【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第10回

2009/5/21
「原点」

 第10節・磐田戦は後味よくなかった。3対0から同点に追いつかれ、ドローゲーム。チョ・ヨンチョルの初ゴール(11分)から序盤、ノリノリだった4万大観衆のテンションが、次第に下がっていく。イ・グノにやられて3対2になった31分頃は、皆、「まさか」とか「ヤバイ」と感じ始めた。そのへんから磐田にペースを握られ、4万人の集合無意識が不吉な方へまとまってしまう。GK・北野が身体を張って防いでいるが、89分、PKを与えて、堤防が崩れる。又しても最終盤の失点だ。

○この試合のよかったところ
・負けなかった。
・マルシオ(累積欠場)なしで3点とれた。
・マルシオが休めた。
・チョ・ヨンチョルは先発で行ける。
・ペドロすげー。
○この試合の悪かったところ
・勝てなかった。
・マルシオのタメがないと試合が作れない。
・チームが自信を失い、消極的になった。
・終盤の失点(千代反田痛恨のファウル)

 「マルシオが休めた」は「マルシオがチューしてた」でも可。←別に構わんよ。僕が最も心配したのは、チームの消極性だ。守戦の展開になったのはOK。ゲームは生き物だからそういうこともある。ただ守戦こそ勇気が必要だ。この試合はちょっと怖がったせいで、ピンチを押し返せなかった。それにしても磐田は3月、ナビスコで当たったときと別のチームになった。イ・グノは今季のJシーンで注目すべき選手。


 第11節・山形戦はアウェーの「天地人ダービー」第1弾。僕はお互い敵地に乗り込む際、「わしはこんなところに来とうはなかった!」の断幕を出せばいいと思う(そう言いつつ、皆、ウキウキでめっちゃ来てるパターン)が、そういう方向ではなく、両ゴール裏「愛」を強調していた。かつては「日本海ダービー」と呼ばれた一戦だが、鈴木淳監督&大島秀夫の来歴を考えても実質、友軍と呼びたい間柄。共に開幕前の下馬評をくつがえし、Jに新風を巻き起こしている。

 この試合、注目は両軍スタメンだった。新潟はチョ・ヨンチョル、中野洋司を起用。一方、長谷川悠欠場の山形は古橋達弥&キム・ビョンスクの2トップ、園田拓也&レオナルドのセンターバック。そして右サイドバックの宮本卓也は「ペドロ対策特命係長」だ。

 大挙、隣県へ駈けつけた新潟サポーターは、山々に抱かれたNDソフトスタジアム山形で自分たちの原点を見た。多くの評論家が最下位予想をする戦力で(しかも、エース長谷川を欠いて)、山形はくじけることがない。決定機は少ないが、それを狙いつづける。小林伸二監督が前半から交代カードを使う。選手も指揮官も本当にひたむきだ。

 後半開始早々、千代反田の不注意から山形・秋葉勝に奪われたシーン。幸いGK・北野が左足に当てて防いだが、あぁいうのが危ない。新潟はそれ以外も、自陣の不用意な横パスを狙われていた。この日の山形は前線におさまらないので、心配すべきはミスからの失点だ。

 新潟は得点機が作れていた。60分、矢野貴章のゴールは、幸運なこぼれ球を決めたものだが、必然でもあった。山形DFが引いて、バイタルエリアをペドロが自由に使えた。つまり、それまで圧力をかけつづけていた。

 が、0対1になって、残り30分、新潟サポーターはGWの悪夢「終盤の失点でゲームを台なしにする」を、かえって思い起こす展開となる。サッカーの神様は本当に念の入ったことをする。いきなり、63分、秋葉にゴールネットを揺らされるが、これはオフサイド。70分、宮沢克行からひとりスルーして、古橋シュート。これはワクを外れる。80分、山形はDF・園田をFWの位置に上げ、パワープレーだ。彼らは今季、ホームでまだ負けてない(!)

 落ち着いていた。ロスタイム、肉離れから復帰の松尾直人がIN。全員自陣に戻って、勝つべき試合を勝ちきる。GWシリーズの大団円で、チームは悪夢を克服した。

○この試合のよかったところ
・勝った。
・前節終わって選手ミーティングをするなど、苦しいところでチームがまとまった。
・中野は充分、合格点。
・GW過密日程をいいイメージで戦い終えた。何とかパフォーマンスを維持できたことで、手応えをつかむ。
・好チーム、山形のおかげで原点を思い出すことができた。
○この試合の悪かったところ
・「天地人」いまひとつ不発気味?


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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