【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第316回

2016/11/10
 「配られたカード」

 J1第16節(第2ステージ)、G大阪×新潟。
 前日の雨が上がり、吹田スタジアムは秋の陽ざしに恵まれた。ガンバは今節がホーム最終戦だ。春先に日程表を見て、そうか、評判の吹田スタジアムへ行けるのはこんなに先か、それにしてもラスト3節は強豪揃いだな、と思ったのを覚えている。勝ち点にゆとりを持って(残留争いなど気にせず)、新スタジアムでのサッカーが楽しめたらいいと人と話していた。まさかこんな残留争いのキワキワとは想像しなかった。

 吹田スタジアムは素晴らしかった。試合前あちこち探検してみたけど、本当にピッチが見やすい。また屋根が覆いかぶさり、座席がタテに積まれてる感じがいい。ギュッと締まっている。サッカー以外の情報量がない。小ぶりなイングランド式のスタジアムだ。今年はJ3長野パルセイロの本拠地、南長野運動公園総合競技場にも行ったけど、トレンドは「小ぶり」だなぁ。

 新潟は勝ち点数で名古屋に並ばれ、かろうじて得失点差で年間15位という状況。が、意気軒昂だ。新潟空港を離陸するとき、空港職員さんが滑走路に並んで「がんばれアルビ」(ハートマークつき)のボードで送り出してくれた。偶然同じ便に乗り合わせた知人サポが、わざわざ写メを送ってきたが、あれはグッと来た。知人サポ情報はもう一つ、「コルテースが乗ってない」という特ダネだった。これは極秘扱いにしなければと思う。ガンバに知られたくない。確かに前節はよくなかったが、それじゃ誰がSBやるんだろう。

 スタメンが発表になって、左SBは小泉慶なのだった。SHに田中達也と加藤大が起用されたのも注目だ。2トップはラファと鈴木武蔵。山崎亮平は練習試合の負傷が思ったより長引いている。チームは依然、高い士気を保っているが、(特に試合運びの面で)前節の反省を生かす必要がある。終盤まで接戦を演じ、どう締めくくるかという段階で「勝ち点3を狙うのか1なのか」はハッキリ意思統一しておきたい。もはや普段の試合ではない。リアリズムだ。浦和戦で勝ち点1を逃したのは痛恨だった。その勝ち点1が運命を分ける可能性がある。

 試合。前半5分、DF西村竜馬がアデミウソンにボールを奪われ、あっさり失点する。開始早々、大ポカだ。つなごうと考えるうちマイボールを取られ、そのままゴールに流し込まれた。よーいドンで0-1から試合が始まるようなものだ。残念すぎる。今季は凡ミスで失点するパターンが最後まで尾を引くのか。

 が、チームはまったくあきらめない。かさにかかって来るガンバを防ぎ、盛り返しにかかる。中盤の攻防が最高にスリリングだった。新潟はガンバにひけは取らない。自信を失う必要がない(自信を失うほうが害がある)。思えば「ラスト3節の強豪」は幻影なのだ。強豪3チームといっぺんに試合するわけじゃない。戦うときは1チームであり、局面1対1の相手なのだ。現に時間経過とともに「強豪3チーム」は強豪1.7チームくらいに目減りしている。この試合が終われば強豪1チームまで目減りする。勝手に「三つ首の怪物」を想定してひるんでいるが、少なくとも(対戦の終わった)浦和はもう脅威でも何でもないだろう。

 前半35分、加藤大のCKをファーで待っていたラファが決める。ラファのシュートセンスはもちろんだが、このときオトリで飛び込んだ武蔵(そもそも彼の頑張りでCKを得た)も最高だった。1対1のスコアでハーフタイムに入るが、これうまくやったら勝っちゃうんじゃないかなと思った。勝っちゃってぜんぜん構わないんだけどね。「攻撃は相手が嫌がっているので続けること」(片渕浩一郎監督・ハーフタイムコメントより)。まさにそんな感じがしていた。

 ところが状況は暗転する。後半6分、ラファがダイブを取られ、この日2枚めのイエローで退場してしまった。僕は最初事情がわからず、てっきりガンバ岩下敬輔の反則を取ったんだろうと思った。が、違っていた。個々の判定についてこの場で異を唱えてもしょうがないが、例えば当日スカパー解説を務められた元日本代表FW、長谷川治久さんは全く納得が行ってない(「そもそもこれ(オ・ジェソク)がファウル気味だったんですよ。ラファエルが身体が強くてバランスいいからファウルにならなかっただけでね。その後、(岩下の)左手が出てますからね。これはきびしいね。僕らもFWやっててそりゃないでしょうと。じゃ、(オ・ジェソクとの接触で)コケなかったからファウルなんですかと」とコメント)ご様子だった。

 僕はこのときの片渕さんの姿が忘れられない。ピッチに背を向け天を仰ぐのだ。胸が張り裂けそうに悲しい姿だった。数秒そうした後、ピッチに背を向けたまま感情をコントロールする。僕は頭に血がのぼって怒鳴り声をあげそうになってたから、片渕さんの自制心に驚いた。と直後、戦術ボードを手に取り「4-4-1」の指示を始めた。すごいと思ったなぁ。ゲームプランは「1対1のドロー狙い」に切り替えた。前身に闘志がみなぎっている。

 チームに火がついた。ゴール裏の新潟応援席にも。僕は「秋冬制に移行するため雪国クラブが目ざわりなのだ」的な陰謀論には加担しないつもりだ。が、中央と地方、富める者とそうでない者、もはやこの国でありふれたものになっている理不尽と闘うつもりでアルビレックス新潟を書いている。そりゃね、何か意図があってのことじゃないでしょう。単なる運不運の問題で、不運がこっちに来るだけでしょう。それならその配られたカードで勝ってやる。チームは涙ぐましい奮闘を見せた。

 後半15分、エリア内で舞行龍がハンドを取られ、PKを与えてしまう。勝ち越し点は遠藤保仁のJ1通算100ゴールとなった。選手らの名誉のために記すが、両軍は好ファイトを続けた。10人になって守勢にまわっても、新潟はチャンスをつくった。しかし、終盤、決定的な事態を迎える。レオ・シルバが一発レッドで退場、チームは9人になってしまう。岡部拓人主審に詰め寄ったレオがイエローカードをはたいてしまった。偶然手が当たったのだと思うが、軽率だった。さらにもう1失点が加わり、3対1でジ・エンド。

 結果、最終節の広島戦はレオ、ラファ、舞行龍を出場停止で欠き、野津田岳人が契約の関係で出られないという緊急事態になった。いや、片渕さんの監督就任以来の緊急事態っぷりを思え。すごすぎる。少年マンガでもここまでのクライマックスは描かない。で、信じがたいことに残留争いのライバルは今節、全敗していた。すべてが最終節のピッチで決着する。こうなったらやるしかない。飛車角落ち上等じゃないか。読者よ、やってやろう!


附記1、モバアルでご覧の皆さんには異例の「水曜日もコラムの日」(?)になりました。まぁ、最終節は来週分のコラムに反映させたほうが、僕も読者も栗原広報も全員助かるでしょう。ウィンウィンウィンの関係ですよ。チームも勝たせてウィンウィンウィンウィンで行きましょう。←ロボコップか!

2、試合後、片渕さんの会見はスッキリしてましたよ。判定に対し泣き言ひとつ言わず、「誰が出ても同じように戦えるチーム」を強調されていました。

3、だから僕も見習いたいんですけど、ひとつだけ言わせてもらいますね。試合が終わって審判団が下がってきたとき、ガンバ長谷川健太監督には満面の笑みで握手に応じているんです。が、片渕さんや新潟コーチ陣が握手に行っても3人の審判が一切視線を合わさないんです。連写で撮った「ほとんど動画」の写真で確認しました。僕はこれはスポーツの精神に反してると思います。

4、最終節の試合前、サッカー講座を担当することになりました。これはたぶんチームバスの入り待ちとかぶるんですけど仕方ありません。父の逝去で鹿島戦をキャンセルした分です。僕は僕でベストを尽くします。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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