【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第12回

2009/6/4
「工夫ってやつ」

 13節、新潟×清水。有利な条件が揃っていた。ホーム開催、欠場者なし、そして何よりナビスコを戦って中2日の清水に対し、新潟は一週間休めてコンディションばっちり。こう、何というか「天地人」の3要素が文句なく揃ったオレンジダービーだった。直江兼続さん、どうして勝てなかったんでしょうか?

 野球で言うと「打線がタンパク」ってパターンなのかなぁ。例えばそれほど球威のある相手投手じゃなくて、これはそのうちつかまえられるだろうと思ってるうち回が進んでしまった、みたいな。ゲームの呼吸の面白さは「そのうちつかまえらえれる」から「得点の気配がしない」に、いつの間にかムードが変わってしまうところですよ。ベンチやピッチ上の選手はともかく、少なくともビッグスワンの観客は大詰めになるまで「そのうちつかまえられる」というテンションだった(とお見受けつかまつる)。

 それがねぇ、難しいんだねぇ。とにかく清水の選手がよく戻っていた。テレビ画面の上では、清水の白いユニホームがやけに人数多く映る。20人くらいいるんじゃないかと思う。まぁ、リードした後、ある程度、引いて守ったところは別にすると、何故、中2日の清水の方が動けていたのか。

 50分過ぎの攻防は、この試合の内容を凝縮したものだったと思う。
 50分、本間が奪ったボールがジウトンに渡り、即座に左サイドの縦パスがペドロ・ジュニオールに入る。ペドロはジウトンのパスを織り込んで動きだしていたから、スピードアップした状態で受けられ、そこから高速ドリブルだ。いつもなら、そこで前線が連動して得点機を作る。それが清水・高木純平が張りついていて、抜けられない。
 一方、51分、ペドロが刈り取った後の横パスが狙われる。岡崎慎司だ。中に切れ込んで、本間が身体で止めざるを得なかった。このファウルで清水は絶好の位置のFKを得る。兵働をダミーにして、山本真希がゴール右上隅にこの日、両軍唯一のゴール!

 新潟の攻めで一番惜しかったシーンは75分、マルシオがペドロに渡して、ペドロが右サイドをすーっと上がっていった内田にパスを通したときじゃなかったか。内田は切り返して、清水DF・太田宏介をかわし、シュート! そうしたらGK・山本海人がビッグセーブだ。山本海人はこの日、抜群の出来。だけど、引かれた場合の崩しは、これがヒントになる。「3人めの動き」であり、「後方からの攻撃参加」である。

 まぁ、この試合はうまく清水にまるめ込まれちゃったなぁ。伊東輝悦が見事な仕事ぶりだった。新潟はうまく行かないとき、ペースを変えるのがどうにも不得意だ。「90分間、同じことの繰り返し」(試合後、本間勲のコメントより)だった。今年のチームは爆発力は持っている。次に欲しいのは、「引かれた相手をどう崩すかを工夫しなければ」(同、本間勲コメント)、「クロスを入れるところも、一工夫なかった」(同、内田潤コメント)、選手も自覚してる通り、工夫ってやつだ。

 リーグ戦はこれで1ヶ月の中断期間に入る。13節終えて3位は上出来というところだろう。チームはそれに満足せず、しっかり課題を見すえている。これからどう成長していくか、楽しみにしたい。

 僕がここまで新潟を見て、感じ入ったことを最後にひとつ。Jリーグの情報戦というのか、新ネタに対策を打ってくる早さに舌を巻いた。ま、新潟の場合「4-3-3」という新ネタがあるわけだが、熟成するより早く各チーム、対策を立ててしまう。それはたぶん、磐田の「イ・グノ」という新ネタでも同様なのだろう。映像はカンタンに手に入り(僕でさえ、ひかりTVに加入してるおかげで全クラブ全節の動画がいつでも自由に見られる!)、隠しようがない。これは仕上る前につぶされるものだってあり得るだろう。Jのチームは、そういうリアリティのなかで戦っているのだと思う。          

附記1、代表で矢野貴章のプレーが見たいですねー。今回はベンチ入りすらなしってのはカンベンして欲しい。だけど代表は代表で、若手起用って新ネタなのかなぁ。もったいないな。                    

2、 元「ワールドサッカーグラフィック」誌編集長・中山淳氏の作るミニコミ誌、「FootBall LIFE zero」の第2号が出来ました。これ、都内なら扱ってる書店がある(中山さん、自分で配本してる!)んだけど、新潟だと通販になるな。書名で検索してくだされ。僕は対談ページで新潟について話してます。あと、現SC相模原プレイングマネージャー・秋葉忠宏氏のロングインタビューが必見!僕は中山さんえらいと思ってる。景気が悪くて、サッカー業界が縮小してるんなら、こういう形でだって面白いことをやるべき。 

3、その対談ページなんだけど、マラドーナのTV番組にちなんで「10番の夜」ってタイトルなんですよ。で、わざわざ麻布十番で、夜、対談収録してるんだけど、その説明がないから何のことだかわからなく仕上がっている(笑)。僕が今、他に中山さんに提案してるのは、フットサルの大会を長野県南アルプス市で主催すること。「南ア大会」ですよ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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