【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第24回

2009/8/27
「もうダメかと思いました」

 J1第21節、清水×新潟。
 JOMOカップ(日韓オールスター戦)の中断明け、2週間ぶりのリーグ戦再開だ。清水は絶好調。元々、夏場に強いチームだけど、メンバーが揃い、その上、岡崎慎司がゴール量産体勢に入っている。

 対する新潟は累積で本間勲が使えない。1ボランチには千葉和彦が入った。新潟のシステムを考えるとき、アンカーというのか1ボランチの果たす役割は絶大だ。文字通り、要のポジションと言える。今日は兵働、枝村辺りが千葉の脇のスペースを狙って来るだろう。

 もうひとつの注目ポイントは新潟の左サイド(清水の右サイド)の攻防。JOMOカップ帰りのジウトンがどこまで攻め上がれるか。マッチアップする清水右サイドバック、市川大祐が往年の迫力をとり戻している。ケガに泣かされた選手だが、実力から言えば日本のトップ級だ。ここを制圧されると、新潟の攻めは単調になる。

 で、心配は両方当たった。
 清水、めっちゃ強ぇ。前半から圧倒的に主導権を握られる。新潟は個々で対応するのみ。いやー、絶好調と聞いていたが、こんなにですか。ジワジワ順位を上げてきただけのことはある。
 リズムがいい。動きの連動性がいい。
 パッと見、清水の選手は新潟の2倍速くらいで動いてる印象だ。これは運動量という問題だけど(もっとスペースに顔を出す動きが欲しかったけど)、単純に「足が止まってる」という話じゃない。2週間ぶりの試合で、しかも前半から、疲労で足が止まるサッカーチームがどこにある?
 清水の内容があまりにも良くて、どうしたらいいかとまどっていた感じだ。

 左サイドは市川が自在に攻め上がる。バイタルエリアにはボールが入る。どっかで歯止めをかけなきゃサッカーにならないんだけど、手がかりがつかめない。とりあえず、市川を何とかしたい。あんなクロスをばんばん入れられたら、岡崎、ヨンセンに決められるのは時間の問題だ。

 33分、決められた。岡崎のダイビングヘッドはナイフのような切れ味。その上、10分後、「市川を何とかしたい」と奮闘していたジウトンが2枚めのイエローで退場。もうダメかと思いました。

 後半、鈴木淳監督は、守備ブロックの意識を徹底させる一方、「大島OUT、酒井IN」でサイドの補強工事。どうにかバランスを保つが、何しろ人数が1枚足りない、清水の攻勢が続く。

 ピンチの連続のなか、マルシオがチームを鼓舞していた。この人にはそういうところがある。困ったとき、抜群の頼り甲斐を見せる。ヒーローの資質だ。ヒーローはいつだって仲間が苦況に陥ったとき、変身したり巨大化したりして、真の姿を現す。

 76分、遠めの位置からのFK。壁を越えた後、落ちる球筋だった。
 マルシオ・ザ・ヒーローの超絶ゴール。
 たった一発で試合の全てを挽回して見せる。

 その後、清水も枝村が退場、終盤10分はどっちに転ぶかわかんない試合になった。
 この日、岡田主審はジャッジが厳しかった。とはいえ、それはお互い様のことだ。試合展開としては、最後、新潟に有利に働いた面もある。

 が、何にしてもマルシオのゴールだ。あれがなかったら、有利に働いたも何もない。もう一度言いますが、一時はもうダメかと思いました。


附記1 5戦連続ドローですか。だけどアレですね、ひと口に引き分けと言っても色んなパターンがあるってことですね。ま、別にコレクションしたいわけじゃないけど。

2、予定では夏休みを兼ねて、妻と一緒に3泊4日の新潟旅行だったんですけど、急用が出来てガンバ戦はテレビ観戦になりました。残念だなぁ、2節続けて見られて、海水浴にも行けると思ってたんだけど。←結局、週末1泊2日。

3、カンケイないけど、こないだ人に「雪見銀座」(美松 ガトウ専科GS)ってお菓子をいただいて、これが旨かったです。長岡のお菓子ですね。ラムレーズンって俺、相当好きなんすよ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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