【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第366回

2018/4/19
 「マイルストーン」

 J2第8節、新潟×岡山。
 首位・岡山をホームに迎えてのビッグマッチだった。お客さんに入って欲しかった。僕は心ひそかに「首位攻防戦」としてこの一戦が迎えられないかなぁと夢想していた。熊本戦に勝っていたらそんな感じになったかもしれない。(前節こそ愛媛に初黒星を喫したようだが)岡山はJ2戦線序盤を堅実に勝ち進んでいる。これはアルビとの初の手合わせだ。

 クラブ史的にはかつて川又堅碁がお世話になったチームである。レンタルを引き受けて、伸び悩んでいた若きストライカーを本格化させてくれた。ネットニュースで「雪山登山」「無人島キャンプ」等、(ラグビーのワラビーズを思わせる)ユニークな通過儀礼キャンプを実施していると知り、大いに興味をかきたてられたこともある。ファジアーノ岡山、ようこそ新潟の地へ。あいにく寒の戻りで、雹(ひょう)のパラつく悪天候になってしまったが、大いに歓迎したい。

 僕の想定では徳島戦に匹敵する「マイルストーン・マッチ」だった。チームの現在地点がはっきりわかる試合。自分らの戦力も戦術的浸透も、好調・岡山とやれば大体見えると思った。が、前節・熊本戦から3バックを採用して、ちょっとその前提が変わってしまったのだ。第8節までの積み上げを見るというより、システム変更の進捗を見るニュアンスになった。この試合、アルビはミラーゲームを挑むと報じられていた。僕は鈴木監督も岡山戦を重要視したのかなと考えてみる。岡山戦をフルスロットルで行くために、熊本戦はテストしたんじゃないかという見立てだ。

 試合前日、Number Webに大中祐二さんの『"政一語”浸透の新潟が岡山に挑む。突然の3バック変更の真意とは?』という記事がアップされ、ほぼ先週、当コラムで発した疑問の答えが載ってるような感じだった。先週、ミステリーに喩えたのを生かすと名探偵の謎解きに接した気分だ。鈴木アルビは前節・熊本戦の2日前、3バックにシステム変更したが、それは発作的なものではなく、時期を見ていたのだ。4バックが一定の成果を挙げ、次のフェーズに進むとき、「このタイミングでシステムにメスが入れられたのは、それまで6試合を戦い、3失点だった守備を改善するためではない。4バックから3バックにすることを攻撃の起爆剤にしたいという鈴木監督の狙いが、そこにはある」(同記事より、大中氏)のだった。つまり、マイルストーンだ。熊本戦と岡山戦はセットで考えるべき道標だ。何かホッとしたのだ。筋道が見えた。岡山戦へ向けてめっちゃ気分が上がる。

 そうしたら試合を見て、またわからなくなってしまった。かえって謎が深まった。どうひいき目に見てもポジティブな材料がない。岡山の強さだけが際立った試合。アルビは迷子になってしまった。どう攻めたらいいかどう守ったらいいかわからず、迷いながらサッカーをやっている。

 岡山はさすがに根拠があった。システムをブラッシュアップしている。ここまでわずか2失点というだけあって、堅守がベースなのだ。とにかく帰陣が早くて、強めに当たってくる。攻撃の芽を徹底して摘む。長澤徹監督の「(新潟を想定し)恐ろしく激しく強いプレッシャーのなかで4日間トレーニングできたので、立ち上がりからわりと目が慣れた状態で行けた」というコメント通り、激しい局地戦を意識づけていた。で、ワンチャンに懸けるのだ。前半18分、ジュフンのミスをさらって仲間隼斗が打ってきたのがいい例だ。ああいうので1ー0で勝利してきた。このシーンは絶体絶命のピンチだったが、GKアレックス・ムラーリャ(戦列復帰!)がかろうじて止める。

 アルビはどうにもハマってない試合だった。あとで元サカマガ編集長、平澤大輔さんがメモで(「ミラーゲームなんかじゃない」)指摘してくれたが、「これ、ミラーゲームになってるかなぁ?」と僕も疑問を持った。あちこちで数が合ってない。ボールサイドに寄り過ぎたり、並びの位置がずれていたり、噛み合った感じがぜんぜんしない。それをもっと僕流に強調して言うと「根拠に根拠で対応できてない」のだ。これはもう完全に岡山の試合になる。スコア上はPKゴールの0対1で決するが、実際はもっと差があった。

 「3バック=攻撃の起爆剤」という狙いがどこかに蒸発していた。人数を1人増やしたのに中盤が厚くなってない。選手間の距離を近くするというのもさっぱりだ。攻撃がつくれない。敵軍・上田康太のようなコンダクターもいない。

 完敗も堪(こた)えたけれど、監督コメントがショックだった。
 「ゲームの前のところで、私自身の予想したサッカーが全くできなかったというのが現状です。私自身、準備の部分が大事だというなかで、結局できなかった。内容的にできなかったということは、準備不足ということに尽きると思います」(会見コメント)
 誤解のないよう断っておくが、僕は3バックに反対の立場で、システムを4バックに戻せとか、そんな次元の話をしてるんじゃない。ただ戦術的に落とし込んでほしいのだ。準備不足で連敗ってみぞおちにパンチを食らったような気分だ。

 新潟日報運動面によると「鈴木監督は9日の練習後、報道陣に『(選手を)育てながらいい結果をと考えてきたが、8試合を終え、(より一層)勝つためのことを考えないといけないと反省している』と述べた。3バックについては『やれる選手とやれない選手がいる』と分析し、4バックに戻すことも『選択肢にある』と話した」(10日朝刊より)とのことだ。やれる選手とやれない選手。それがマイルストーンを通過して見えたものなんだろうか。

 鈴木監督は試合後、選手の技量やポジションの悪さ、判断の遅さを敗因として挙げることが多い。ちょっと選手が可哀想じゃないかなぁと感じるときがある。アルビの選手は例えば日体大の選手より呑み込みが悪いのだろうか。僕はちゃんと落とし込んだらある程度どんなシステムだってやれるんじゃないかと思うのだ。そんなことないのかなぁ。

 いずれにしても日報記事が示唆する通り、アルビは次節、3バックを引っ込めるかスタメンを変えるかしそうである。「3バックのミステリー」はもしかしてこのまま迷宮入りしてしまうのか。何かものすごく大事なポイントが不発に終わった気がしている。アルビは波に乗るチャンスを逸したか。

 まぁ、連敗くらいで落ち込んでたってしょうがない。何もかもがうまくいくわけなんてないだろう。まだ8試合終わっただけだ。ここでシュンとなるのがいちばんいけない。小川佳純の「戦術どうこうではなく、最後は個人と個人の闘いが大事。今日も熊本戦も1対1の場面で負けているから試合に負けている。ピッチに立つ選手はもう一度、基本的なことを考え直さないといけない」というコメントはズシンと来る。闘わなきゃずっとこのままだ。


附記1、PKのとき、アレックス・ムラーリャの「不思議なダンス」が見られるかと思ったんですけど、なかったですねぇ。

2、アルビまいったなぁと思ってたら、翌日は日本代表ハリルホジッチ監督解任で大揺れでしたね。こんなことしたら今後、有能な監督が来てくれなくなりそうです。大会2か月前の時期まで決断できないのも問題ですが、それ以上に(監督を助け、評価する立場の)西野朗さんだけは起用しちゃまずい。あと田嶋幸三会長が会見で、今後は「日本らしいサッカー」を目指すとマジックワードを繰り出したのも感じ入りました。

3、この日は高田公園の夜桜を見に行きました。で、上越サポ会があるかと思って、岡山戦の話を準備してたんですけど、フタを開けたら3人くらいでしんみり飲み会でした。そうしたらそいつらが僕の泊まるホテルにオバケが出るってさんざんおどかしやがって、もう連敗でしかもオバケが出るのかと泣きそうですよ。確かに古いホテルなんだ。それでチェックインしたら、もらったキーが420号室だったんだなぁ。「死に霊」号室でしょ。勘弁してほしかった。だけどね、うまくしたもので、疲れてたから結局、朝までぐっすりです。オバケ出たかもしれないけど、ぜんぜん起きないから張り合いなかったと思います。


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