【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第365回

2018/4/12
 「3バックのミステリー」

 J2第7節、熊本×新潟。
 当日朝の新潟日報スタメン予想が既に3バックだった。右から原、富澤、ソン。アルビが今季初めて「3-4-2-1」にシステム変更して戦いに臨むことは、聖籠での練習内容を通じ一般にも報じられていた。DAZNの試合前インタビューでも鈴木政一監督が採用を明言していた。だからたぶんアルビ通(?)であればあるほど、事前の情報通りというか既定路線というか、すんなり受け入れられることだったと思う。

 僕は何でかなぁと首をひねっていたのだ。何で熊本戦でやる? 熊本に何か特別なものがあるということか。それとも(相手が熊本だからということでなく)これまで「4-4-2」でやってきてちょっと煮詰まったということか。煮詰まった感は確かになくはなかった。戦術がハマらないときが多い。ここまで失点3で乗り切って来れたのは(敵失にも助けられ)ぎりぎりのところで何とか防いできたからであり、決して「堅守復活」というニュアンスではない。

 知人サポは「ミラーゲーム楽しみです!」とLINEメッセージを寄こした。ミラーゲームとはマッチアップをハッキリさせるためにそっくり同じ布陣を敷くことだが、アルビ通(?)の間では「3-4-2-1」がそう理解されていたのだ。まぁ、フタを開けたら熊本は「3-3-2-2」っぽかったのだが、とにかく「熊本戦はミラーゲームを挑む価値がある」とイメージされていたと思う。

 それがDAZNの試合前インタビューで「?」となる。鈴木監督が「高さ対策」と意図を明かしたのだ。監督さんがメディア向けに常に本音を語るとは限らないが、マッチアップの難しさ(オーソドックスな「4-4-2」どうしのときはあんまりミラーゲームとは言わない。変則的なフォーメーションに対応する策だ)よりも「高さ対策」が先に来るニュアンスらしい。「熊本に何か特別なものがあるということか?」の答えは高さだった。少なくともロジックの上ではそうなる。

 と、別の知人がすかさず「開幕前、相手に合わせることはしない、こちらが目指すサッカーで戦っていくって言ってませんでしたっけ?」とツッコミを入れてきた。あくまで鈴木アルビには内発的・自発的な理由で変化を遂げてほしいという考えのようだった。ちょっとそこの機微は僕にはわからないなぁ。アルビがちょうど熊本戦で変わるタイミングだったのか、それとも熊本は変わらざるを得ないほどやりにくい相手なのか。

 もちろんそれは試合を見ればある程度わかるはずだ。聖籠ではそんなに3バックは試してなかったように聞いている。例えばキャンプから4バックと並行して練習していたという感じではない。下手したら「急造3バック」と言われかねないものがあった。結果が問われるのだ。勝負事はどちらに転ぶかで見え方が変わってくる。

 試合。これは大いに疑問符の残る内容だった。序盤はチャンスをつくり、積極的に攻め立てていた。が、次第に相手が対応してくる。ニュアンスを言うと、格上だと思ってビビッていたロアッソの選手が20分くらいの時点で「あ、これ何とかなるな」と思いだした感じだ。アルビはあっという間にやられる。前半24分と26分、たて続けに北朝鮮代表のアン・ビョンジュン。頭くらくらした。0対2だ。エープリルフールじゃなく現実だ。

 アルビは警戒していた高さでなく、スペースでやられていた。1点目はソン・ジュフンがウラを取られ、追いつけなかったもの。2点目は3バックの左のスペースを使われ、熊本・田中達也(同姓同名!)に折り返され、アンのヘッド炸裂。アルビのスカウティングは「高さ要警戒」だったようだが(そして、それは一応、防げたということなのかもしれないが)、やられ方を見ていると「うわー、足速ぇ!」の連続だ。

 僕はこれを急造3バックのせいだとしないことには無理があると思う。試合後の監督、選手のコメントを見ると、「失点と3バックの可否は分けて考えてほしい」という矢印が働いている。3バックの採用で中盤の人数が増え、攻撃に厚みが加わった。これは可能性がある。ポシャらせるのはもったいない。大体、失点にからんだ「ポジションの悪さ」も「マーク受け渡しの不備」もそれ自体は3バックでなくても起き得ることだ。と、ざっくり言ってそんな矢印。

 うーん、確かに3バックでなくても起き得ることは起き得る。けど、「3バックの守りが不慣れだったからより起き得る危険性があった」、もしくは「まさにそこを突かれた」とも言えるだろう。それから3バックの左(4バックなら左SBのウラ)は元々、狙われるスペースだった。元々あった穴を広げてしまったという言い方もできる。そしてそんな七面倒くさい話は抜きにして、シンプルに失点数だけを見る方法もある。前節まで6試合戦って失点3、この試合の失点3。

 これは3バックのミステリーだ。えがお健康スタジアムを埋めた4691人、DAZN配信を見た何万人の探偵が謎解きに挑戦する難事件だ。果たしてアルビは次節、首位・岡山戦でも3バックを続行するだろうか。それは「高さ対策」だろうか。それは今度こそミラーゲームにするためだろうか。熊本戦は事件の伏線なのだろうか、回収されない小ネタなのだろうか。果たして事件はどう動きだす?

 熊本との初対決は1対3で敗れた。完敗である。サポーターは意気消沈だが、監督、選手からはあくまで前向きなコメントが発せられた。まぁ、これはその逆よりずっといい。最終節、自動昇格圏にすべり込むことを考えるとそう何度も負けられないのを百も承知で言うが、僕は俄然、面白くなってきた。早く岡山戦が見たい。これが何かのきっかけになってくれたらいいんだけどな。


附記1、ルヴァン横浜FM戦もスコア上は1対3の負けでしたね。但し、こちらは逆転負けです。前半はアルビが押していた。初出場の岡本將成くん、めっちゃ頑張ってたんだけどイエロー2枚もらって退場食らいましたね。一生忘れないでしょう。これも経験ですね。

2、熊本戦は渡邉新太よかったなぁ。積極果敢。あの姿勢がPKもらうところに結びついた。若武者っぽくて気持ちいいですね。ガンガン行ってほしいです。

3、熊本戦は「田中達也ダービー」ともささやかれた一戦でしたが、マッチアップは実現しませんでした。うちの田中達也が不出場だったからです。敵の田中達也はスピードがあって素晴らしい出来でしたね。次にビッグスワンで当たるときはうちの田中達也がゴールを決めます。そうやってエピソードを回収します。


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