【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第301回

2016/7/28
 「日報予想スタメン当たった」

 J1第4節(第2ステージ)、新潟×仙台。
 1対2でタイムアップが告げられた後、しばらく動く気力がわいて来なかった。リビングのテーブルにPCを広げたまま、腕組みがほどけない。スカパー実況のTeNY内田拓志アナの声がうわっすべりに頭のなかを通過していく。何言ってたのかぜんぜん覚えていない。ビッグスワンへ行かなかったのを猛烈に後悔した。行けば誰かと言葉が交わせた。失望や怒りが渦巻くスタンドにいたとしても、少なくとも孤独じゃない。

 昼間、FC東京小平グラウンド(U-18プレミアリーグ、FC東京×新潟)で挨拶したサポーターの顔を思い浮かべた。上越の出身で現在、静岡市在住という男性だった。静岡から午前中に小平まで出てきて、これから大宮経由で新潟入りするという剛の者だ。何かわからないが「アルビすごろく」のような行程を移動して、この日はU-18とトップチームで連敗したのだ。僕なんか比較にならないくらい凹んでるはずだ。あの人にお疲れさんと声をかけたい。

 第2ステージ4連敗だ。これは誤算である。すべて1点差負け。ツキがなかったり判定に泣かされたりという要素はあったにせよ、競り負けている事実は変わらない。第1ステージの終わり頃、壁をひとつ抜けたかなという感触があったが、ここに来てまた壁にぶつかっている。

 壁というのは壁だ。「これはカンタンには解決しなさそうだぞ」ということだ。仙台戦は見る者にそれを感じさせた。おそらくこの試合は仙台の狙い通りにことが運んだのだ。といって何か奇策を用いて来たわけじゃない。今季、新潟は(リーグ戦とカップ戦で)既に仙台に2敗している。敵のゲームプランにそう大きな変更はなかったと思う。ガマンして守って、必ずスキがあるから奪ってカウンターだ。まんまとやられた。同じ相手に3敗目を喫する。

 第1ステージ終盤のプラス材料は「戦術の浸透」と「ケガ人の戦列復帰」だ。そしてつらい出来事ではあるが、早川史哉の闘病を支える気持ちがチームをひとつにまとめたのも事実だ。だから僕は今のチームには「システム」も「戦力」も「気持ち」も備わったと思うのだ。これ以上のプラスアルファは例えば大型補強のようなことしかない。それが仙台に完敗してしまう。「4-1-4-1」のアンカーの横のスペースを突かれて失点する。手数をかけて前へ運ぶうちに守備を固められて手詰まりになる。「これはカンタンには解決しなさそうだぞ」だ。つまり壁なのだ。

 勝つチャンスだって大いにあった。前半のチャンスをラファエルが決めていれば(仙台側から言えばガマンがきかなかったら)圧勝していた可能性もある。後半、先制(9分、得点者ウィルソン)されてからも、同16分、FKから舞行龍のヘッドであっさり追いついた。このときの野津田岳人のFKの質が素晴らしかった。野津田は2試合連続で結果を出している。ホントにね、リオ五輪に連れてくなら使う、使わないなら置いてくのどっちかにならないだろうか。

 1対1で迎えた後半21分、エリア内で山崎亮平が倒され、PKをもらう。志願のキッカーは山崎自身。決めれば勝ち越しの場面、これを敵GK・関憲太郎が完全に読み切った好セーブ。そこから一気にカウンター速攻が来た。ピッチ内の新潟の選手にも、スタンドのサポにも「(PK決まらず)惜しい~」という空気が残ってる間の出来事だ。同21分、仙台・奥埜博亮の決勝ゴールを食らった。PK失敗から一瞬のスキを作ってしまった新潟と、そのスキを突いた仙台の差。ちょっと二の句が次(つ)げないくらい鮮やかにやられてしまった。

 PKキッカーに関し、事前の取り決めではレオ・シルバが蹴ることになっていたということで山崎を云々(うんぬん)する向きがあるが、それはお門違いだろう。決めていれば「気持ちの決勝点」くらい言われてたと思う。タイムアップの瞬間の山崎の顔(悔しくて煮えくり返っていた)を見ればあれは責められない。山崎は寝られなかったはずだ。次に必ず大仕事で返してもらおう。
 
 そんなことよりも壁について考えるほうが先決だ。「カウンターでやられる」「セットプレーでやられる」「下からつなぐからパスミスを奪われる」「攻めに時間がかかるから完全にフタをされる」これらの解決にはまだ時間を要するだろうか。残り試合数をにらんで間に合うだろうか。そこは僕には何とも言えない。普段の練習も見ていないし、案外、強固な壁に見えたものがあと一撃で崩れ去る「朽ちた木のドア」ということだってあり得る。で、あるならばあと一撃をどうするか。

 もうカッコつけたってしょうがないだろう。J1残留争いにフォーカスするしかないと思う。残留ラインがどのくらいになるかわからないが、仮に勝ち点40だとするとこの後、1勝1敗くらいのペースをキープする必要がある。凹んでる場合じゃないのだ。ここから難所が待っている。選手もサポも苦しいところで何ができるかでしょう。

 最後にひとつ気になったこと。達磨さんは交代カードの1枚をSBに使うことが多いが、この試合でコルテース0UTのシーンがちょっと変だった。試合局面としては1対2のビハインドだ。追いつかなきゃいけない。時間が惜しい。なのにコルテースは(まるで勝ってる試合のように)ゆっくり歩いて下がったのだ。交代に納得していないのか。チーム内に不協和音があるのか。意味不明であるし、スタンドも水を差される。


附記1、タイトルは特に意味ありません。新潟日報の予想スタメンがついに的中したことを記念して、タイトルに採用しました。ヤンツーさんの頃はほぼ百発百中だったスタメン予想が達磨さんになってから大変苦労されている。いつも心のなかで応援しているのです。

2、FC東京小平グラウンドへ行ったついでに花小金井の「江戸東京たてもの園」を訪ねました。ここは前川國男邸が移築されてるんですよ。そういえば建築家・前川國男は新潟市の生まれですね。僕は大好きなんですよ。何となく青森県弘前市と縁が深いイメージだけど、新潟市美術館も設計されてますね。

3、酒井宣福の岡山レンタル移籍には驚きました。これで平松(水戸)、イム・ユファン(東京V)に続いて3人目か。

4、サッカー本をひとつ紹介します。『サッカーと愛国』(清義明・著、イーストプレス刊)が非常に面白かったです。タイトルは『ラーメンと愛国』(速水健朗・著、講談社現代新書)にそっくりなんですけど、サッカーを通してレイシズムを考えるというビビッドな内容です。著者の清さんはフットボール映画祭を立ち上げた一人でもあって、毎年、直前の時期になると映画に字幕つけるため寝不足でボロボロになってますね。

5、次節・大宮戦はビッグゲームですよ。クラブワーストの5連敗は何としても阻止したい。観音様にお参りして行こうかな。もうちょっと気持ちに余裕があったら、翌日曜日のシンガポール代表戦(於・ビッグスワン)も楽しみなんですけどね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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