【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第383回

2018/8/16
 「鈴木監督解任」

 J2第27節、大分×新潟。
 惨敗である。特に後半あっさりゴールを割られて、失点を重ね、戦意喪失していく様は見ていられなかった。あぁ、これは限界なんだなと思う。(「辞任」か「解任」か形式はともかく)鈴木政一監督はこれで退任されるだろうと直感した。もう選手交代の意図がわからない。猛暑の大銀ドームへ駆けつけ、この悲しい試合を見ている200人のサポのために一矢報いてほしいのに。目に映ったのは「早く終わらせて帰りたい」チームだ。

 もう、このサッカーでは無理なんだと思う。4失点しても立ち上がらない監督。交代選手をねぎらえないベンチ。びよーんと間延びして、FWは適当に走ってるだけで、時計が進むのを待っている。これがあのアルビレックス新潟か。ハードワークを旨とする「魂のサッカー」で一時代を築いたチームか。

 終わってみれば4位と19位の妥当な試合だった。もう「元J1」だからこっちが格上なんて思ってる読者はいないだろう。自分たちより上手く、自分たちより走るチームに負けたのだ。相手はJ1昇格を目指す4位のチームで、こちらはJ2残留争いに巻き込まれる19位のチームだ。このまま空中分解が進めばJ3落ちも大いにあり得る。いくらスポンサーや後援会向けに発した「1年でのJ1復帰」が引っ込められないとしても、現実は見なきゃいけない。

 ご存知のように8日午前、クラブは鈴木政一監督の解任を発表した。「J1優勝実績を持つベテラン監督」はチームを浮上させることなく、19位で職を解かれたのだ。戦術を落とし込まないまま選手に判断をゆだね、負けると「判断が悪かった」とコメントする監督さんだった。特に守備戦術のオーガナイズ(組織化)がない。選手からすると「数的同数」(変な言葉だが、サッカー界ではそう言う)と「ポジショニング」というマジックワードだけ渡されて、丸投げされてるような状態だ。たぶん黄金期のジュビロ磐田はそれが通用するほど大人のチームだったのだろう。アルビでは「数的同数のボールウォッチャー」を生み出す結果になった。

 選手は頑張りたいけど頑張り方がわからないという感じだったと思う。何人ものベテラン選手が「チームのベースになるものがない」と口にしている。困ったときに戻れる戦術的な基礎、土台がないというのだ。それも春の熊本戦で(2日練習しただけの)急ごしらえの3バックを試し、失敗したというような話じゃなく、後半戦に突入した今になってもまだ聞こえてくる。

 だけど、ここ数節は選手が奮闘していたのだ。もうこれは自分らでやるしかない。「自主的な判断」という意味では監督の意図通りなのかもしれないが、僕には戦術的なオーガナイズ不在のチームに見えた。寄せや球際で頑張ってるけど、結局はその場その場で次を考えてるサッカーだ。これは戦術的にオーガナイズされた相手に勝つのはかなり難しい。

 チームの指揮は(2節程度をメドとして)片渕浩一郎ヘッドコーチが代行することになった。実に3年連続のリリーフ登板だ。何て損な役回りかと思う。火消し役というのか、フチさんの対応力にいつも頼ることになっている。が、フチさんご本人にはまた別の思いがあるようだ。3年連続失敗してしまったチームの、その現場にずっといたのは自分だという自責の念である。吉田達磨さんの現場にも、三浦文丈さんの現場にも、鈴木政一さんの現場にも片渕コーチがいた。どうにかならなかったのかというわけだ。

 3年連続という話をしよう。アルビ公式で言うのはためらわれるが、これはフロントの大エラーだ。毎年、監督さんが代わり、キャプテンが抜けていくチームは問題を抱えているのだ。3年続けて同じ失敗を繰り返したら、フツーは会社が傾く。アルビも人が離れていってる。試合に負けて頭に来て「もう行かない!」とブンむくれてるみたいな熱を感じるやつじゃないんだ。負けることに疲れて、気力のないチームに絶望して、道端にしゃがみ込むように離脱してしまう。

 「サポーター」というのはJリーグが誕生したとき発明された概念で、和製英語というと言いすぎ(確かに「マンチェスターユナイテッドのサポーター」という言い方は存在する)だけど、一般的には「フットボールファン」で十分だ。当時はプロ野球ファンと差別化し、何かキラキラしたイメージを持たせたかったのだと思う。最初に聞いたとき、「アメリカ大統領選?」と思ったのを覚えている。僕の語感では共和党や民主党の党大会に集まるキャンペーンTシャツ着てる人が「党員(支持者)=サポーター」だった。

 だから「サポーター」という語句は「支持する者」「支援する者」という内意を持つ。単にサッカーチームの応援をする人じゃないんだ。で、3年連続失敗してるクラブチームは「支持」や「支援」を失いつつある。ここで強調したいのは「3年連続失敗してる」ことも大問題なんだけど、その取り組んできたアプローチを開示し、失敗の過程を検証し、クラブやチームの方向性を打ち出し、「支持」「支援」を取り付ける手続きが放棄されていることだ。僕はそのほうが問題だと思う。

 鈴木政一氏を監督として迎えたのには理由があるはずだ。呂比須アルビが2017年最後にたどり着いたスタイルを捨て、一からやり直したのには理由があるはずだ。2017年の主力より鈴木さんが引っ張った選手を重用したのには理由があるはずだ。それでつまずいて、突然3バックを試し、すぐやめたのにも理由があるはずだ。ずっと結果を出せず、低迷していた鈴木アルビを8月まで継続したのには理由があるはずだ。8月まで継続したにもかかわらず、ここで解任に至ったのにも理由があるはずだ。そういった諸々を語らず、監督交代で区切りをつけようとしても「支持」「支援」は得られないと思う。フロントが「支持」されなくてはクラブは立ち行かないのだ。

 一方で読者にお願いしたいことがある。アルビは今、大ピンチだ。スワンの観客動員も落ちている。たぶん収益も激減していると思う。今、ほんの少しダメージが加わったらアルビは壊れてしまう。呆れているのはわかる。やってられない気持ちもわかる。だけど、アルビを助けてほしい。人が離れたらこのクラブはおしまいだ。これは絶対に壊しちゃいけない。どうかアルビを助けてほしい。


附記1、鈴木政一監督、おつかれ様です。僕ももっと何かやれたことがあるんじゃないかと自戒しています。ありがとうございました。本当に残念です。

2、大銀ドームの惨劇に立ち会った200人のサポにも心からおつかれ様を言いたいです。試合後、選手が来たとき文句言いたくて最前列まで駆け降りていって、悲しすぎて何も言えなかったって人がいたよ。

3、次節、栃木戦は片渕代行によるのるかそるかの6ポイントマッチですね。僕は観音様にお参りしてから行きますよ。勝ちましょう!


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