澤さんは柏で育成指導してた頃の達磨さんのこともよくご存知でした。すごく期待していると言ってくれましたよ。

4、私事ですが、おかげさまで当連載は通算300回を迎えました。日頃のご愛読に感謝します。「逆襲の第2ステージ」が3連敗スタートでちょっと凹みますが、顔を上げましょう。僕も気持ちを新たに第301回に向かうつもりです。

 
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

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