【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第1回

2009/3/12
「額面以上」


 09シーズン開幕である。スタジアムへ向かう人の顔が喜びに輝いている。ポカポカ陽気の味スタだ。開幕カードは「FC東京×新潟」。個人的には04年、J1に昇格した年の1stステージ開幕戦を思い出す。あのときの新潟サポはテンション高かった。味スタに到着するや「着いたよ」とかケータイで電話しちゃってた。試合直前、FC東京サポが「ユルネバ」を歌うと、負けまいとするのか新潟ゴール裏もマフラーを掲げちゃってた。
 
 あれから5回めの春だ。何かアレですよね、開幕戦、このカードって多いですね。この日、新潟ゴール裏にあったのは04年の「歴史に立ち会う」昴ぶりとは違う。もっと純な「あぁ、今年もサッカーが見られる!」という喜びだ。
 
 僕は記者席で腕時計に目をやる。J開幕に合わせて万全を期す意味で、カシオのデジタル(2790円)購入だ。スタジアム観戦は時計表示が見にくい場合があり、ストップウォッチ機能が欠かせない。今回のやつは思い切った。いや、僕は3年おきくらいにカシオのデジタルを買ってるんだけど、黒いバンドが必ず切れるんですね。時計本体は電池も残ってて動いてるのに時計バンドが割れる。あれはむかつきます。カシオのテクノロジーは電波時計へ向かっているけれど、時計バンドも丈夫にして欲しい。で、今回はメタルバンドで勝負に出てみた。今、こんな時計してんのは味スタ広しといえど、俺だけですよ。ま、鈴木淳監督にとっての4-3-3に匹敵するとも言える。開幕に照準を合わせて、俺はメタルバンドのカシオを準備した。
 
 試合は前半、一方的に攻め込まれる展開。印象としては45分間、ほとんど自陣でサッカーやってた感覚だ。守戦もいいとこ。千代反田、永田のセンターバックを中心に獅子奮迅の武者働きが続く。ひとつ間違えば2点くらい失っててもおかしくなかった。集中力を切らさず、あの守戦に耐えたことが結果的に勝利をたぐり寄せる。
 
 その守戦の修羅場にあって、ひとり別次元の世界を見せたのが、左サイドバックに起用されたジウトンだ。何と表現したらいいか、ひとりでバタバタしていた。見ていて笑いが止まらない。そうだなぁ、縄とびしてる子が自分で縄にけっつまづいて転んで、そのうち縄にからまって必死に脱出してるような面白さである。何かやろうとして、才気のヘンリンを見せるのだが、やってるうちに何やってんだかわからなくなっている。だけど一生けんめいだ。愛敬がある。
 
 そのジウトンが前半ロスタイム、CKからヘディング一閃、先制ゴールを決めてしまうのだからサッカーはわからない。前半を制圧したFC東京にしてみれば、あそこでジウトンをフリーにしたことが唯一の失敗だ。ラッキーボーイだ。たぶんサッカーの神様はこの日、ジウトンが好きになったんだと思う。
 
 後半は一転、動きのめまぐるしい展開だ。6分、FC東京・近藤に同点弾を許し、直後の8分、再びCKから幸運なこぼれ球が出て、ペドロ・ジュニオールが決める。後半になって新潟は狙いをハッキリさせた。ボールの奪いどころ、タテ展開に使うべきスペース。
 
 追加点は大島とペドロ・ジュニオールだから、新加入の3人で全4ゴールだ。これは「J1昇格後、開幕初勝利」という額面以上の出来事だろう。今季、新潟の課題は誰に聞いたって「去年、リーグ最少得点(32)に終わった得点力不足」からの脱却だ。
 
 開幕戦は上々だった。4-3-3も俺のデジタルも機能した。が、FC東京は控えキーパーの権田が先発し、新加入の平松がセンターバックを務める台所事情だったことを加味して考えるべきか。次節、ホームの鹿島戦はそこのところを見たいと思う。
 
 見たいと思うが「ひかりTV」に申し込んだら、「3月下旬のお届けになります」と言われてしまった。どうなる次節!?


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

※前回第1号でえのきどさんのプロフィルに誤りがありました。お詫びして訂正いたします。


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