【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第13回
2009/6/11
「書きにくい」
ナビスコカップ(Aグループ)第4節、敵地・埼スタの浦和戦である。この日はプレス受付でマスクを渡された。プレスキットには「メディアの皆様へ/ミックスゾーンでのマスク着用のお願い」という広報が入ってる。
新型インフルエンザはその後、感染者数と地域を拡大しているけれど、新聞記事の扱いはどんどん小さくなっている。一体、あの騒ぎは何だったのかという感じだ。
浦和はとにかく選手を守ろうという方針のようだ。ちなみに「記者会見場、記者室、記者席、フォトグラファー室、ピッチ、その他運営ゾーンでは、特にマスク着用の要請は致しません」(同リリースより)とのこと。
サッカー・カレンダーの上では、日本代表がキリンカップの真っ只中だ。浦和は代表に4人とられ、そこへ更にケガ人が重なっている。フツーに考えれば別のチームだ。山田暢久が10何年ぶりにセンターバックを務めるという。戦績的にも公式戦ここ4試合、勝ちがない。
対する新潟は、代表招集の矢野貴章が欠けるだけだ。苦手の埼スタで勝利をものにする絶好の機会と考えたい。
不安材料があるとすれば、浦和の層の厚さってもんだなぁ。これは単に「タレントが豊富」という意味じゃない。活躍の機会に飢えている。例えば高原直泰は今季、まだノーゴールだ。又、フィンケ監督はナビスコ・大分戦後、「若手にはミスをする権利がある」とコメントしている。これは若手選手の積極性を促すに違いない。
さて、試合だ。
これが書きにくい。
正直に言うが、今週はどう書いたらいいか頭を抱えている。
率直に言って「今季ワーストゲーム」だろうと思う。これといった材料がない。
前半こそ互角に戦っていた。松下、チョ・ヨンチョルの併用に注目する。僕のイメージでは、立ち上がり、浦和の急造DFラインを強襲し、これをバタバタにすることになっていた。そううまくは行かない。浦和がしっかり守っている。
面白いもので、浦和がハツラツとしていた。高原が張り切る事情、浦和ユース上がりの若手が監督に背中を押される事情については既に書いた。鈴木啓太や坪井慶介も張り切っている。
久々のセンターバック、山田暢久が気合いが入ってるのはわかる。そのまわりで、何かあったら自分がカバーしなきゃいけないという役割の選手がハツラツとしている。敢えて言葉にすれば「今日は戦争だー」「仕事多いぞー」という感じ。つまり、アレです、普段のスタメンが大幅に欠ける事態が、逆に鮮度をもたらしている。
鮮度。フツーはサッカー誌に載らないタイプの言葉だけど、こんなに重要なものはない。それはたぶんサッカーが「手を使わないことにしたボール遊戯」であった原初に関わる問題なのだと思う。これまでJの選手を取材してきて、様々な選手が鮮度の問題を語るのを耳にしてきた。例えば、ACLへ出場して「相手を壊しても別にオッケーという状況下で、ヒリヒリしたサッカーをやった後、Jに戻ったときのテンションの上がらなさ」といったことだ。
フツーはこれを「モチベーション」という言葉に包括している。僕に言わせれば「モチベーション」はビジネス由来の言葉だ。勤労意欲を高め、生産性を向上させる言葉だ。一般の企業では昇進や昇給を動機づけにして、業績アップをはかってきた。プロサッカー選手の場合、もちろんサッカーは仕事なんだけど、単純に「お仕事」と割り切れない部分がある。
浦和のDF・西澤代志也(本来はMF)の1点め。ペドロにプレッシャーをかけて奪い、細貝との壁パスから抜けて、左足を振り抜く。
追加点のエスクデロもギラギラしていた。
新潟は残念ながら、時間の推移とともにどんどん元気がなくなる。
僕はモチベーションに差があったとは思わないのだ。「出来たら今日はお仕事サボりたい」なんて意識の選手が、アルビレックス新潟にいたとは思わない。皆、勝ちたかったし、サポーターを歓喜させたかったし、活躍して年俸を上げ、ハッピーになりたかった。
が、今日のところは鮮度に差があった。知人の浦和サポが「今日はファン感謝デーみたいな感じでした」と(嫌味でも何でもなく)言っていた。新潟はまるで先方のお楽しみ企画につき合わされたようだった。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
ナビスコカップ(Aグループ)第4節、敵地・埼スタの浦和戦である。この日はプレス受付でマスクを渡された。プレスキットには「メディアの皆様へ/ミックスゾーンでのマスク着用のお願い」という広報が入ってる。
新型インフルエンザはその後、感染者数と地域を拡大しているけれど、新聞記事の扱いはどんどん小さくなっている。一体、あの騒ぎは何だったのかという感じだ。
浦和はとにかく選手を守ろうという方針のようだ。ちなみに「記者会見場、記者室、記者席、フォトグラファー室、ピッチ、その他運営ゾーンでは、特にマスク着用の要請は致しません」(同リリースより)とのこと。
サッカー・カレンダーの上では、日本代表がキリンカップの真っ只中だ。浦和は代表に4人とられ、そこへ更にケガ人が重なっている。フツーに考えれば別のチームだ。山田暢久が10何年ぶりにセンターバックを務めるという。戦績的にも公式戦ここ4試合、勝ちがない。
対する新潟は、代表招集の矢野貴章が欠けるだけだ。苦手の埼スタで勝利をものにする絶好の機会と考えたい。
不安材料があるとすれば、浦和の層の厚さってもんだなぁ。これは単に「タレントが豊富」という意味じゃない。活躍の機会に飢えている。例えば高原直泰は今季、まだノーゴールだ。又、フィンケ監督はナビスコ・大分戦後、「若手にはミスをする権利がある」とコメントしている。これは若手選手の積極性を促すに違いない。
さて、試合だ。
これが書きにくい。
正直に言うが、今週はどう書いたらいいか頭を抱えている。
率直に言って「今季ワーストゲーム」だろうと思う。これといった材料がない。
前半こそ互角に戦っていた。松下、チョ・ヨンチョルの併用に注目する。僕のイメージでは、立ち上がり、浦和の急造DFラインを強襲し、これをバタバタにすることになっていた。そううまくは行かない。浦和がしっかり守っている。
面白いもので、浦和がハツラツとしていた。高原が張り切る事情、浦和ユース上がりの若手が監督に背中を押される事情については既に書いた。鈴木啓太や坪井慶介も張り切っている。
久々のセンターバック、山田暢久が気合いが入ってるのはわかる。そのまわりで、何かあったら自分がカバーしなきゃいけないという役割の選手がハツラツとしている。敢えて言葉にすれば「今日は戦争だー」「仕事多いぞー」という感じ。つまり、アレです、普段のスタメンが大幅に欠ける事態が、逆に鮮度をもたらしている。
鮮度。フツーはサッカー誌に載らないタイプの言葉だけど、こんなに重要なものはない。それはたぶんサッカーが「手を使わないことにしたボール遊戯」であった原初に関わる問題なのだと思う。これまでJの選手を取材してきて、様々な選手が鮮度の問題を語るのを耳にしてきた。例えば、ACLへ出場して「相手を壊しても別にオッケーという状況下で、ヒリヒリしたサッカーをやった後、Jに戻ったときのテンションの上がらなさ」といったことだ。
フツーはこれを「モチベーション」という言葉に包括している。僕に言わせれば「モチベーション」はビジネス由来の言葉だ。勤労意欲を高め、生産性を向上させる言葉だ。一般の企業では昇進や昇給を動機づけにして、業績アップをはかってきた。プロサッカー選手の場合、もちろんサッカーは仕事なんだけど、単純に「お仕事」と割り切れない部分がある。
浦和のDF・西澤代志也(本来はMF)の1点め。ペドロにプレッシャーをかけて奪い、細貝との壁パスから抜けて、左足を振り抜く。
追加点のエスクデロもギラギラしていた。
新潟は残念ながら、時間の推移とともにどんどん元気がなくなる。
僕はモチベーションに差があったとは思わないのだ。「出来たら今日はお仕事サボりたい」なんて意識の選手が、アルビレックス新潟にいたとは思わない。皆、勝ちたかったし、サポーターを歓喜させたかったし、活躍して年俸を上げ、ハッピーになりたかった。
が、今日のところは鮮度に差があった。知人の浦和サポが「今日はファン感謝デーみたいな感じでした」と(嫌味でも何でもなく)言っていた。新潟はまるで先方のお楽しみ企画につき合わされたようだった。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
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