【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第368回

2018/5/3
 「負けが多すぎる」

 J2第10節、新潟×大宮。
 4連敗である。ちょっと重症だ。僕が過去見てきたアルビの試合でもワーストの部類じゃないかなぁ。スコアは0-1だが、それはGKアレックス・ムラーリャの奮戦によるところ大で、実際には0-4、0-5くらいでもおかしくないワンサイドゲーム。大宮とはお互いJ1降格組、かつ調子出ない者どうしの一戦だったはずだが、明暗がくっきり分かれた。

 試合開始1分から完全にやられていた。幸いバーに助けられたけれど、あれが入っていたらもっと散々なスコアだったと思う。試合の入りからテンションが違って見えた。大宮はやろうとすることが整理されていた。とにかく奪ったらシモヴィッチを見る。シモヴィッチ活用だ。落としてもらってそこに駆け込むのもよし、おとりに使うのもよし。それを徹底していた。大前元紀、嶋田慎太郎、三門雄大は元々イメージがあったが、デビュー戦の奥抜侃志(かんじ)というユース上がりの選手が非常によかった。

 アルビはますます迷子だった。何がしたいのかわからない。勝手知ったる4-4-2に戻って落ち着きを取り戻すかと思いきや、昔の住所でも迷子になっている。僕はチームがどう攻めてどう守るという土台が出来てないんじゃないかと思えてきた。そもそもそこがないと3バックが4バックになったって同じことだ。帰る場所がない。

 開幕以来しばらく「仕上がってないし内容もいまいちだが、それでも勝ち点が拾えているのはいいこと」と思ってきたのだ。仕上がってくれば連勝街道をばく進するんじゃないかと楽観していた。鈴木政一監督はキャリアのある監督さんだからそのサジ加減もわかっているだろう。だけど、それだと目の前で起きてることに説明がつかなくなった。10節消化して勝ち点11、目下4連敗というのは「J2残留に黄信号」と表現すべき状況だ。

 一応、試合数と同程度の勝ち点があるから大騒ぎする必要はないが、連敗を脱して少しペースを上げないと残留争いに巻き込まれていく危険性がある。J3に落ちると広告収入やDAZN分配金等の点で深刻な打撃がある。それは何としても避けねばならない。まぁ、まだ春の段階だ。十分、間に合う。残留に向けて一丸となろう。冗談でなくそういう状況。

 僕は書き方を変えるべきなのだろうか。基本的には「ポジる」というのか、いいところを見つけて褒め上げる芸風だ。が、これまで当連載は開幕当初から辛口トーンにしたことが二度あって、一度めは2014年、(前年「後期優勝」の勢いを駆って)優勝争いするつもりで迎えたシーズンだ。二度めが今季である。目標は自動昇格圏ではなく、J2優勝だと思っていた。つまらない星が落とせないのだ。J2というステージのなかではアルビは予算もあり、タレントも揃い、スタジアムが抜群で、サポーターの多いクラブだ。これまでの泣き言が一切通じない。勝たなきゃしょうがないだろう。と思ってたんだけどなぁ。来週からまた設定を「残留」に置いて、少しでも前向きになってもらえる原稿を書いたほうがいいのか。

 「どう攻めてどう守るという土台」に話が戻るけど、大宮戦のアルビは本当に自信のないチームだった。寄せられると横パス、バックパス、あるいは苦しまぎれのロングボール。中盤がこっちだけ1人少ないように思えて仕方なかった。得点の期待感が皆無だ。何とシュート数4(大宮19)である。驚くべき消極性というほかない。あれは攻め方がわからないんじゃないだろうか。頑張りたいけど、頑張り方がわからない状態。

 守りに関しても(特に)ボランチ2枚が無責任すぎる。簡単に剥がされ、しかも追うのをあきらめたりする。連動性がなく、守備の決め事が見えない。DFでは広瀬健太が鈴木アルビのキーマンのようだが、あっさりかわされている。身体の使い方、ウラを取られないポジショニング等、教えてやらないとなかなか経験だけでは上達しないと思う。

 僕はクラブ方針は「1年でのJ1復帰」だと理解してきたけれど、もしかして違っていたのだろうか。1月の鈴木監督就任会見をもう一度確認してみた。と、当該箇所は「中野社長がおっしゃったように、当然早期のJ1復帰を目指します。それを実現させるのが攻撃も守備もクリエイティブでアグレッシブなサッカー…」と、この時点では「1年で」ではなく「早期の」だった。期限を区切った話よりも「クリエイティブでアグレッシブなサッカー」のほうが優先順位が高いのだろうか。つまり、例えば3年計画でベストチームをつくりましょうといったミッションなのか。

 クリエイティブという要素について思うところがある。鈴木監督はインタビューや会見で度々「判断」というキーワードを使ってきた。ちょっと抽象的な用語だ。ダメなプレーは判断が悪い、もしくは遅いのだ。上達するにつれ、選手は正しい判断を素早く下すことができる。そんなチームが熟成できれば理想的だ。鈴木監督は何年かかってもその理想を叶えようと覚悟を決めてるのかもしれない。

 僕が今、感じているのは判断がいちいち遅いことだ。まさかチームとして「今は時間がかかってもいいから正しい判断を!」みたいな通達が出てるわけでもなかろうに。判断しなくていいところまで判断している。例えばね、まだ掛け算を習ってない小学生がいるとして、「えーとえーと、そうか、ぎっしり5人乗りのクルマが9台来たら、そこには5+5+5+5+5+5+5+5+5=45人乗ってるんだな」と、足し算を繰り返して正解に至ってるような遅さと言ったらよいか。そこは判断いらないでしょ。オートマティズムで「ごっくしじゅうご」でいい。

 僕がこれまで徳島や岡山と当たったときに用いた「練度」という言葉は早い話、オートマティズムだ。判断してない。練習して練習して、自然と皆がそう動ける根拠をつくり上げたのだ。掛け算の喩えなら毎日、九九を復唱して考えなくても出てくるようにした。その考えなくても自然に身体が動く攻め方、守り方がアルビは薄いんだよなぁ。

 「考えなくても自然に身体が動く」にはもう一つ別のあり方がある。それは勇気だ。勝負したい。行きたい。やられてたまるか。これは「練習して練習して負けん気を養成する」みたいなことじゃない。戦術とかシステムとかいうレベルでなしに、これはこれでサッカーの本質だ。シュート4本のチームはその点でもファン、サポーターを失望させていると思う。安田理大の仕掛ける姿、渡邉新太の思い切りよさが胸を打つのはそういうことだ。

 「判断してないチーム」と「いちいち判断して迷うチーム」が試合をしたらそりゃ一方的にやられるんではないか。だけど「いちいち判断して迷う」ことがクリエイティブということでもあるのだ。他人に与えられた答えではなく、自分なりの正解を見つけるプロセス。それこそがサッカーなんだという発想である。これはどちらがいいかは一概に言えないなぁ。クラブの大方針もある。サポーターの気質もある。

 「判断」をキーワードにする鈴木監督はあくまでも自分で考えさせるやり方だろう。即効性はない。判断もポジショニングも自分で改善するには時間が必要だ。ということはしばらくこのままなのだ。継続しかない。つまり、ノーオプション。

 「これは継続しかないと思っていて。当然、オンのプレーヤーがいつ見るの、じゃオフのプレーヤーがどこのスペースで共有するのっていうのを繰り返し、繰り返しやっていくしかない」
 「私自身のイメージ、計画でいくと、ちょっと負けが多すぎる。ましてやホームで。そこを何とか克服しないと。選手たちもすごく悩んでくるだろうし、休むところは休んだなかで、もう一回明確にして、準備したいと思います」(鈴木監督会見コメント)

 鈴木監督のイメージ、計画でも「負けが多すぎる」のだ。僕の考えでも負けが多すぎる。読者の考えも負けが多すぎる。間違いなく誰が考えても負けが多すぎる。今のアルビはフツーに「J2の弱いチーム」だ。今後もシュート4本の消極的な試合を続けるならどん底を味わうと思う。


附記1、試合後、スワンに掲げられた鈴木監督のバナーがくしゃくしゃにされ、打ち捨てられていたそうですね。悲しいことだなぁ。そんなことしちゃうんですね。そんな殺伐としたスタジアムには人が来ませんよ。

2、僕は今回、大宮サポのけんめいな姿が心に残りました。試合終盤からずーっと、終わって選手が挨拶に来るまで延々「無敵大宮」歌いっぱなしでしたね。彼らやっとうちに勝ち点11で追いついたんです。どっちがと言えないくらい苦しいと思いますよ。

3、ルヴァン仙台戦で目立っていたメネゲウは使わないんですね。あんなによかったのに何で信用ないのかな。僕はルヴァン杯に参戦できて本当によかったと思っています。去年、出場権を狙うべしと書いたとき、「過密日程のハンデをどうするんだ」と叱られたものですけど、いまやルヴァン杯が希望の灯ですよね。

4、4連敗だし、附記1のことはあるし、凹んでたんですよ。そしたらGWの金沢戦アウェー席完売っていうのを教えてくれた人がいて、ちょっと気持ちが晴れました。3千人以上が金沢行くんだ。すごい数だ。まぁ、その前にGW初戦、山口で連敗止めましょう。こっちのオレンジダービーは絶対獲りましょう。 


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