【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第319回

2017/3/9
 「大抜擢」
 
 J1開幕節、広島×新潟。
 2017年シーズンの開幕戦はDAZNの見逃し配信だった。キックオフ時刻は親戚の法事のため、青梅市の竹林寺にいた。DAZNの実力を見るにはちょうどいい機会だと思う。今季からJリーグの映像配信権(放映権)は英パフォームグループが独占的に取得したのだ。DAZNはそのスポーツ動画配信サービスである。Jリーグはこれまでスカパーと安定的な関係を築いてきたから、ファン、サポーターにとっては寝耳に水だった。開幕前から不安や不満が多く語られた。「Jリーグファンがいっせいに視聴してサーバー落ちしないか」「なぜ録画ができないのか」「画質は鑑賞に耐えるのか」「ハイライト番組はつくらないのか」等々。

 僕は開幕直前に加入して、まぁ、開幕節は生視聴じゃないし、サーバーは大丈夫だろうと高をくくっていた。それより我が家にはPS4(ソニーのゲーム機)があって、既に外国ではそれを通してTVモニターで視聴できているはずだった。わざわざファイヤーTVスティックを購入する必要がないのだ。で、加入が直前までずれ込んだのは、いつまで待ってもDAZNが(日本国内での)PS4の対応を発表しないせいだった。結局、開幕には間に合わず、当座はTVモニターでの視聴をあきらめた。

 試合経過・結果は会食の合い間にケータイ速報をチラ見して知っていた。それでも帰宅してDAZN配信のエディオンスタジアム広島を見たときは胸が高鳴った。始まったなぁ、新生「三浦文丈アルビ」の初陣だ。例年にも増して今シーズンの順位予想は軒並み芳しくない。レオ、ラファ、舞行龍、小林裕紀ら主力が流出し、監督はJ1実績のないフミタケさんだ。降格候補に挙げる評論家、ジャーナリストは数知れない。しかし、言っとくが新潟はそんなの慣れてるのだ。開幕を迎えてのムードは前向きだった。勲と貴章が帰ってきた。新主将は大野カズだ。8番は「カヴァーロ(馬)」こと小泉慶だ。高校生ルーキー(卒業式前なので「高卒ルーキー」とは呼べない?)の原輝綺がスタメンに大抜擢だ。いやっほう。

 試合。絵に描いたような「堅守速攻」。守備の意識づけが徹底している。これは相当やって来たね。必ず2人がかり3人がかりで寄せる。プレスが効かなければリトリート(フミタケさんは好んでこれを「オーガナイズする」と表現している)。守備のバランス重視だ。成岡翔、加藤大の両SHは守備優先であんまり攻めにからまない。攻撃は「縦ポン」で新外国人ホニを走らせる。ホニは聞きしに勝るスピードだ。絶対、評判になる選手だ。

 開始早々、山崎亮平に得点機が訪れるがこれは決めきれなかった。ホニのヒールパスを受けて、息の合ったコンビネーションだった。僕は去年6月、南長野でJ3第12節「長野×琉球」を見ていて、そのときパルセイロの見せたカウンターサッカーが念頭にあった。が、見た感じ、公式戦最初の新潟のほうがキメ細かくつくり込まれてる。これは何だろうなぁ。キャンプを見てないので何とも言えないが、報道では守備からアプローチしていったようだ。

 出色だったのはボランチの2人。小泉慶と原輝綺だ。このチームはボランチを中心に見るのが熱い。どれだけ戦ってるか。危機を察知してつぶしに行くか。位置取りを工夫してるか。見てるとこっちの気持ちがぐんぐん入っていく。慶は抜群の働きをしていたが、ある意味、それ以上にすごかったのが原だ。先月まで高校選手権に出てた選手が堂々プロのピッチでやり合っている。前半は0対0。

 広島は森保一監督6年目のシーズン、円熟期のチームからベテランが抜け、工藤壮人、フェリペ・シウバらが加わった。僕はフェリペ(元U-19ブラジル代表のテクニシャン)の評判を聞いて内心ヒヤヒヤしていたが、この試合に関しては新潟・ホニのスピードのほうが迫力があった。大仕事をしたのは工藤だ。後半12分、CKから水本裕貴がヘッド、これをGK守田達弥が弾いたと思ったらきっちり詰めての移籍初ゴールだ。

 新潟からすると「警戒していたセットプレーからの失点」だ。悔しい。が、悔しがってばかりもいられない。試合はどう運ぶのか。あんなに頑張って守り抜いていた(そしてワンチャンスを狙っていた)試合で先に失点してしまった。広島は余裕で「ウノゼロ(1対0)を守り切る試合」ができる。フミタケさんはどう手を打つだろう。

 直後に打った手は後半13分の「成岡翔OUT→田中達也IN」だ。結果的にこれが的中する。広島は先制の後、森島司の突破&ポスト直撃弾等、一気に活気づく。達也は「走り切る」動きで流れを変えようとする。

 同点ゴールのシーンは新潟らしい「あきらめない心」の集積だった。まず富澤清太郎が右スペースへフィードを出す。これにホニがあきらめずに全力で追いつき、中央へ折り返す。エリアでは加藤大と達也が位置的に重なった。ここで譲り合ったり、ゆるんでいたらゴールはなかったと思う。二人ともやり切る覚悟だった。大がつぶれ、達也は左足を振り抜く。後半26分、2017年のアルビ初ゴールはベテラン田中達也だ!

 ただそこからね、めっちゃ心臓に悪い展開になる。後半37分、矢野貴章が2枚めのイエローを受けて退場。以降、広島の猛攻を辛くもしのぐ繰り返しだ。やばかったなぁ。奮戦に次ぐ奮戦。原くんなんか足がつってきついんだけど、フルタイム頑張った。

 じーんと来たのはラスト、本間勲がピッチへ送り込まれたシーンだ。「引き分け切る」という日本語はないんだけど、まさにそれを目的として勲が入った。何か説得力があった。大丈夫だ。勝ち点1ゲットだ。「三浦アルビ」は上出来のスタートを切った。ひとつずつ結果を残していきたい。この頑張りを続けていこう。


附記1、DAZNは結局、開幕節の2日間、不具合連発でしたね。僕はSEさん泣きそうだろうなと現場に同情しました。特に翌26日の「G大阪×甲府」戦はちょうどJ2の試合が終わったタイミングになり、こう、「一つしかない自動改札に何万人が殺到している」みたいな状態だったんでしょう。あわててバレーボール中継の配信をバラして改札口を増やしたんだけど、追いつかない。結局、Jリーグが異例のおわびを発表し、ユーチューブにフルタイム画像を上げるという対応になりました。これは簡単には解決しないんじゃないかな。

2、僕んちの環境だと(画質が悪いのはしょうがないとして)動きがカクカクしたり、画像がすぐくるくるして途切れたり、非常にストレスありました。去年までスカパー・オン・デマンドではこんなことなかったのに。で、翌日の「G大阪×甲府」をユーチューブで見て、これは画質もいいし、くるくるしないぞと感動しました。といって、まさか全試合ユーチューブに上げてもらうわけにもいかないんですけど。

3、3学期の市立船橋同級生は「うおおお、スタメン!」とすんごい盛り上がったでしょうね。教室にいたヤツがいきなりプロで田中達也と同じチームなんだもん。と思ったら今度はU-20代表候補キャンプにも呼ばれましたね。原くんには経験を糧にでっかく育ってほしいです。

4、小泉慶、マジ素晴らしくなかったですか? 僕は開幕直前、足立区の「春の湯」(慶のおじいちゃんが経営されてる銭湯です)に行って、「楽しみですねぇ、8番継承ですねぇ」なんて世間話させていただいたんですよ。そのときに慶のマリノスのジュニアユース時代、監督さんを務めておられたのが何と三浦文丈・新監督だったとうかがってびっくり仰天したんです。サッカーは人の縁ってところがあります。師弟コンビ、次に狙うは初勝利ですね!


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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