【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第330回

2017/5/25
 「これで何も感じなければ選手として終わり」

 J1第11節、新潟×浦和。
 コラムタイトルに採用したのは試合後、堀米悠斗の発したコメントだ。1対6。屈辱的な大敗だった。勝った浦和は首位に浮上し、敗れた新潟は最下位に転落した。まぁ、この際、順位自体はどうだっていい。18位が17位でも降格圏に沈んでいることに変わりはないだろう。まさか読者のうちに17位だから大丈夫だという方がおられるとも思えない。

 まぁ、僕も浦和に勝つ可能性はわずかだと思っていた。さすがにミシャもさいたまダービーの轍は二度踏むまい。それでも見に行こうと決めていた。前回も書いたように片渕浩一郎監督代行、内田潤コーチには去年の恩がある。2年続けてこんな苦しいところに出てきてもらうのが本当に申し訳ない。せめて苦しいところには皆で立ちたいじゃないか。

 それから試合前日、モバアルに掲載された内田潤コーチのコメントに打たれた。夜、読んでいて眠れなくなり、一刻も早くビッグスワンへ行きたくなった。

 「(前略)明日、スタジアムでサポーターのみなさんが、どう振る舞ってくれるのか。僕は、そこにも注目している。選手たちの心にグッと来る迎え方を期待しているし、そんなみなさんを見て、選手たちも感じ取ってほしい。この状況でも、これだけの人が君たちのそばにいてくれるんだよ、ということ。お金も時間も使ってスタジアムに足を運んでくれている、そういうみなさんのことを感じてほしい。君たちもここまで悔しい思いをしているけれど、サポーターやスタッフ、アルビにかかわるすべての人が悔しい思いをしている。そんなみんなを笑顔にできるのは、君たちしかいないんだよ。選手たちにはそれをしっかり理解して、ピッチに立ってほしい。

 サポーターのみなさんにも伝えたいことがあって、今の状況に対して言いたいことは山ほどあると思う。僕もあるし、選手たちにもあると思う。ただ、シーズンはまだ3分の2残っていて、場合によっては今の厳しい戦いが最後まで続く可能性もある。言いたいことを言うのはすべて終わってからで、今ではない。少しだけ今は我慢して、選手たちのそばにいてほしいと僕は願っている。
 
 今、新潟がバラバラになってしまったら、間違いなく何一つうまくいかない。どうすれば、この状況を乗り越えられるのか。今、僕たちが直面している状況は、残り5試合頑張れば--といったものとは次元が違う。新潟という一つの大きな力になって立ち向かわないといけない長丁場で、とても難しいミッション」([選手・スタッフコメント]~明治安田生命J1第11節浦和レッズ戦に向けて~より)

 僕は昨シーズン、磐田戦の前、片渕さんがハンドマイクを持ってゴール裏へ向かったのにも驚いた。片渕さんも内田さんもサポーターに直接語りかける言葉を持っている。その熱が直(じか)に伝わる。素晴らしいことだ。

 「(中略)こういう状況になった責任をフミさんもマニさんも強く感じているはずだし、本当に無念だったはず。じゃあ君たちは、この状況をどうとらえているの。もし2人が辞めたことを他人事と感じているとしたら、そんなのはくそ野郎だと最初のミーティングで言った。自分がじゃべる予定はなかったが、中野社長、神田強化部長の話を聞いている選手たちを後ろから見て、”何でこんな感じなんだ?”と思ったから。

 真っすぐに聞いている選手ばかりじゃないのはなぜなんだ、と。自分のところの監督が辞めたんだぞ、何も感じないのかよ、と。フミさんやマニさんの無念さを受け止めて、しっかり背負ってあげて、覚悟と責任感を持ってサッカーをしろよ。逃げ道を探すなよ。これでお金をもらってるんだから仕事しろよ、プロなんだろ」(同上)
 
 もちろん選手にもストレートに語りかけた。1週間でカップ戦とリーグ戦の2試合、僕は戦術の見直しのようなことより、この部分に期待した。もう一度、新潟を闘う集団にして欲しい。片渕さん内田さんの熱を吹き込んで欲しい。

 だから前半、5点取られてもノートを取り続けた。先制したのに1点返されただけでチームはちぐはぐになった。選手たちは気持ちが先走っていた。いらだちが顔に出ている。身体が動いていない。何でこんな簡単にウラ抜けされるのか。あっさり1対1で負けるのか。セルフジャッジして傍観するのか。これが現実だと受け止めるしかない。勇気を出してこの現実と向き合わなくては。

 後半は「1失点しただけで、かなり盛り返せていた」という声もあるし、浦和も5点差つけたらそう無理攻めして来ないだろうという見方もある。どっちみち試合は「屈辱的大敗」なのだから、僕は人を見た。気持ちを出してるのは誰か。勇気をふりしぼっているのは誰か。

 サポーターはボロ負けのチームを目の当たりにして心が砕けそうだ。砕けそうだがけんめいにこらえていた。自分を船のマストにくくりつけていた。声を枯らす。思いをこらす。新潟負けんな。自分はこの船に乗っている。新潟負けんな。

 1対6で試合が終わり、放心状態の選手たちが場内を巡る。目を腫らしている選手がいた。口を一文字に結び悔しさに耐える選手も。皆、傷ついてがらんどうのようだった。がらんどうは虚(うつ)ろで悲しい。自分に失望しかけていた。

 そこにスタンドから熱烈な声援が飛んだ。これがこの試合のいちばん大事なシーンだ。頑張れ、ここからだろ頑張れ。新潟負けんな。頑張れ、ここからだろ俺がついてる。皆、叫びながら泣いていた。胸の奥から熱いものがこみ上げる。これで何も感じなければ選手として終わり。僕もゴメスの言う通りだと思う。


附記1、ゴメスこと堀米悠斗選手は交代出場で果敢に切り込んでましたね。これから出場機会が増えるかもしれません。僕は開幕前から「ゴメスの名はゴメス」ってタイトルで堀米選手の活躍を描きたくてしょうがない。60年代のスパイ小説です。確か結城昌治。主人公を尾行してた男が「ゴメスの名は‥」という謎の言葉を残して殺されるんですよ。謎すぎるでしょ。

2、VIPルームで呂比須新監督、サンドロコーチが視察されてましたね。

3、今週は呂比須体制で新しいチャレンジが始まっています。聖籠は空気が一新したようです。札幌戦はどんな戦いになるのかなぁ。呂比須監督の奥さんの親戚「斎藤さん」はスワンに来られるかなぁ。 
 

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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