【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第321回

2017/3/23
 「ガマン比べ」

 J1第3節、新潟×清水。
 残念なことに2017年ホーム開幕戦はデンカビッグスワンで迎えられなかった。自分がスタッフを務めているアイスホッケーチーム、日光アイスバックスの本拠地最終戦シリーズと日程が重なったからだ。運営側だから最終戦セレモニーや氷上交流会に参加し、かつ会場のバラシ(僕はフェンスの広告シートをベリベリはがしてまわった)を手伝ったりする。貧乏チームだから設営から何からすべて自力だ。まぁ、栃木県日光市で勝利を祈っていたと思って下さい。

 清水戦の様子はスマホの速報で(ホッケー試合のインターバル等に)チラ見した。0対0のままスコアが動かず、まぁ清水相手なら芸風も似てるし、そうなるかなぁと思っていた。ワンチャンスをモノにしたほうが勝つ。ワンチャンスを逃がしたほうが負ける。何度めかのチラ見のとき、清水に得点が入っていてのけぞる。うわ、これチョン・テセだろうなと思った。得点者を見たら案の定だ。さすが去年のJ2得点王、勝負どころできっちり仕事する。

 ホッケー試合が終わり、あらためてスマホで確認したら新潟は0対2で負けていた。ダメを押されたらしい。それから色々こなして宿に引き上げるまで、知り合いのアルビサポからひっきりなしにLINEメッセージが届く。多くが長文だ。口調がきびしい。失望や怒りや疑問をぶつけている。そんなの言われたって俺、見てないんだよ。一体どんなゲームだったのか。

 僕は前夜、ラジオ特番『REAL ALBI ホーム開幕! 本気で4万人スペシャル』(FM-PORT)
を聴いて、ホーム開幕戦に向けてクラブも気合い入っとんなぁと感じていた。中野幸夫・新社長はとにかく動員に力を注いでいる。特番は観客減の問題にも踏み込み、打開策を探っていた。結果的にホーム開幕戦の観客数は3万1千人(3万人突破は2年ぶり)だったが、営業は頑張ったと思う。スタジアムの雰囲気はつくった。あとはサッカーだ。もちろん勝つのがいちばんだけど、第二優先事項があるとしたら「予感を感じさせる試合」だ。(招待券で会場に来たご新規さんも含め)皆が次を期待する試合、新しい何かが始まったと思わせるような試合だ。3万1千人にそれがプレゼンできれば必ず4万人に結び付く。

 だけど、届いたLINEの様子を見ると、とてもじゃないがそんな試合じゃなさそうだった。夜、意を決して宿のWi-FiでDAZN見逃し配信を見る。スマホの小さな画面にデンカビッグスワンが映った。本当に大入りだ。「愛してる新潟」のオレンジ小旗が配布されたようだ。新生「三浦文丈アルビ」のお披露目は美しい光景で始まった。清水エスパルスを迎えて3年ぶりのオレンジダービーだ。

 「ゲームは予想していた通り、ガマン比べの展開。前半は我々もセットプレーから惜しいチャンスが1本あったんですけど、お互いガマン比べの感じが続いたと思います」(監督会見コメント)とフミタケさん自ら振り返っておられるように、同じ堅守速攻サッカーの激突だった。ハイプレスで起点をつぶし、中盤スッと寄せて2、3人で囲む。練度が高い。新潟も応戦していたが、このスタイルは先方に一日の長がある。苦しい展開が続いた。

 たぶん両軍どちらも「0対0上等、後半勝負」の思惑だったと思う。守勢にまわり、押し込まれながら新潟はチャンスをうかがう。小泉慶、原輝綺の2ボランチはスワンお披露目で持ち味を発揮したと思う。慶は縦横無尽で8番の継承者そのもの。輝綺はセンスのかたまり、あの位置取りや要所要所のつき方はカンタンにできるもんじゃない。

 ただ新潟は得点の気配から遠かった。ホニが徹底マークされ、単騎行かせてもどうにもならないのだ。新潟は攻撃にひと工夫要る。現状、ホニ単騎でなければ山崎亮平がからむ程度が大半だ。もう少し人数をかけた厚い攻撃が欲しい。人数をかけられないのは守備バランス重視ということかもしれないが、攻撃が単調過ぎて完全に読まれている。そしてもう一つ大事なこと、守勢にまわるうち陣形が間伸びし始めるのだ。

 サッカーで後半に得点が生まれやすいのはそういうことだ。疲労で足が止まる。押し込まれて臆病になってラインが下がる。応急処置で穴をふさぎ続けるうち、ポジションがあいまいになる。点を獲りたい前線と守りに追われる後衛に意識のズレが生じる。後半30分過ぎ、ちょっと新潟のバランスがおかしかった。左サイドにぽっかりスペースが出来て、そこを清水・枝村匠馬に突かれる。フリーでクロスを上げられ、待っていたのはチョン・テセだ。ソン・ジュフン、矢野貴章と人数はいたけれどつききれない。後半31分、チョン・テセ先制弾。「ガマン比べ」に負けてしまった。

 「エアポケットといいますか、クロスのところで一瞬後手を踏んで決められた」
 「あの時間帯、自分たちのペースでゴールを奪いに行きたいという姿勢が出来た分、前にかかっていた。ただそれ自体は悪くない。失った瞬間、相手より早く帰陣したりというところが必要になると思います」(三浦監督会見コメント)

 失点の後は鈴木武蔵、チアゴ・ガリャルドと攻撃のタレントを続々送り込んだが、奏功しなかった。逆に後半48分、松原后にカウンターで追加点を喫するが、実質的な勝負はついていた。0対2で負けたこと自体は仕方ない。勝負事には裏目もあるだろう。

 ただこの試合は新しい予感や可能性を示すべき試合だったと思うのだ。勝ち負けじゃなく、それがアピールできたかどうか。原輝綺のように新規ファン層に訴求できる選手も登場した。3万1千人が次につながるかどうかが答えになる。


附記1、3・11の試合でした。試合前に僕も日光霧降アリーナで黙とうしました。6年たってまだ解決のつかない問題も多いですね。このところ福島県からの避難児童がいじめにあう事件がいくつも報じられ、胸の詰まる想いです。スポーツの「人をつなぐ力」が何かの役に立つことを願ってやみません。

2、「お疲れ様です。個人的に今までで最もつまらない、不安しか残らないホーム開幕戦でした」「ゴールの匂いがしないどころか、チームでボールを運べない。かつてのアルビ、僕が好きだったがむしゃらさ、ハングリー精神、闘争心がもはや見られない」「3・11を忘れてはならないとともに、11・3を忘れてはならない場所なんです、スワンは。『勝負は捨てるよ、残留が優先だからね、万一名古屋が頑張っちゃったらごめんね』という屈辱を数十分間、サポーターに味あわせた場所なんです。名古屋戦以降、何があってもチャントやコールで後押しし続けてきたサポーターに対するホーム開幕戦ではありませんでした」 これ全部、ひとりの男からです。彼がいちばん長文を送りつけてきた。(異論の余地はあるにせよ)真情は疑うべくもありません。これ書きながら泣いてたと思いますね。

3、ビッグスワンから届いた写真で感動したのは、「MF 早川史哉」の等身大バナーが当たり前のように「DF 西村竜馬」の隣りに掲示されてたことです。で、史哉の写真だけ去年のユニホームなんですよ。凹んでる場合じゃありませんね。病床で闘ってる史哉に恥じぬようにありたい。

4、ルヴァン杯鳥栖戦は2対2のドローでした。田中達也選手2ゴールですよ。ここまで公式戦4試合4ゴールです。すごくないですか? 一方、守備の面では(メンバーが変わったにせよ)、また「ガマン比べ」に負けた格好です。完封試合をつくりたいですね。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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