【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第341回

2017/8/10
 「ボールを動かせてるのはトレーニングでやってきたからだ」

 J1第19節、FC東京×新潟。
 3週間のサマーブレイクを経て挑む「第2開幕戦」だ。そもそも開幕戦っていうのは監督さんにとって施政方針演説みたいなところがあり、今シーズン、うちのチームはこんなメンバーでこんなサッカーをしていくつもりです、ブレずに続けていくんでよろしくお願いします、という具体を示す場じゃないかと思うのだが、その意味で新潟・呂比須監督、FC東京・篠田善之監督が(ものの喩えじゃなく!)本当に「第2開幕戦」していて、実に興味深かった。

 新潟はわかりやすい。最下位からの巻き返しだ。夏の移籍で加わった磯村亮太、大武峻をさっそくボランチとセンターバックでスタメン起用だ。新しいメンバーを加えて、新しいやり方にトライする。期待のブラジル人FW、タンキはメキシコ協会から国際移籍証明書が届かず、登録が間に合わなかった。

 FC東京もガラッと変えた。森重真人主将の長期離脱(左足首手術)もあり、篠田監督はシーズン途中での3バック採用に踏み切る。新潟戦はまさに「これで行きますんで、よろしくお願いします」だった。欧州リーグを見ても3バックが復権しつつあり、それがまた「守るときは5バックになって守り偏重」とは言い切れない攻撃的なアプローチであったりする。長く4バックを採用してきたチームがどう変化するだろう。面白いのは26日のルヴァン杯広島戦とほぼ同じスタメンを組んできたことだ。夏場の中2日だ。フツーに考えれば可能な限りターンオーバーだろう。これは新システムの採用と関係あると思ったほうが自然だ。同じメンバーで実戦を重ね、早く固めたいのかもしれない。

 味スタは異様な湿度だった。遠くのほうが白っぽく見える。ちょっと鬼プレスには不向きなコンディションだ。省エネではないけれど、注力するポイントをしぼる必要がある。新潟のポイントはどこかというと左右のSH(ホニ、矢野貴章)の推進力だ。ホニはスピードで貴章は身体の強さで、多少アバウトなボールでも収めてくれる。要はこの2人に(カウンターから)どれだけ意外なパスが出せるか。出せないときは単に跳ね返しとくけど、チャンスがあれば出す。で、2人がタテ突破して折り返したときに、ちゃんと人数かけてゴール前に入れてるか。そして決め切れるか。そういうことじゃないかな。

 磯村は即効性があった。配給王だ。落ち着いている。急に加わった選手という感じがしない。おかげでロメロ・フランクの強さが生きた。大武もそうだけど、メリハリがある。やることがハッキリする。センターラインの補強で背骨が一本通った観あり。あとハッキリという意味では、ソン・ジュフンが持ったらドーンと前方に大きく蹴ることにしていた。あれがいちばんリスクがない。つながなくていい。ジュフンも身体を張って良さが発揮できた。「第2開幕戦」は出来ることと出来ないことが整理されていた。

 先制は新潟だ。前半12分、ホニのFKにチアゴ・ガリャルドが合わせる。低い弾道に頭でスラす感じで入ったから、敵GK・林彰洋も予測がつかなかった。試合展開からいうとずっと0-0で膠着したまま進んで、終盤にこれが来たほうが効き目あったと思うけど、ぜいたくは言ってられない。新潟の先制点は貴重だ。ここからしっかり守って、終盤、相手の不慣れな3バックのスキを突くのが理想だ。前半はそのまま1-0で終わらせることができた。サマーブレイクの特訓は一定の成果を出している。

 呂比須監督のハーフタイムコメント。
・守備はポジションを意識して、集団で動こう。マッチアップには絶対負けるな!
・ボールを動かせているのはトレーニングでやってきたからだ。自信を持って進めよう。勝つぞ!

 セットプレーの攻撃と守備の見直し。それから「ボールを動かせている」という実感。練習は正直にピッチに表れる。たぶんファン、サポーターの多くが前よりずっと良くなってると感じたはずだ。

 勝つチャンスはあった試合だと思う。(特に後半は)FC東京に押し込まれっぱなしで、3点くらい取られても不思議はなかったが、GK守田達弥がファインセーブを連発した。この日は飛び出しのタイミングが抜群だった。守田も中断期間に自分のプレーを見直し、トップフォームを取り戻したのかもしれない。この試合の殊勲者は守護神・守田で間違いない。

 もうひとつはツイていたのだ。敵のシュートがポストやクロスバーを叩いてくれた。逆にいうとあれだけ守田が当たっていて、ツキがあっても守り切れないんだなぁと思った。後半21分、ピーター・ウタカの個人技だ。ワールドクラスのド迫力シュートではあったけど、そこに至るまでには軽いプレーでマークを離してしまった選手がいる。

 試合は1対1のドローで決した。最下位に沈む現状を思えばとても勝ち点1では喜べない。正直、あれだけツイてたんだから勝ちたかったと思う。だけど、良い部分も見えた試合だ。呂比須監督はチームに自信を植え付けたい。それが勝利への最短ルートだから。


附記1、早川史哉がツイッターで「きっと大きな大きな1。まだまだここから!」(7月30日)と励ましてくれました。本当は僕らのほうがが励ますべきなのに。

2、次節、横浜FM戦はガリャルドが出場停止ですね。あの要のポジションに誰が入るのか、そしてどんなパフォーマンスを見せるか興味津々です。ガリャは巧いけどガス欠があるでしょう。あのポジションに脅かす選手が出てほしい。

3、タンキの書類はいつ届くのかなぁ。書類が届かないってめっちゃ意外でしたね。郵便なんですかねぇ。郵便じゃない気がしますね。今どき添付でしょう。僕は無事届いた暁には、郵便屋さんが戸口で、こ、これを届けましたよ~、とバッタリ倒れてて偶然、西村竜馬が受け取ってる(横でタンキが来た~!と飛び上がってる)イラストのTシャツを発売してほしいです。文字は「THE DOCUMENTS ARRIVED TODAY!」でどうでしょう? 


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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