【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第380回

2018/7/26
「気持ちを見せること」

 J2第23節、新潟×横浜FC。
 夢のような話だが、この日はOBの安英学さんとずっとご一緒させていただいた。「新潟日報おとなプラス」サンクスデーの企画として、まずは17時過ぎからEゲート前広場オレンジトラックにてトークショー(司会・水島知子アナ)だ。その後、申し込みをされた新潟日報読者の皆さんと合流し、試合前練習の見学→バックスタンド個室での試合観戦とフルコースである。

 トークショーは全体の尺が30分しかなくて、聞きたいことは山のようだった。つい先日出場された本間勲引退試合のことも聞きたい。W杯のことも、CONIFA(「もう一つのワールドカップ」と言われる。ヨンハは「在日コリアン」チームの監督&選手として今年、ロンドン大会に出場した)のことも聞きたい。もちろん新潟・横浜FC両方のOBだから在籍時の話も聞きたい。可能なら2時間くらいやりたかった。まぁ、猛暑日で熱中症も心配だから、30分くらいがちょうどよかったのかもしれないが。

 トークショーで白熱したのは、第20節町田戦・DAZN解説の「僕の知ってる新潟は走り負けない」「新潟は気持ちで勝ってきたチーム」といった一連のコメントをめぐってである。ヨンハ自ら「あのときは中立であるべき解説者の立場を忘れて、完全に新潟OBの発言になっていた」と振り返る直言の数々は大反響をもたらした。一体、今のアルビはヨンハの目にどう映っているのだろう。

 町田戦を振り返るとチームがバラバラになっていた。フォローが足りない。カバーが足りない。走り切らない。あきらめずにもう一歩出れば(追いつけなくても)局面が変わるかもしれないのに足を止める。責任を取らない。パスがズレたら最初から追わない。ヨンハは言わずにはいられなかったらしい。気持ちがなかったらアルビじゃないだろう。

 「僕ら練習場も整ってなくて気持ちだけでやってきましたから。実力では敵わなくても気持ちでは負けないつもりでした。J1に上がって勝てなくて苦しんだときは、秋葉(忠宏)さんがDFに声かけて、僕の家にDFだけ集めて、失点シーンの録画をみんなで確認するんですよ。何で僕の家かっていうとひとり暮らしで集まりやすかったんです」
 「今のアルビは選手それぞれ気持ちは持ってると思うんですが、迷いがあるんだと思います」

 当時の監督は反町康治さんだから、ただでさえ映像を使ったミーティングが長い。その上、更に自発的にDF会をやっていたのだ。やらされる練習、やらされるミーティングでなく、自分たちでも考え、話し合い、確認して前へ進む。いっしょうけんめいだ。勝ちたいからだ。負けても負けても勝ちたい。そりゃ気持ちだって伝わってくる。

 僕は「気持ち」を主題にして、横浜FC戦を見ようと思った。抽象的で実体のとらえにくいものだ。が、具体的なものでもある。僕はトークショーでヨンハが語ってくれたDF会にヒントがあるような気がした。ひょっとすると、サッカーにおける「気持ち」っていうのは自発性がキーじゃないか。つまり「軍隊の士気」とは本質的に異なるのだ。サッカー選手は「上官が言うなら黒いカラスも白い」式ではなく、納得して初めて動ける。

※(これは冗談だが)自発性でなく「怖い秋葉さん」がキーの可能性も一応ある。

 試合。そうしたらこれが「気持ち」の試合だった。ヨンハが「町田戦でこういうプレーが見たかったんです」と言う。散漫で無気力な姿が一変し、球際でがんばるチームがそこにあった。それを象徴し、けん引していたのは田中達也、矢野貴章の頑張りだ。無駄になっても走り切る。寄せ切る。つま先の1ミリでも伸ばしてボールにからもうとする。何度も何度も動きなおす。ゴール裏も早い時間から「アイシテルニイガタ」でチームを鼓舞した。

 横浜FCはブロックを作って構え、プレスは控えていた。暑さのため省エネ戦法を取った部分もあるだろう。それから「新潟はブロックの外で回してる分には怖くない」と割り切ってもいた。イバのロングシュート(ポストを叩く)がヤバかったけれど、概(おおむ)ねアルビが主導権を握った前半だ。時間が経つのが早い。

 後半に入ってこじ開けられそうな予感がした。こういう試合で勝ち切れば自信がつくと思う。ヨンハも観戦企画の参加者も食い入るように戦況を見つめている。一瞬でも目を離すと大事なシーンを見逃してしまいそうなのだ。アルビの「気持ち」は切れていない。勝ちたい。勝ってほしい。

 が、後半28分、あっけなく失点してしまう(得点者、横浜FC・戸島章)。スローインからだ。動画で後から確認してみたが、ウソのように突っ立って、相手をフリーにしている。アルビの選手交代直後で、確認があいまいになってしまったのだろうか。ヨンハは「効率的に決められてしまいましたね」と言う。主導権を握り、こじ開けようともがいてたのに、一瞬のエアポケットを突かれて失点。その後、田中達也が交代で下がり(ターレスIN)、チームのテンションがガクッと落ちてしまう。

 そのまま0-1でタイムアップ。まとめると「気持ちは見えた。武器がない」という試合だった。スピードでぶっちぎる選手、ドリブルではがす選手、セットプレーで精度のあるボールを蹴る選手がいなかった。ヨンハは「町田戦とは、また別の悔しさがありますね」と言う。僕もこの日のアルビは球際がんばったと思う。

 それでも結果は負けなのだ。達也が下がって尻すぼみになり、早々と席を立つ観客も多かった。まぁ、プロなんだから結果が問われて当然だ。勝たなきゃ明日は見えて来ない。

 僕は観戦企画の参加者に「結果は負けたけど、選手らがこの日、ピッチで示したもの、取り組んだプロセスは間違ってないと思う。結果で一喜一憂するのでなく、プロセスを見たい。プロセスを積み上げてほしい」と話をした。これだけできるんだったら、次からもこれを求めよう。ヨンハも言ってくれた。「今日の戦いを続けていけば必ず勝利につながると信じています」。


附記1、この日は約1500人のサポーターがビッグスワン正門前でバスを「入り待ち」してくれたんですよね。鈴木政一監督も会見コメントで「グラウンドに着いたところで、サポーターに本当に力をいただいたなかで、選手たちはスタートからアグレッシブなサッカーでボールを支配して、得点チャンスを多くつくった」と触れています。ちょうどトークショーと時間がかち合ったんですよね。一緒にやりたかった。

2、ドイツ2部・インゴルシュタットから完全で渡邊凌磨選手、FC東京から期限付きで梶山陽平選手の移籍加入が発表されましたね。

3、この日は試合後、知人サポのクルマで十日町市民ホールへ直行、W杯決勝戦のクロアチア応援パブリックビューイングに参加しました。人生であんなにクロアチアを身近に感じたことってないですね。大切に縁をつないできた十日町市民は素晴らしいと思います。「イデモ・フルヴァツカ!(がんばれクロアチア!)」って覚えちゃいました。優勝こそフランスに譲った形だけど、大会ベストチームでしたね。


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