【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第306回

2016/9/1
 「球を奪いに行く 球を離さない」

 J1第9節(第2ステージ)、新潟×福岡。
 この日は知人のクルマに乗っけてもらったんだけど、越後川口SAで降りた瞬間の衝撃が忘れられない。熱気を吸い込んでゲホゲホ咳込んだ。新潟県めっちゃ暑いやん。いやフェーン現象があったりして、イメージより新潟県が暑いのはよく理解している。しかし、先週の甲府より暑いんじゃないか。まぁ、スワン駐車場に到着した頃は夕方近くになって(関越道の事故渋滞で時間がかかった)、むしろ湿度のほうが気になったかな。「夏アルビ」の最後を飾る大事な試合だ。J1残留をかけて福岡と6ポイントマッチ。

 スタメンが発表になって「MF 11 指宿洋史」が話題沸騰だった。またまたぁ、達磨さん実際は「FW 9 山崎亮平」とポジションチェンジでしょ。と、僕なんかはタカをくくっていたのだ。で、始まったらホントに左サイドハーフの位置にいるんでびっくりした。が、これはサイドハーフというくくりじゃなく、「3トップの左」だったようだ。

 「3トップの左は僕からしたらよく見ていたもので、そんなに違和感なくプレーして、守備もソツなくやっていました。ボールを収めることに関しては、彼のプレーそのものなので、これくらいやるだろうという想定のプレーをしていました」(吉田達磨監督・会見コメントから)

 柏の育成から指宿を知る達磨さんにとってはサプライズでも何でもなかったのだ。僕もこの日のイブは評価したい。ハマっていたし、コンディションも良くなっていた。ただやっぱり結果が欲しいんだなというプレー選択があった。そこはラファにパス出すでしょ、というところで自分で打って決め切れない。

 で、この3トップが自由度が高かった。サイドで張んないんだね。ラファもイブもかなり流動的なポジショニングだ。山崎ギュンギュンとの関係性が面白い。福岡は守備からゲームをつくる考え方で、新潟からすると「(甲府戦と)2週続けて守備ベースの相手」である。前節と同じ轍を踏む可能性があった。それを3トップの流動性で攪乱(かくらん)する狙いだったろうか。

 僕が甲府戦で不満だったのはパスが足元ばかりで動きに乏しく、しかもそれを狙われて下げているような体たらくだったからだ。面白くも何ともない。勇気もない。高校のサッカー部だって「パスアンドゴー」は教わるだろう。パス出したら動け。スペースで受けて、それをつなげ。欧州リーグを見に行くと、テレビで上手いなと思ってた選手が「パスを受ける準備」でこんなに動いてたのかと驚く。間で受けて間に通す連続だ。足元ばかりで受けてたらそりゃ奪われるよ。

 で、この試合はどうだったかというと「パスアンドゴー」ができていた。いやもう、これでぜんぜん違ってくる。しかも前線3枚が流動的だ。福岡は掴みにくかったと思う。前半こそ無得点に終わったが、これは何とかなりそうだ。で、僕は後半、敵ゴールのある側(つまり、新潟サイド)に席を移動したのだった。おかげで3ゴールをつぶさに見た。

 いちばん大事なのは先制点だ。これがね、すごくよかった。ラファがヒールで山崎につなぎゴー、山崎は右サイドをドリブルで突破し、クロスを入れる。と、ゴールへ向かっていたはずのラファが止まっている。止まることでスペースをつくる逆転の発想だ。後半10分、フリーでヘッドゴール! もちろん先手を取れば展開はグッと楽になる。相手は守備を固めているわけにいかない。得点直後、達磨さんは小林裕紀キャプテンを呼びよせ、攻撃の指示を出した。非常に具体的かつ面白い指示だった。

 「ラファのポジションが、1点を取ることでエキサイトし出すので、それを一回抑えれば、トップのヤマの周りにチャンスが生まれます。そこに人数をかけることなく『一回ステイさせろ。我慢させろ』ということを、レオに伝えてくれと裕紀には言いました」

 ラファのポジションを(上がりすぎないよう)キープ。トップの山崎の周りにチャンスが生まれるから、そこは空けとけ。その意味するところは「スペースに出て決めろ」だ。それからこの指示ひとつで達磨さんの小林の目配りに対する信頼、レオの兄貴分的な役割、ラファの得点者としての本能、がそれぞれに窺える。

 後半35分、福岡・亀川諒史のハンドによるPKゴール(得点者・レオ)。同ロスタイムにもレオがダメを押して、3対0の快勝だ。この追加点もプロセスを見ると「動いて受ける」「スペースに出る」が効果を上げている。僕は時計を巻き戻して、(前をフタしてきた)FC東京や甲府相手にこれができるのか見てみたいと思った。まぁ次節・鳥栖戦を楽しみとしたい。

 達磨アルビのストロング・ポイントは何か? 甲府戦でヤバイ試合をして、選手も監督もあらためてその問題に直面したのじゃないかと思う。どこにフォーカスするか。残留へ向けてあるいはそれ以上の成果に向けて、このストロングに懸けようというものは何か? 

 「今日の試合になるのですが、球を奪いに行くという姿勢と、球を離さない。その2つに尽きます。ちょっと大ざっぱですが、球を欲しがる。それをとにかく選手たちには実践して欲しいし、実行して欲しいと思います」

 なるほどね、この日は奪われた後、すぐに奪い返しに行く迫力があった。それがストロングってことなら続けてくれなきゃ困る。もうすごろくの「ふりだしに戻る」は御免ですよ。


附記1、この日、守田達弥選手の100試合出場セレモニーがありました。記念グッズも大好評ですね。守田選手おめでとうございます!

2、僕はこの日、セイヒョーブースで試合前「ももえちゃん」(パイン味)、試合後「もも太郎」(いちご味)と2つのアイスを食べました。アイスを買いに行く、アイスを欲しがる。それを実践していこうと思います。

3、すごろくの「ふりだしに戻る」は御免ですよ。とにかく連勝したいなぁ。このところ相撲の世界でいう「ヌケヌケ」(○●○●○と交互に勝ち負けが並ぶ)っぽいですよね。いい試合をするとホッとしちゃうのか、続かないんですよ。鳥栖戦はその点も注目ですね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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