【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第322回

2017/3/30
 「チアゴ・ガリャルドはガリャるのかガリャらないのか?」

 J1第4節、横浜FM×新潟。
 スタメンが発表になって、これは三浦文丈監督、流れを変えに来たなと直感した。FWがホニとチアゴ・ガリャルドの2トップ、1列下がった位置に山崎亮平と加藤大。目を引くのはGKに(リーグ戦としては「J1デビュー」となる)大谷幸輝が起用されたことだ。3日前、ルヴァン杯鳥栖戦のパフォーマンスを評価してのことだろう。応援席は名物になっている「守田ダンス」が出来なくて、ちょっと拍子抜けのきらいがあったようだが、春風のなか背番号1に期待が高まる。

 横浜FMはモンパエルツ監督の3年目だ。昨オフは中村俊輔の移籍等、クラブ内のゴタゴタが報じられた。が、齋藤学の引きとめに始まり、ダビド・バブンスキー、ウーゴ・ヴィエイラといった新戦力をきっちり補強した。「空中分解の危機」どころか、好チームの誕生だ。開幕から連勝し、3節・鹿島戦こそ齋藤学の欠場もあって失うが、その齋藤も今節元気にスタメンに名を連ねている。

 新潟は堅守ベースのゲームプランに変更はないだろう。守り勝つサッカー。ガマンを重ね少ない得点で勝ちを拾う戦法。ただその割に失点が多いのだ。それも先制点を奪われている。「堅守」の看板が泣いている。この試合はとにかくまず「堅守」、アルビ復活のカギを握る最重要ポイントに注目したい。

 それからもうひとつ、ルヴァン杯鳥栖戦で本間勲が教えてくれたことだ。あの試合、勲は後半14分からの交代投入だった。彼が入ってサッカーが一変したのだ。それまでフミタケさんの言う「スピーディー」が悪く作用した印象の、単調でつんのめるようなサッカーが続いていたのだが、勲が入って軸ができた。勲はかつて全盛時に評された「ピッチのコンダクター」そのものだった。勲を経由することでタメが生まれリズムが生まれた。あの試合、田中達也と並ぶ殊勲者は間違いなく勲だ。そして勲は「時間をつくれる選手」の必要性を彼は議題に上げたといえる。

勲「あ、もしもし、あのさ、悪いけど明日、時間つくれる?」
翔「勲さん、時間つくれるってそういう意味じゃないでしょ」
勲「え、そうだっけ? で、時間つくれるの?」
翔「攻め上がるとき、ひと呼吸タメをつくるなどして、味方が攻め上がるための時間をつくることですよね。機械的に前へ出してたら、攻め急ぐだけになって分厚い攻撃にならない。コンダクターとはチームに信頼されていて、その人がボールを持ったら上がるっていうサインになるような存在ですよね」
勲「で、明日は時間つくれるの?」
(空想上の本間勲と成岡翔の電話やりとり)

 スタメンで「時間をつくれる選手」の期待がかかるのはチアゴ・ガリャルドじゃないか。空想上の電話やりとりとしては「勲サン、ボク、時間ツクリマス。万代集合デイイデスカ?」。特に僕が思うのはホニの凄みを引き出す役割だ。ここまでチームとしてホニのポテンシャルを十分生かしてきたとは言い難い。チアゴ・ガリャルドにはその役割を担ってもらいたいのだ。

 試合。前半はまずまず意図通りといえた。「堅守」の割にカンタンに突破されるシーンも目立ったが、フミタケさんがこうオーガナイズしたいんだろうという方向性は見えた。開幕以来の傾向としては後半途中になって試合が動きだすパターンが多い。選手がフレッシュなうちは陣形も崩れず、やり合えているのだ。

 但し、スーパーな仕事をされたら話は別だ。前半33分、ミスからボールを失い、横浜・マルティノスにカットインされ、左足のキャノンシュートを決められる。うわ、やられた~と屈託なく声を上げそうになるゴール。お見事。だけど、新潟は意気消沈することなく頑張ってたんだ。前半40分、驚くべき幸運が舞い込むことになる。

 たぶんホニはダメ元で詰めたんだと思う。横浜DFとGK飯倉大樹の連携ミスでボールが獲れてしまった。パスに微妙にバックスピンがかかっていて(思ったより伸びず)、うまい具合いにホニにおさまった。そのまま流し込んで、ホニ初ゴール! ゴール後はバク転2発と、おなかにボールを入れる「妊婦」パフォーマンス(彼はもうすぐお子さんが生まれる)。

 「相手のスキを突いて奪い、得点機をつくる」ショートカウンターの図式が、いちばんコンパクトになり、個人技のところまで落とし込まれたらこのゴールになるんじゃないか。チームとしての得点にはまだなってない。が、フミタケさんの戦術意図は大雑把にはこういうイメージだ。選手らには守り抜き、かつ敵のわずかなスキも見逃さない体力と集中力が要求される。

 前半終わって記者席にサカマガの「ドクター国吉」こと国吉好弘さんがおられたので感想をうかがう。「苦しいねぇ。守りは1対1が弱い。ラインが揃ってても、きびしく行ってないから抜けられる。攻撃は単発だしね」「やれることをいっしょうけんめいやってますって感じだよね」 首都圏の評論家、ライター諸氏は戦力の充実した強豪クラブを日頃、取材している。(例年以上に)新潟は置いて行かれてるんじゃないだろうかと不安に駆られた。

 で、スコアに動きがあった前半より(動きのなかった)後半のほうが内容的にはきびしかった。相手が(特にウーゴ・ヴィエイラが)ミスしてくれたのだ。でなければボコられていた。嵐のなかを行く帆船だ。大波をかぶり、船体がきしみ続ける。あの苦闘を「粘り強い守備」と呼んだりして、アテにしちゃいけないだろうと思う。無失点で切り抜けられたのは、選手の奮闘に加えてラッキーが作用している。サッカーも人生もそうだが、いつもラッキーというわけにはいかないからね。

 チアゴ・ガリャルドの評価だけど、まだフィットしてないと思う。下がって受けに行ったり、2トップの一角というよりは司令塔タイプを思わせた。ボールは落ち着く。連携ができてくれば面白いだろう。だけど、この試合に限っていえばまだ十分にはガリャり切れてない。もっともっとガリャればいいのに。ガリャってナンボじゃないか。後半32分、本間勲、同38分、田中達也が投入されるが流れを変えるには至らない。

 試合終わってもう一度、国吉さんに感想をうかがったら「苦しいねぇ、コツコツやってくしかないけど、大丈夫かなぁ」だった。僕も引き分けられてラッキーと思う反面、一体どうやったらこのチームが勝てるだろうかという心境になっていた。武器がないイメージなのだ。この形がハマッたら強いというパターンがない。ホニのカウンター単騎だけじゃ見え見えだ(しかも、まだそれがハマッていない)。本当はセットプレーで点が取れたらいいんだけど。

 緊急補強といったドラスティックな手を別とすれば、「堅守」構築しかないだろう。そんなに大量点の奪えるチームではない。今、最もリアリティを感じる勝ち試合のスコアは「1対0」じゃないだろうか。ここはいっぺん整理だな。代表戦の関係で、日程的にはここでひと息つける。聖籠で課題に取り組もう。一歩ずつ前へ進もう。


附記1、この試合は矢野貴章、齋藤学両選手のマッチアップが実に見応えありました。ホームでやるとき、皆に見てほしいですね。「ザ・フットボール」ですよ。

2、大谷幸輝選手は見事なパフォーマンスだったと思います。これは正キーパー争いに火花が散りそうです。(GKだけで成り立つものじゃないにせよ)守田、大谷のどちらが先に完封試合を達成するか楽しみにしましょう。

3、アン・ヨンハ選手が現役引退を表明しました。03年のJ1昇格に貢献した「クラブレジェンド」の一人ですね。個人的にはウェブ上で川柳を発表されてたのが思い出されます。アルビ史上初めて「代表招集」された選手であり、後に2010年南アW杯では、国際映像に映った「日本代表の貴章」「北朝鮮代表のヨンハ」に大興奮したものです。是非、ビッグスワンで引退セレモニーをやりましょう。本間勲に花束渡してもらいましょう。
 

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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