【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第7回
2009/4/23
「しつこいボディブロー」
J1第6節「新潟×広島」は心待ちにしていたカードだ。好ゲーム間違いなし。今シーズンの広島は「昇格組」という範疇にはとてもくくれない。序盤戦のJで鮮やかな存在感を示す好チームだ。
迎える新潟はマルシオの復帰が心強い。このカードは両軍、万全の状態で迎えたい。個人的には第3節・大分戦級の名勝負を期待するが、大分戦が消しあい、殺しあう質のスリルなのに対し、広島戦はスペクタクルが保証されているところがいい。
広島側から見れば、新潟の脅威は「狩りとる力」だ。『サッカーマガジン』(4月21日号)で同誌・編集長の北條聡さんが秀逸な戦術分析を行っている。
「今季、新潟は定番だった4-4-2を捨て、新たなフォーメーションを採用している。積年の課題でもあった得点力不足を改善するため、攻撃的な3トップ(4-3-3)へ移行したとの見方もあるが、全体のファンクション(機能)を考えれば、ミッドフィールドの駒を増やした4-1-4-1と考えていい。トップの枚数を減らし、残る1枚を4人のMFと4人のDFから成る2ライン(4×4)の間に組み込んだ格好だ」(同誌「戦術白書2009」code.1新潟より)
北條さんは「肝は1トップ(大島秀夫)の背後につける第2列」と断言する。左からペドロ、松下、マルシオ、矢野。この第2列のプレスがボールの奪いどころ。敵の組みたての起点(2ボランチと両サイドバック)を刈りとりに行く。広島の起点は主として森崎和幸だろう。
一方、新潟の心配のタネは「残る一枚」、本間勲の負担だ。広島の「1トップ2シャドー」の、2シャドー部分をひとりで見るのはいかにも苦しい。キックオフ後、まずその対応に注目したが、内田が中にしぼってケアしていた。
と、広島がロングボールを使いだす。あぁ、この手があったか。これは「狩りとる力」が使えない。何とまぁ、ロジカルな攻めだろう。広島の先制点は、そのロジックに個の力が加わった形。ロングボールに千代反田が一瞬遅れ、佐藤寿人にウラをとられる。
しかし、前半の展開は想像を超えたものだった。「パスサッカー」の広島が、ビルドアップを捨てて、ロングボール戦法だ。そして「前めの好位置で奪ってカウンター速攻」の新潟が、ビルドアップして仕掛ける。これはビッグスワンの観客、ゾクゾクしたろうなぁ。
出来事はその流れで起きた。22分、千代反田の送り込んだクロスにペドロが合わせて同点!、そのとき交錯した広島GK・佐藤が負傷退場してしまう。代わって入ったのはJ初出場の中林洋次。緊急事態だ。新潟にとっては千載一遇のチャンス。
30分、コーナーキックにあわてて飛び出し、ファンブルしたところを、ペドロが流し込み、あっさり逆転に成功。これはラッキーではあるけれど、相手の動揺を逃さなかったとも言える。44分、3点めは広島のお株を奪うパスまわしの芸術的な崩し。これは何度でも見たい!こんなことも出来るんだ!ペドロ・ジュニオールはハットトリックを達成する。
ところが後半は一転、広島ペースだった。ロングボール作戦はボディブローのようにジワジワ効いてくる。ひとつは体力を奪う効果。もうひとつはラインを下げる効果か。広島はミキッチを張らせたサイドを主戦場に定めてくる。そこに人を送り込むことで、ジウトンの上がりは完全に封じられた。
ただ広島が前に人数をかけてきたことで、新潟にも勝機があった。それはまさにカウンターのハマる展開じゃないか。だけど実際には4点めは奪えず、広島にまんまと追いつかれてしまった。
これは勝てた試合だ。3対2で勝つのも、4対3で勝つのもアリだった。この相手としょっちゅうスパーリングやれたらいいんだけどなぁ。チームの熟成、圧倒的に早まるよなぁ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
J1第6節「新潟×広島」は心待ちにしていたカードだ。好ゲーム間違いなし。今シーズンの広島は「昇格組」という範疇にはとてもくくれない。序盤戦のJで鮮やかな存在感を示す好チームだ。
迎える新潟はマルシオの復帰が心強い。このカードは両軍、万全の状態で迎えたい。個人的には第3節・大分戦級の名勝負を期待するが、大分戦が消しあい、殺しあう質のスリルなのに対し、広島戦はスペクタクルが保証されているところがいい。
広島側から見れば、新潟の脅威は「狩りとる力」だ。『サッカーマガジン』(4月21日号)で同誌・編集長の北條聡さんが秀逸な戦術分析を行っている。
「今季、新潟は定番だった4-4-2を捨て、新たなフォーメーションを採用している。積年の課題でもあった得点力不足を改善するため、攻撃的な3トップ(4-3-3)へ移行したとの見方もあるが、全体のファンクション(機能)を考えれば、ミッドフィールドの駒を増やした4-1-4-1と考えていい。トップの枚数を減らし、残る1枚を4人のMFと4人のDFから成る2ライン(4×4)の間に組み込んだ格好だ」(同誌「戦術白書2009」code.1新潟より)
北條さんは「肝は1トップ(大島秀夫)の背後につける第2列」と断言する。左からペドロ、松下、マルシオ、矢野。この第2列のプレスがボールの奪いどころ。敵の組みたての起点(2ボランチと両サイドバック)を刈りとりに行く。広島の起点は主として森崎和幸だろう。
一方、新潟の心配のタネは「残る一枚」、本間勲の負担だ。広島の「1トップ2シャドー」の、2シャドー部分をひとりで見るのはいかにも苦しい。キックオフ後、まずその対応に注目したが、内田が中にしぼってケアしていた。
と、広島がロングボールを使いだす。あぁ、この手があったか。これは「狩りとる力」が使えない。何とまぁ、ロジカルな攻めだろう。広島の先制点は、そのロジックに個の力が加わった形。ロングボールに千代反田が一瞬遅れ、佐藤寿人にウラをとられる。
しかし、前半の展開は想像を超えたものだった。「パスサッカー」の広島が、ビルドアップを捨てて、ロングボール戦法だ。そして「前めの好位置で奪ってカウンター速攻」の新潟が、ビルドアップして仕掛ける。これはビッグスワンの観客、ゾクゾクしたろうなぁ。
出来事はその流れで起きた。22分、千代反田の送り込んだクロスにペドロが合わせて同点!、そのとき交錯した広島GK・佐藤が負傷退場してしまう。代わって入ったのはJ初出場の中林洋次。緊急事態だ。新潟にとっては千載一遇のチャンス。
30分、コーナーキックにあわてて飛び出し、ファンブルしたところを、ペドロが流し込み、あっさり逆転に成功。これはラッキーではあるけれど、相手の動揺を逃さなかったとも言える。44分、3点めは広島のお株を奪うパスまわしの芸術的な崩し。これは何度でも見たい!こんなことも出来るんだ!ペドロ・ジュニオールはハットトリックを達成する。
ところが後半は一転、広島ペースだった。ロングボール作戦はボディブローのようにジワジワ効いてくる。ひとつは体力を奪う効果。もうひとつはラインを下げる効果か。広島はミキッチを張らせたサイドを主戦場に定めてくる。そこに人を送り込むことで、ジウトンの上がりは完全に封じられた。
ただ広島が前に人数をかけてきたことで、新潟にも勝機があった。それはまさにカウンターのハマる展開じゃないか。だけど実際には4点めは奪えず、広島にまんまと追いつかれてしまった。
これは勝てた試合だ。3対2で勝つのも、4対3で勝つのもアリだった。この相手としょっちゅうスパーリングやれたらいいんだけどなぁ。チームの熟成、圧倒的に早まるよなぁ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。