【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第22回
2009/8/13
「課題」
J1第20節、新潟×大宮。
タイムアップの笛が鳴り、大島がヒザに手をついてうなだれる。鈴木淳監督が残念そうな足どりでピッチサイドを後にする。
大宮・波戸康広が、片岡と江角に「こうやって蹴り出したんだよ」という感じで、右足を上げてクリアのジェスチャーをする。そして笑顔でピッチ中央の整列に加わる。
スコアレスドローだった。新潟は大宮の守備ブロックが崩せない。最大に惜しかったシーンは後半29分、CKからの矢野貴章のヘッドだった。シュートは枠に飛び、大宮GK・江角が動けなかった。それを右足ボレーの要領でクリアしたのが波戸だ。波戸は試合中、矢野のマーカーとしても働いたから、「会心の矢野封じ」というところか。
大宮戦はレンタル契約の関係でペドロが使えない。新潟にとっては攻撃面で2つの課題のあった試合だ。
1.「ペドロ不在でどう攻めるか?」
2.「守りを固めてくる相手をどう攻略するか?」
1のひとつの解答は、パリ・サンジェルマンから新たに獲得したエヴェルトン・サントスなのかも知れない。この試合では「田中亜土夢+ジウトン」の先発起用で、攻撃力を補う狙いだった。現状、ペドロ不在時の第1オプションは後半投入されたチョ・ヨンチョルだろう。鈴木淳監督のプランはヨンチョルをインパクトプレーヤーとして、後にとっておくことだったと思う。
では、地元期待の田中亜土夢をどう評価すべきか。亜土夢はずっと「優先順位上位の控え」という感じでアップを繰り返してきた。この試合ではアグレッシブなプレーが印象に残る。チャンスをモノにしようと闘志満々だった。が、持ち味がもうひとつ発揮されない。亜土夢の面白さが発揮されたのは、かつてエジミウソンと2トップを組んだときだろう。僕は亜土夢が3トップでどう生き残るか、何かひとつに徹したプロ根性が見たい。
1の続き。攻撃全体を考えると大島の負担はいつにも増していた。大宮・金澤慎ってのはいいプレーヤーだなぁ。中盤をなかなか自由にさせてくれない。こんなにマルシオ・リシャルデスが目立たない試合も珍しいのではないか。J屈指のドリブラー、ペドロの不在は本当に大きい。そして、あらためて今季の新潟が奇跡のようなバランスで構成されてきたことを思う。
2の解答を鈴木淳監督はサイドバックのオーバーラップに求めているのだと思う。1に関係した言い方をすると、だからこそのジウトン先発起用だ。ジウトンはミスもあるが、攻め上がりに魅力を持っている。今は長所を伸ばして欲しい。努力を重ねればもっと凄いプレーヤーになれるだろう。
後半42分、本間から内田潤につなぎ、フリーのマルシオに渡したプレーは、この課題を解くヒントになる。シュートは珍しくマルシオがふかしてしまったが、得点の形は間違いなく作った。
勝負事として興味深かったのは、終盤の時間帯だ。新潟サポーターは「まさか今日もロスタイムあたりでやられるんじゃないだろうなぁ」と嫌な予感が脳裏をかすめたんじゃないか。
実際は新潟の猛攻が続いた。
そして「まさか今日もロスタイムあたりでやられるんじゃないだろうなぁ」は、大宮サポにとっても同様だったのだ。
前回、敵地の対戦で(しかも、雨中の試合で)、新潟は終盤、マルシオのビューティフルゴールを決めている。
面白いことに新潟サポは「うちは終盤に弱い」、大宮サポは「敵は終盤に強い」と思いながら終盤戦を見つめていた。
附記1 「サマーフェスタ2009」楽しそうでしたねー。僕も「ウッチー&直人のミックス焼きそば」食べたかった。
2、北野選手お取り寄せの「コアップガラナ」は僕も大好きです。北海道でも飲んだけど、東京でもルノアールのメニューにある。よくわからないのは、北海道へ行くとコンビニでも自販機でも、色んなメーカーのガラナが売られてることです。本場ブラジル以外で、あんなにガラナを飲んでるのは北海道人だけかも知れない。
3、来週なんですけど、このコラム「週刊」連載なんで、僕書くんですよ。何書こうかなぁ。予告通り、ジャイアント馬場かなぁ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第20節、新潟×大宮。
タイムアップの笛が鳴り、大島がヒザに手をついてうなだれる。鈴木淳監督が残念そうな足どりでピッチサイドを後にする。
大宮・波戸康広が、片岡と江角に「こうやって蹴り出したんだよ」という感じで、右足を上げてクリアのジェスチャーをする。そして笑顔でピッチ中央の整列に加わる。
スコアレスドローだった。新潟は大宮の守備ブロックが崩せない。最大に惜しかったシーンは後半29分、CKからの矢野貴章のヘッドだった。シュートは枠に飛び、大宮GK・江角が動けなかった。それを右足ボレーの要領でクリアしたのが波戸だ。波戸は試合中、矢野のマーカーとしても働いたから、「会心の矢野封じ」というところか。
大宮戦はレンタル契約の関係でペドロが使えない。新潟にとっては攻撃面で2つの課題のあった試合だ。
1.「ペドロ不在でどう攻めるか?」
2.「守りを固めてくる相手をどう攻略するか?」
1のひとつの解答は、パリ・サンジェルマンから新たに獲得したエヴェルトン・サントスなのかも知れない。この試合では「田中亜土夢+ジウトン」の先発起用で、攻撃力を補う狙いだった。現状、ペドロ不在時の第1オプションは後半投入されたチョ・ヨンチョルだろう。鈴木淳監督のプランはヨンチョルをインパクトプレーヤーとして、後にとっておくことだったと思う。
では、地元期待の田中亜土夢をどう評価すべきか。亜土夢はずっと「優先順位上位の控え」という感じでアップを繰り返してきた。この試合ではアグレッシブなプレーが印象に残る。チャンスをモノにしようと闘志満々だった。が、持ち味がもうひとつ発揮されない。亜土夢の面白さが発揮されたのは、かつてエジミウソンと2トップを組んだときだろう。僕は亜土夢が3トップでどう生き残るか、何かひとつに徹したプロ根性が見たい。
1の続き。攻撃全体を考えると大島の負担はいつにも増していた。大宮・金澤慎ってのはいいプレーヤーだなぁ。中盤をなかなか自由にさせてくれない。こんなにマルシオ・リシャルデスが目立たない試合も珍しいのではないか。J屈指のドリブラー、ペドロの不在は本当に大きい。そして、あらためて今季の新潟が奇跡のようなバランスで構成されてきたことを思う。
2の解答を鈴木淳監督はサイドバックのオーバーラップに求めているのだと思う。1に関係した言い方をすると、だからこそのジウトン先発起用だ。ジウトンはミスもあるが、攻め上がりに魅力を持っている。今は長所を伸ばして欲しい。努力を重ねればもっと凄いプレーヤーになれるだろう。
後半42分、本間から内田潤につなぎ、フリーのマルシオに渡したプレーは、この課題を解くヒントになる。シュートは珍しくマルシオがふかしてしまったが、得点の形は間違いなく作った。
勝負事として興味深かったのは、終盤の時間帯だ。新潟サポーターは「まさか今日もロスタイムあたりでやられるんじゃないだろうなぁ」と嫌な予感が脳裏をかすめたんじゃないか。
実際は新潟の猛攻が続いた。
そして「まさか今日もロスタイムあたりでやられるんじゃないだろうなぁ」は、大宮サポにとっても同様だったのだ。
前回、敵地の対戦で(しかも、雨中の試合で)、新潟は終盤、マルシオのビューティフルゴールを決めている。
面白いことに新潟サポは「うちは終盤に弱い」、大宮サポは「敵は終盤に強い」と思いながら終盤戦を見つめていた。
附記1 「サマーフェスタ2009」楽しそうでしたねー。僕も「ウッチー&直人のミックス焼きそば」食べたかった。
2、北野選手お取り寄せの「コアップガラナ」は僕も大好きです。北海道でも飲んだけど、東京でもルノアールのメニューにある。よくわからないのは、北海道へ行くとコンビニでも自販機でも、色んなメーカーのガラナが売られてることです。本場ブラジル以外で、あんなにガラナを飲んでるのは北海道人だけかも知れない。
3、来週なんですけど、このコラム「週刊」連載なんで、僕書くんですよ。何書こうかなぁ。予告通り、ジャイアント馬場かなぁ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
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