【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第26回

2009/9/10
「ボールは丸い」

 J1第24節、名古屋×新潟。
 ペドロ・ジュニオールがG大阪へ電撃移籍してしまった。ファン、サポーターはこの一週間、その話題で持ち切りだ。8月末という変則的なタイミングを考えると、代理人というかペドロ本人側の意向が大きいのだろう。夏の移籍市場で欧州へ行く可能性もあった。

 まぁ、Jリーグの移籍基準が、選手の権利を重んじた「ボスマン判決」に沿ったものに変わり、契約が満了していれば一般論としてクラブ側に止める術がない。今回のケースは保有権を持つ大宮、移籍先のG大阪の間にはさまれた形で、新潟にとって難しい判断だったろう。形の上でいったん完全移籍させ、それから売る形をとった。G大阪はレアンドロの中東移籍でFWを探していた。

 僕は新潟は最善手を打ったのだと思う。危機管理として既にエヴェルトン・サントスを補強している。クラブ・選手間には観客席から見てもわからない呼吸があると思う。手を打つべきだと判断する材料があったに違いない。これはプロの世界だから「新外国人補強で感情を害したペドロが、移籍を決意した」みたいな話じゃないだろう。第一、スタメンをエヴェルトン・サントスに奪われたわけでもなかった。

 しかし、突然、Jに旋風を巻き起こした「4-3-3の新潟」が消えてしまった。選手の個性が絶妙のバランスで配された「奇跡のチーム」が壊れてしまった。
 そのことが残念でならない。
 夏を越えて、コンディションが戻ったとき、どんな物語を見せてくれるのか、楽しみにしていた。

 名古屋戦は「4-3-3」の幻影を追いかけるような試合だった。鈴木淳監督は決して弱音を口にしないが、現場としては苦しいところだ。ただでさえチームは勝ちから遠ざかっている。エヴェルトン・サントスは、まだフィットしない。どうやら裏へ抜けるスピードが持ち味らしい。「J屈指のドリブラー、ペドロ・ジュニオール」と同じ機能を期待するわけにはいかない。

 クイックスタートのセットプレーから、玉田にやられた。終盤、名古屋が守りを固めて、バイタルエリアにスペースが出来たけれど、決めきれなかった。3連敗だ。

 チームはシーズン当初の課題に立ち戻ったのかも知れない。
 「昨シーズン、最少得点のチームをどうするか?」
 キャンプで突然生まれたという「4-3-3」に代わるシステムを必要としているのか。あるいは「4-3-3」の新しい形を示していくのか。

 僕はサポーターに申し上げたい。
 ブレないで下さい。
 今、この苦しいときにチームを押さないで、いつ押しますか。
 勝ってるから応援したいという人もいるでしょう。勝てないんだったら見たくない。それはアルビレックス新潟のファンじゃなくて「結果のファン」ですよ。

 2週間空いて、次節からクラブの総力戦です。幸い上位が足踏みしてくれて、充分チャンスがある。
 僕はアレです、アルビレックス新潟にこんなことで凹んで欲しくない。
 シーズンが終わったとき、あぁ、オレたち戦い抜いたと胸を張って欲しい。
 サッカーの世界では「ボールは丸い」って言うんですよ。どこへ転がるかわからない。
 ボールは丸い。
 どこへ転がるか、最後まで追いかけて行きましょう。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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