【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第396回

2018/11/15
 「授業料」

 J2第40節、新潟×熊本。
 思い出してみよう。アウェー熊本戦を1対3で落とし、うわ、これはちょっとまずいんじゃないかと呆然としたのが4月1日である。あれから色々ありすぎて何年か前のことのようにも思えるけれど、間違いなく今年の出来事だ。鈴木政一・前監督が突然、(キャンプでもやってない)3バックを試した試合。そしてこの試合で失敗して以降、3バックをあきらめてしまった。4月1日なので「負けも、3バックも、ひょっとしてエープリルフールか?」等と騒ぎになったものだ。熊本にも同姓同名の田中達也がいるところから「田中達也ダービー」と話題にもなった。

 半年経って、11月3日文化の日だ。ホーム熊本戦。アルビは14位で、片渕浩一郎監督が指揮を執っている。熊本は最下位に沈み、今季の「ボトム2」を確定させてしまった。但し、J3降格はまだ確定していない。(昨年そうだったように)J3の自動昇格圏にJ2ライセンスを持たないクラブが入る可能性があるのだ。ま、今季の場合、沼津次第ということになる。だから「ボトム2」確定といっても、最下位で終わるかブービーで終わるかは全く違う。一縷の望みであっても、望みある限りチームもサポも全力で戦うものだ。(昇格も降格もなくなった)アルビにとっては非常に厄介な敵である。前節町田戦が物語るように順位なんて関係ない。格上も格下もない。戦って勝つか負けるか。J2リーグはそんな場所だと思う。

 だから思い出してみようと言っている。熊本戦はやり返さなきゃいけない。リベンジマッチだ。今、この好調なアルビを見せつけたい。4月とは別のチームになっている。スタメンで重なっているのは3人だけ。チームの連動性が出来た。守りが安定した。そしてJ2経験値が半年分貯まった。4月のぬるっとした空気はもう消えた。チームの誰もが「死にもの狂いで来る熊本」を警戒し、気を引き締めるコメントを発していた。

 だから、ぬるっと試合に入ってしまったのが驚きだ。マジかと思った。開始6分、カウエのトラップミスから奪われ、あっさり失点。あれ、何だか今年見てきた光景だぞと思う。こういうつまらない失点はしなくなったと思っていた。熊本の気迫が素晴らしい。このカード、本来なら先手は何としてもアルビが取りたかった。

 というのはシステム的な噛み合わせがあるのだ。熊本は(鈴木政一・前監督が3バックを試してみたように)4‐4‐2ではやりにくいチームだ。3バックが、守るときは5バックになり、アルビの前線は窮屈を強いられる。だから先制してゲームを優位に進めたかったのだ。向こうに先手を取られると厄介だ。ミスしてくれるか、相当なファインゴールでも決まらないかぎりなかなか点が取れない(ような気がする)。

 しかし、今日は守備が軽いなぁ。熊本は皆川佑介をターゲットにロングボールを蹴ってくるイメージだが、油断するとウイングバックの田中(熊本)達也が駆け上がってくる。4月はスカスカだった。今日も心配だ。

 と、同点弾が飛び出したのだ。これが本当にファインゴールだった。前半22分、FKのこぼれたところを河田篤秀がマイナスのドリブルから身体をひねって、サイドネットに突き刺した。河田はこれで今季9ゴール目。チーム内で得点数を競う渡邉新太(前節で10ゴール達成!)を「番手から一気にまくる」態勢ができている。さぁ、同点になって、ここからゲームの主導権を…。

 主導権を握れなかった。直後の同25分、エリア内で皆川を後ろから引っかけて(?)、PK判定をもらう。このPK判定もそうだけど、この試合(特に前半)は審判がいちいち試合を止めて、それが流れを方向づけてしまうようなところがあった。「レフェリーが目立つ試合」のパターンだ。アルビはせっかく同点に追いついたのに喜びも一瞬だった。また1点リードを許してしまう。あんなに安定していた守りに綻びが見られる。プレーが雑だ。半歩出足が遅れる。

 ただ前半の終了間際(同45分)、カウエがこぼれ球をボレーで決め(またもファインゴール!)、何とか2-2のイーブンスコアでハーフタイムに持ち込むことに成功した。チームの出来が明らかにおかしいからロッカーで修正してほしい。この「何とか追いつけた」ラッキーを無駄にしちゃいけない。出来が悪い日も勝ち点3を拾わなかったら(そう意識づけなければ)、来年の昇格は難しいだろう。

 で、後半である。読者にどう見えたかわからないが、僕は盛り返したと思っている。少なくとも試合の入りに感じた「ぬるっと」した感じはなくなった。

 しかし、だからといって好調新潟を見せつけられたかと言えば、ぜんぜんだった。手詰まり感あったなぁ。チャンスがなかったわけじゃないんだけどね。これじゃ「タレントで点を取られたけど、組織では勝った」と言われても返す言葉がない。結果は2点とも個の力だもん。

 では、問題のシーン。ロスタイムの出来事だ。スコアは動かず、2-2のまま。デンカビッグスワンで試合を見つめる観客の心に「これはドローか‥」という思いがよぎっていたはずだ。何でもないスローインからのリスタートだった。加藤大が受けて、ちょっともたついたスキに相手ボールになってしまった。ええっ、何だこれ。ミスと言えばミスなんだけど、ちょっとした拍子というか、やけにあっさり失った。それを決められてしまった。決めたのは田中(熊本)達也だった。またしても田中(熊本)達也か。これで万事休す。

 スポナビ等の速報には「2-3、49分田中達也」と出ていて、パッと見、アルビが勝った感じがする。が、残念ながら(熊本)達也のほうだ。リベンジは果たせなかった。熊本にはアウェーもホームも本当に勉強させてもらったと思う。今季2敗の、いわゆる「ダブル」は高い高い授業料だ。

 アルビはこれで今季の負け越しが決まる。フチさんが残り試合の目標として挙げていた「リーグ戦勝ち越し」は消えてしまった。久々に凹む。それは単に負けたからじゃないんだ。今年何度も見た「残念なアルビ」をまた見てしまったからなんだ。


附記1、問題のPK判定。Jリーグは7日、(皆川をエリア内で倒したとしてイエローをもらった)大武峻への警告は「人違い」だったとして、本来の警告対象選手である加藤大に警告をつけ替える旨の発表を行ったんですけど、競技規則の「レフェリーのジャッジは最終決定」という条項のため、公式記録の変更はないんだそうです。

2、熊本戦翌日(4日)、『サンデースポーツ』(NHK総合)で早川史哉の特集をやってましたね。フミヤの苦闘を見て、あ、凹んでる場合じゃないなと頭が切り替わりました。

3、NEXT21のビッグジャージ掲揚を画像で見ました。11日の徳島戦はパブリックビューイングが実施されるんですね。


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