【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第350回

2017/10/12
「今夜は眠れない」

J1第28節、新潟×神戸。
とにかく説得力があったのは、小川佳純のコメントだ。敗戦にただただ凹んでいる秋の夜長、その言葉はじんわりと胸にしみ込んできた。

「自分も含めて1人1人がもっとミスを減らさないといけない。シュートを決め切る、パスを通す、ボールを失わない、1対1でやられないというのを1人1人がやらないと、いくらチーム戦術があってもサッカーは勝てない。神戸はオウンゴールで先制して、1人、2人とかわして決め切るポドルスキ選手が結果を出せた。チームの戦いをいくら整備しても、最後のところで決め切るか、ラストパスを通せるかという個人のパフォーマンスが大きく左右する。1人1人がクオリティーを上げないと、勝ちに近づくことはできない」

「今のチームが置かれている状況は、個の力不足が原因。戦術や監督に原因があるとは自分は思わない」

これはかなり厳しい言葉だ。敗因を選手の質に還元している。ミもフタもない指摘だ。ある意味、選手だから言えることでもある。監督は(喉まで出かかっても)なかなかこれは言えない。

「もちろん選手もみんな体を張って頑張ってはいるが、勝ち点3を取るのは最後の局面での個の力、クオリティーが大きく問われてくる。神戸は試合全体を通して個の能力の高さをプレーで示していた。つなぐべきところをつないで、無駄にボールロストをしない。1対1で対面の相手に勝つというのを試合を通してカウントしたら、うちと神戸とでは圧倒的に差が付くと思う。そこは自分たち選手の責任。いくら監督がしっかり戦術を立てても、ピッチの中で実践するのは選手だし、それができなければ選手の責任」

「新潟に来て試合に出てみて、選手のクオリティーによる敗戦だと感じている。今日の試合もそうだが、あれだけチャンスをつくれているし、守れてもいる。ここから先は、1人1人の努力と集中で乗り越えていくしかない」

ため息が出る。「1人1人の努力と集中」である。こう、何となく学校のホームルームで「生徒ひとりひとりの責任と自覚」と言ってたのに似ている。言うは易く行うは難しの典型だ。小川の言う「選手のクオリティーによる敗戦」は、単に頑張りが足りないということなのだろうか。頑張りが足りないのなら頑張ってほしい。

 と、考えてたら眠れなくなった。部屋備え付けのポットでお湯をわかし、ティーバッグの緑茶を淹れて本格的な夜更かしだ。思いついてFMーPORT「リアルアルビ」中継をタイムフリーでポイント再生(本なら拾い読みだけど、「拾い聴き」って日本語はまだない)してみた。さっきDAZN配信を見たばかりなんだけどね。

解説の奥山達之さん(アルビレックス新潟アカデミーダイレクター)は「後半20分過ぎから(間延びして)真ん中が空いた」と指摘していた。で、その後の時間帯、「守備するふりをしていた」という言い方をした。もうバテて足が残ってなかったのかもしれない。DFラインに人数は揃っているのだが、取りに行かない。守備ではなく「守備するふりをしていた」というのだ。

 これはつまり、「頑張りじゃどうにもならない部分」も足りないんだけど、頑張り自体も足りてないという話だろうか。0ー2になった後、僕の目には、アルビが追いすがろうとして必死のチームには見えなかった。呂比須監督もキーパーを上げて、なりふり構わず点を取りにいく指示はしなかった。

 気がつくと日付が変わり、9月が終わっていた。部屋の灯りを消して、思いにふける。アルビに関わる人は皆、泣きたいような夜を過ごしている。夜は静かに更けゆくのだった。


附記1、ポドルスキ選手のゴールは素晴らしかったですね。悔しいけど、それは認めざるを得ません。

2、神戸はこの上、オランダ代表のスナイデル(ガラタサライでポドルスキとコンビを組んでいた)を獲得するかもって報道が出ましたね。頭くらくらしますねぇ。

3、2週間のブレークで立て直しましょう!

4、『今夜は眠れない』(宮部みゆき著、中公文庫)という推理小説があったのを思いだしました。一応、ジュニア向けですが、宮部みゆきだから大人が読んでもグイグイ引き込まれます。主人公がサッカー少年で、章立ての構成が確か「前半戦」「ハーフタイム」「後半戦」「PK戦」ってなってるんですよ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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