【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第361回

2018/3/15
 「セカンドボール」

 J2第2節、新潟×松本山雅。
 前夜、最終便で荒天の北海道から戻って、この日は朝から『土曜ワイド/ナイツのちゃきちゃき大放送』(TBSラジオ)に出演の後、日光へ移動してアジアリーグ・アイスホッケーのプレーオフ第1ラウンド運営業務であった。松本山雅戦は夜、宿で資料整理をしながら、FM-PORTの『リアルアルビ』中継をタイムフリー再生する。中継スポンサーに新発田のえのもとミートという会社が加わったらしく、CMで「えのちゃんのビーフカレー」という商品名を言うのだが、気になって仕方ない。

 3日、ホーム開幕戦は快晴に恵まれたのだ。この週、列島各地は大荒れで、北海道は吹雪で大混乱、新潟では強風で電柱が倒れた。ホーム開幕が一日ズレていたら開催自体ができたかどうかわからない。電柱が倒れるような風のなか、サッカーができるかという問題だ。また爆弾低気圧は雪が吹き降りになったり、落雷で観客が危険に陥る可能性もある。すごくツイていたと思うのだ。青空の下、ビッグスワンに2万2千人強のサッカーファン(うち山雅サポが2千人強)が集結した。

 花のホーム開幕は隣県長野の松本山雅戦だ。言うまでもなく敵将は反町康治氏だ。そして、今シーズンは昨年までアルビに在籍した守田達弥がゴールを守っている。もう、むちゃくちゃ楽しみなカードだ。僕は日光と新潟に身体が二つ欲しかった。知人サポから試合前に行われたという、早川史哉選手自らの経過報告の写真が届いた。すごいねぇ。スーツ姿でフミヤがファンの前に立っている。本当に見たかったなぁ。フミヤはたった今だって病魔に打ち勝つヒーローだけど、いつか必ず公式戦で決勝ゴールを決め本当のヒーローインタビューを受けてくれると信じている。待ってるぞ。フミヤが開幕戦のスタジアムに立ってくれて感動だ。

 今節は小川佳純と広瀬健太がケガでスタメンを外れた。矢野貴章が2トップの一角、富澤清太郎がCBの一枚に入る。またSHには端山豪でなく高木善朗が入った。まぁ、松本山雅戦といったらGOGO端山の出番(2015年、山雅戦に特別指定選手として出場、素晴らしいミドルを決める)なんだけど、高木善朗のスタメンも一日も早く見たかった。僕はかねてヨシアキのファンだ。移籍が決まって(東京Vを追いかけてる)ライター海江田哲朗さんに「本当にいいの? ありがとう~!」と、ソッコーでLINEメッセージを送った。

 システムは新潟が4-4-2、松本山雅が3-5-2。もう数字を見ただけでわかるが、山雅のほうが中盤の人数が1枚多い。ここがポイントだった。アルビ・鈴木政一監督は「支配率を上げたい」がテーマだった。が、システムの構造上、中盤はどうしても山雅のほうが厚くなる。ボールを動かし、中盤の構成力を上げるには、相手を押し込み5バックにしたい(つまり5-3-2の状態、中盤の人数は4人対3人でこちらが上回る)ところだ。安田理大、川口尚紀の両SBがたぶん最初の戦場になる。といってただ行けばいいってもんじゃない。鈴木監督は「つるべの動き」を原則にしていて、片方が行けば片方はとどまるイメージのようだ。仕掛けに関しては「判断」というキーワードを強調していて、行くのかとどまるのか、そのイメージを(個人としてもチームとしても)ハッキリさせたい。

 試合は激しいものになった。山雅の戦意が高い。球際にきびしく来て、アルビの選手は顔を押さえて転倒したり出血したりした。負けんなアルビ。ここは絶対引いちゃいけない。宿での資料整理を終えてからもちろんDAZN映像を確認したのだが、FM-PORT中継を聴いて想像してたのよりこのせめぎ合いのくだりは重要に思えた。このせめぎ合いで勝つ必要があった。やっぱり中盤の人数が足りない。ボールが動かない。

 が、ここでスーパーな出来事が起きる。左サイドから高木善朗がクロスを入れ、矢野貴章が競り合って合わせる。前半44分、今季スワン初ゴールは貴章の強さが際立つヘッド弾! FM-PORT中継の実況・立石勇生さんは「ゴーーール! 重苦しいムードを全部ぶっ壊したー!!」と叫んでいた。それだけ苦しい展開だったのだ。前半終わって1対0。ヨシアキ&貴章、個の力でもぎ取った得点。

 なかなか戦術的に見応えのある試合だった。そりゃ派手な点の取り合いも面白いが、こういうスルメのように噛んで味のある試合も僕は大好物だ。一にかかって「戦術家・反町康治」監督のおかげだと思った。どんな手で来るか対戦していて楽しいのだ。僕は鈴木政一監督の手筋をそんなに知らない。こういう試合を通して少しずつわかっていくんじゃないかと思っている。

 そして反町監督は後半15分、2枚替えの大胆策で来る。工藤浩平とセルジーニョ同時投入だ。これは効いた。山雅はチーム全体がギアを上げた。アルビは混乱し、対応に追われる。FM-PORT解説の奥山達之さんが「セカンドボール」の攻防を軸にわかりやすく絵解きをした。鈴木監督のハーフタイムコメントに「セカンドボール」という言葉が出てくるのだった。鈴木アルビはセカンドを拾って2次攻撃、3次攻撃とジャブを打っていきたい。それがさっぱり拾えないのだ。理由を奥山さんは「ファーストディフェンダーが行ってるんですけどね、行ってるフリをしてるだけで‥」とコメントした。敵のボールホルダーに行く1人目が軽いのだ。軽いから剥がされて2人目がきつくなる。セカンドを拾われ続けるとこちらはラインが下がる。陣形が間延びしだす。防戦一方になる。奥山さんは「監督の言うジャブがアルビに来てる」とまとめた。

 失点は後半36分、田中隼磨→セルジーニョの一発。疲労困憊したソン・ジュフンの足がつった最悪のタイミングだった。何人かがその前のところでハンドがあったんじゃないかとアピールしていた。まぁ、念のためアピールするのは構わない。それ自体は後ろ向きなことも何でもない。が、(いかに苦しい時間帯だったとはいえ)セルフジャッジしたのはよくない。セルフジャッジが失点に結びつくのはもっとよくない。

 トータルで言えばやっぱりやられたか~、という試合だ。「勝ち点2を失った」というより「負けないでよかった」感が強い。スコアは引き分けだけど、内容は完敗。何か手の打ちようはなかったかな。これは敵のホームに乗り込んでやり返さなきゃいけない。


附記1、水曜日(3月7日)のルヴァン仙台戦はメンバーが新鮮で、ここに書ききれないくらい発見がありました。読者の皆さん、ルヴァン面白い!最終盤、ターレスの落とし&田中達也スーパーゴールで追いついたんですけど、そのクライマックスだけじゃないですね、この試合は。

2、山雅戦に関して別の言い方をすると走り負けましたね。選手がクタクタにされた。これはもちろん単純な走力&持久力という問題だけでなく、「試合を支配された」「ボールが動かせなかった」ということです。

3、サッカーの見どころの一つはこの「セカンドボール」ですね~。どっちが拾い続けるかで、大げさでなくオセロゲームみたいに局面が変わります。アルウィンの対戦ではこっちが拾いまくって、山雅をクタクタしてやりましょう。


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