【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第367回

2018/4/26
 「ウェークアップ!」

 J2第9節、栃木×新潟。
 レディオベリー(FM栃木)の杉山茂ディレクターにピックアップしてもらい、石田屋の焼きそばを食べてからスタジアムへ向かう。栃木県は僕にとってアイスホッケーのホームだ。下野新聞にも朝日の宇都宮総局にもとちぎテレビやCRT栃木放送にも、10年来20年来の知己がいる。ていうかそもそも栃木SCの橋本大輔社長が(地元情報誌「もんみや」発行元の社長さんとして)ずっとお世話になってきた方だ。僕自身も栃木SCをJFL時代から見ている。だからグリスタにアルビを迎えるワクワク感が手に取るようにわかった。

 「ゴール裏1500枚が早々売り切れらしい」「半分ぐらいがオレンジか」「ホームジャックされそう」。声が相手側からダイレクトに聞こえてくるのが新鮮だった。アルビレックス新潟は大サポーターを抱える「地方クラブの成功事例」だ。とちおとめ400セットの配布が決まる。福田富一県知事も挨拶に訪れる。ビッグゲームだ。何といっても「去年J3の栃木」が「去年J1の新潟」に挑むのだ。引退した本間勲は見れないけれど、広瀬健太が帰ってくる。雨が上がってほしい。グリスタはほぼ屋根がないから雨天だと新潟さんに申し訳ないetc。

 J2のステージでアルビが闘っているものの姿がおぼろげに見えてきた。すんごい張り切っている。テンション高い。これは地元メディアやサポがそうなだけじゃなく、現場も同じだ。「個の力のあるJ1チーム」(実際はお互いJ2なんだけど、そういう言い方をする)、あるいは「圧倒的なサポーターの大声援」を楽しみにしている。研究し、練習を重ね、ひと泡吹かせようとチーム一丸だ。勝てば大いに自信がつくし、負けてもチャレンジした手応えが残る。いいことづくめなのだ。

 杉山ディレクターは「J3の3年は長かった。もう上がれないのかなと何度も思いました。まさかアルビと試合する日が来るなんて」と笑った。彼はこの日の音響さんというのか、場内演出を担当する。ビッグスワンはまだ来たことがないそうだった。「何万人も入るんでしょ?」と言われた。「最近は4万人は入らなくて‥」という話をしたけど、栃木SCは少ない日は1900人ということもあるそうだ。

 だから雨上がりのグリスタで、アルビレックスコールが始まったときはどよめきが起きたのだ。僕はビッグスワンに初めて浦和を迎えた日のことを連想した。確か後日、新潟日報の読者欄に「声が大きくて怖かった」と子どもの投書が載ったと思う。グリスタのアルビサポは怖さこそなかったけど、格の違いを見せつけていた。これがJ1の応援だぞ。広瀬が言ってた通り、ボコボコのピッチだな。うちは4バックに戻してここから連勝街道だ。来年はもう来ないぜ。

 アルビは4-4-2に戻した。前節、鈴木政一監督が「やれる選手やれない選手」という言い方をして、(それ自体は3バックのシステムで、という意味だったが)選手起用が注目を集めていた。で、スタメンを外れたのは堀米、磯村、富澤の3人だった。SBは左が安田、右が原。CBは広瀬とソン。ボランチは坂井と加藤だ。ここら辺は非常にデリケートな部分だろう。誰かを使えば誰かが外れる道理だ。連敗後の結果が欲しい試合で起用されたのはこのメンバーだった。

 試合。記者席で平澤大輔さんに出くわして、並んで見てたんだけど、前半終了時、ふっと洩らしたひと言が忘れられない。「何かフツーのJ2チームになっちゃいましたね」。それはホントに僕も同感だった。前半は押していた。急造3バックより慣れ親しんだ4-4-2のチームは安定感があった。でも大した力量差を感じないのだ。こじんまりしたサッカーでフツーにやり合っていた。

 その小粒感っていうものだ。これは考えさせられた。急造システムじゃないからやり方に迷いはないだろう。力押しすればいいのだ。が、その力押しの力がないとしたら?チームとしての武器がないんだよなぁと思う。ないというのに語弊があれば、ブラッシュアップされてないと言い換えようか。わかりやすい例を挙げると去年のチームは両サイドハーフ、ホニと山崎ギュンギュンの突破力が武器だったじゃないか。たとえ流れが悪くても、武器を持ってるから一発で形勢逆転できた。

 何かいつの間にか「J2に染まった」じゃないけど、それなりのチームになっている。慣れは怖ろしい。ほんの1時間前はレディオベリー、杉山ディレクターのクルマで「まさかアルビと試合する日が来るなんて」と聞かされていたのだ。大集結のサポーターはコールで格の違いを見せつけていたのだ。それがこんなフツーの試合をやっている。おかしいなぁ、こんなもんかなぁ。

 しかも後半は相手の武器にやられる。後半9分と18分、ともにロングスローからの失点だ。「スローインを武器にしようと去年から磨いてきました。(服部)康平が競って、オグリ(大黒将志)が飛び込むっていう」(栃木・横山雄次監督)。1点目はそのものズバリ(得点者・大黒)、2点目は競り合ってそのまま(得点者・服部)。この形は前半から何度かやられて嫌な感じだった。ハーフタイムに何か対策できなかったか。

 反撃は最終盤だった。やっとやる気スイッチが入ったみたいに仕掛け始める。その甲斐もあり、ロスタイムに安田理大のミドルが炸裂する。ファインゴール自体はあくまで個の力だが、積極性がいかに大事か物語るシーンでもあった。何故、チームは寝たまま終盤までずるずる行ってしまったのだろう。誰か「ウェークアップ!」を言う役はいないのか。

 ただタイムアップと同時に倒れ込む栃木SCの選手を見て、彼らの頑張りがアルビを寝かしつけてたのかもしれないと思った。グリスタは大歓声に包まれる。「去年J3の栃木」が「去年J1の新潟」を実力で破ったのだ。新潟ゴール裏は呆然自失だ。ブーイングさえ起きなかった。これでリーグ戦3連敗。自信を失うのがいちばん怖い。


附記1、ルヴァン仙台戦は「PKのPK」という珍事が見られ、かつ快勝という楽しい試合だったみたいですね。僕はヨンチョル(蔚山現代)を見に、等々力に行ってました。続々と知人から「面白い!!」「ドリフみたいです」等、LINEが来てうらやましかったなぁ。観客は2600人(グリスタのサポ数と同じ!)と少なかったけど、生で見た人は勝ち組ですね。

2、栃木戦の問題点を端的に示すのがシュート数7本(栃木は11本)だと思います。ポゼッションを握っても(新潟61%、栃木39%)ぜんぜん勝負できてない。システムだ選手起用だ言う以前のところですよね。

3、スタメン発表で広瀬がアナウンスされたとき、グリスタは拍手でしたね。

4、次節・大宮戦は早くもサバイバル戦の様相ですね。ルヴァン仙台戦の勝ちをつなげましょう。どんなに不細工でもいいから、気持ちで勝利をつかみましょう!


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