【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第8回
2009/4/30
本コラムの最後に、アルビレックス新潟からのお知らせがございます。ご高覧ください。
「雨中のファンタジー」
自宅を出る時点で折りたたみ傘ではなく、Lサイズ傘を選んだ。雨が上がる気づかいはない。GW初日、首都圏は本降りだ。
これは埼スタ、相当冷え込むと覚悟した。ビッグスワンもそうだけど、上層階の記者席は風が吹き抜ける。真冬のアウターを着込み、念の為、オーバーパンツをデイパックにつっ込んで行く。これはホントに正解だった。偶然、隣り合わせたテレ朝の前田有紀アナから「用意がいいですね」と声をかけられる。
J1第7節、大宮×新潟はそのような悪条件下で行われた一戦。それでも記者席は屋根があり、恵まれている。サポーターの陣どるゴール裏は雨ざらしだ。第4節・横浜FM戦の原稿で「雨は名演出家じゃないか」「劇的な結末が用意されていたり、記憶に残って、後々、語り草になったりするケースが多い」なんて書いたけれど、そうならない場合だってある。
まして相手は「凡戦に強い」大宮だ。これは芸風と呼ぶべき類いだろうけど、このチームは試合を眠らせようとする。特に三浦俊也監督時代の整然としたゾーンディフェンスが凄かった。何も起きないようにスペースを埋める。試合を静かに眠らせる。そして最後の最後、徹底したリアリズムで勝負に出る。
3月、ナビスコカップで当たってるけど、そのときも同じ感覚にとらわれた。樋口監督でビルドアップするようになり、張外龍・新監督はタテに速い展開を志向しているようだが、ベースは守りのチームだ。ナビスコでは石原直樹の反転するファインゴールもあり、新潟は苦杯を飲んだ。
試合が始まると、いきなり重いムードだ。13時キックオフは選手のキレがもうひとつに見えてしまう。雨で視界が悪い。身体がなかなか温まらない。ピッチがすべり、ボールがイメージより走る。ミスが多くなる。選手は必死に頑張るが、エンジンがかからない。前半、両軍1本ずつクロスバーを叩くシュートがあったけれど、単発でもあり、もう「入らない必然」が作用してる感じだ。
試合は静かに眠っている。鈴木淳監督のハーフタイム・コメントが事態を雄弁に語る。
「こういうゲームをものにして帰ろう。点を取ってしっかり守るぞ」
得点の後、しっかり守るところまで指示している。確かに1点とった方が勝ち逃げだ。
大宮・張監督が土岐田を投入して、急造の4-3-3を敷いたときは、あぁ、もうこの試合、何も起こらないのかと思う。マッチアップを完全に揃えてきた。
何か起きるとしたら、誰かスーパーな選手にスーパーな仕事をしてもらうしかないんじゃないか。張監督もそのつもりだったろう。66分、切り札、デニス・マルケスを送り込む。
対して新潟はその2分前(64分)、松下に代えて田中亜土夢だ。チョ・ヨンチョルを中、亜土夢を左で使う。前線の動きを活発にして、圧力を高める。これは切り札じゃなく、得点の可能性を少しでも高めようという交代策。80分、CKからのこぼれ球を大島が押し込もうとするが、大宮GK・江角が見事に止める。このまま何も起こらないのか。
試合終盤、両軍の「スーパーな選手」がひとつずつ仕事をした。87分、左から持ち込んだデニス・マルケスがクロスバーを叩く強烈なミドルシュート。これが決まってたら大宮に持っていかれた。
ロスタイムの89分、ショートコーナーからマルシオ・リシャルデスが狙いすました芸術的ループを放つ。やわらかいボールがGK・江角の指先をかすめ、ゴールに吸い込まれていく。
又も雨中の一戦は劇的な結末だった。これはゴール裏、しびれたろう。雨の不快さも寒さも、一瞬にして飛んだと思う。手前の、自分らの側のゴールだ。ループの軌道が目に焼きつく。びしょ濡れのサポーターは勝ち組だなぁ。あれを生で、目の前で見たんだから。
附記1、田中亜土夢の交代策&チョ・ヨンチョルのポジションチェンジは面白かった。オプションですなぁ。結果的に圧力を高めたことが、大宮・金澤慎の退場につながったという見方もできる。
2、大宮サポの知人(雑誌編集者)は「もう埼スタは使わなくていい。埼スタを使うことでホームアドバンテージを自ら手放している」とおかんむり。
3、隣りの席の前田アナだが、後半、ジウトンがスローイングで手がすべって相手に直接渡しちゃったとき、「あぁーっ」とものすごく反応していた。ちなみにジウトンは芝にすべって転んでみたり、この日もキャラ全開。
4、田中亜土夢も転んだ。
5、関係ないが、僕は松屋浅草デパートのGW企画「大新潟物産展」行ってきたす。「新津の三色だんご」久しぶりに食べた。GW中はいつでも浅草で「小嶋屋のへぎそば」「えちごよしいけのお寿司」が食べれる也。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、5月からリニューアルスタートするアルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただきます。
更新はこれまで同様、毎週木曜日。公式サイト(PC)では、公式携帯サイトで公開された内容を、翌週木曜日に掲載させていただくスケジュールとなります(※次号・第9回は、公式携帯サイトが5月7日、公式サイト(PC)は一週置いた5月14日の更新となります)。
えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
●公式携帯サイトについては、こちらをご覧ください。
「雨中のファンタジー」
自宅を出る時点で折りたたみ傘ではなく、Lサイズ傘を選んだ。雨が上がる気づかいはない。GW初日、首都圏は本降りだ。
これは埼スタ、相当冷え込むと覚悟した。ビッグスワンもそうだけど、上層階の記者席は風が吹き抜ける。真冬のアウターを着込み、念の為、オーバーパンツをデイパックにつっ込んで行く。これはホントに正解だった。偶然、隣り合わせたテレ朝の前田有紀アナから「用意がいいですね」と声をかけられる。
J1第7節、大宮×新潟はそのような悪条件下で行われた一戦。それでも記者席は屋根があり、恵まれている。サポーターの陣どるゴール裏は雨ざらしだ。第4節・横浜FM戦の原稿で「雨は名演出家じゃないか」「劇的な結末が用意されていたり、記憶に残って、後々、語り草になったりするケースが多い」なんて書いたけれど、そうならない場合だってある。
まして相手は「凡戦に強い」大宮だ。これは芸風と呼ぶべき類いだろうけど、このチームは試合を眠らせようとする。特に三浦俊也監督時代の整然としたゾーンディフェンスが凄かった。何も起きないようにスペースを埋める。試合を静かに眠らせる。そして最後の最後、徹底したリアリズムで勝負に出る。
3月、ナビスコカップで当たってるけど、そのときも同じ感覚にとらわれた。樋口監督でビルドアップするようになり、張外龍・新監督はタテに速い展開を志向しているようだが、ベースは守りのチームだ。ナビスコでは石原直樹の反転するファインゴールもあり、新潟は苦杯を飲んだ。
試合が始まると、いきなり重いムードだ。13時キックオフは選手のキレがもうひとつに見えてしまう。雨で視界が悪い。身体がなかなか温まらない。ピッチがすべり、ボールがイメージより走る。ミスが多くなる。選手は必死に頑張るが、エンジンがかからない。前半、両軍1本ずつクロスバーを叩くシュートがあったけれど、単発でもあり、もう「入らない必然」が作用してる感じだ。
試合は静かに眠っている。鈴木淳監督のハーフタイム・コメントが事態を雄弁に語る。
「こういうゲームをものにして帰ろう。点を取ってしっかり守るぞ」
得点の後、しっかり守るところまで指示している。確かに1点とった方が勝ち逃げだ。
大宮・張監督が土岐田を投入して、急造の4-3-3を敷いたときは、あぁ、もうこの試合、何も起こらないのかと思う。マッチアップを完全に揃えてきた。
何か起きるとしたら、誰かスーパーな選手にスーパーな仕事をしてもらうしかないんじゃないか。張監督もそのつもりだったろう。66分、切り札、デニス・マルケスを送り込む。
対して新潟はその2分前(64分)、松下に代えて田中亜土夢だ。チョ・ヨンチョルを中、亜土夢を左で使う。前線の動きを活発にして、圧力を高める。これは切り札じゃなく、得点の可能性を少しでも高めようという交代策。80分、CKからのこぼれ球を大島が押し込もうとするが、大宮GK・江角が見事に止める。このまま何も起こらないのか。
試合終盤、両軍の「スーパーな選手」がひとつずつ仕事をした。87分、左から持ち込んだデニス・マルケスがクロスバーを叩く強烈なミドルシュート。これが決まってたら大宮に持っていかれた。
ロスタイムの89分、ショートコーナーからマルシオ・リシャルデスが狙いすました芸術的ループを放つ。やわらかいボールがGK・江角の指先をかすめ、ゴールに吸い込まれていく。
又も雨中の一戦は劇的な結末だった。これはゴール裏、しびれたろう。雨の不快さも寒さも、一瞬にして飛んだと思う。手前の、自分らの側のゴールだ。ループの軌道が目に焼きつく。びしょ濡れのサポーターは勝ち組だなぁ。あれを生で、目の前で見たんだから。
附記1、田中亜土夢の交代策&チョ・ヨンチョルのポジションチェンジは面白かった。オプションですなぁ。結果的に圧力を高めたことが、大宮・金澤慎の退場につながったという見方もできる。
2、大宮サポの知人(雑誌編集者)は「もう埼スタは使わなくていい。埼スタを使うことでホームアドバンテージを自ら手放している」とおかんむり。
3、隣りの席の前田アナだが、後半、ジウトンがスローイングで手がすべって相手に直接渡しちゃったとき、「あぁーっ」とものすごく反応していた。ちなみにジウトンは芝にすべって転んでみたり、この日もキャラ全開。
4、田中亜土夢も転んだ。
5、関係ないが、僕は松屋浅草デパートのGW企画「大新潟物産展」行ってきたす。「新津の三色だんご」久しぶりに食べた。GW中はいつでも浅草で「小嶋屋のへぎそば」「えちごよしいけのお寿司」が食べれる也。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、5月からリニューアルスタートするアルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただきます。
更新はこれまで同様、毎週木曜日。公式サイト(PC)では、公式携帯サイトで公開された内容を、翌週木曜日に掲載させていただくスケジュールとなります(※次号・第9回は、公式携帯サイトが5月7日、公式サイト(PC)は一週置いた5月14日の更新となります)。
えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
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