【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第28回

2009/9/24
「純度最高級」
 
 J1第25節、千葉×新潟。
 終了間際の新潟ゴール裏が凄かった。スコアは0対1。このまま逃げ切れるのか。敵地に駈けつけた3千強の新潟サポの内心に不安がふくれ上がる。ふり払ってもふり払っても「ひと夏の思い出」が頭をもたげる。
 千葉・深井がヤバい。CKをとられた。両手を組んで祈るポーズになってる女性サポもいる。皆、思いの丈をぶつけるような北野コール。GK・北野はどうにか切り抜けた。
 ロスタイムは4分。4分は長い。
 新潟は基本、蹴り出してクリアの意識。マルシオはボールをキープし、身体を入れて敵のファウルを誘う。矢野貴章が敵とぶつかってピッチに寝る。
 チャントが途切れない。どんどん大きくなる。「アイシテル新潟」だ。今季、僕が聴いたなかでも純度最高級の「アイシテル新潟」。内心の不安が、祈りが、屋根に反響する。
 そしてタイムアップ。

 実に9試合ぶりの勝利だ。
 内容はともかく、この試合は一も二もなく勝つことがテーマだった。

 2週間の整備を終え、新潟は大島、矢野2トップの4-4-2のチームとして再起した。日本人FWの2トップとしては「ツインタワー」と呼びたいサイズ、スケール感だ。

 昨シーズン最終節の4-4-2と今節スタメンを比較してみる。FWがアレッサンドロ→大島、ボランチが寺川→千葉、左サイドバックが松尾→ジウトン。それ以外は同じ選手だ。昨シーズンまでのやり方をベースに使える強みがある。大島が加わったことで「DFを背負ってボールをおさめる」力は上がった。寺川の持ち味は捨てがたいが、千葉が出場機会を得て、張り切っている。ジウトンのところは松尾で行く手もあるのだ。攻撃力に期待して敢えてジウトン先発。

 得点はセットプレーから。これも昨シーズンの貴重な得点源だ。前半20分、松下のFKに矢野が頭で合わせる。
 試合展開としては、その「虎の子の1点を守る」だったわけだが、後半、守りに4-3-3の「刈りとる力」を使う等して、単に昨シーズンのベースに戻ったのではないところも見せた。

 反省材料はミスが多かったところだ。まぁ、これは両軍多くて、助けられた面もある。09年モデルの4-4-2に新しいストロングポイントが加わったかというと、それはこの試合では見えなかった。途中出場のエヴェルトン・サントスもまだ凄味を見せるに至らない。

 けれど、とにかく勝った。これ以上、大きなことがあるだろうか。勝つことは自信につながる。長いトンネルに入ったチームは、どこかで自信をとり戻す必要があった。

 タイムアップの笛が鳴って、ゴール裏の歓喜が爆発した。「やったー」とガッツポーズする者。「勝ったー」と抱き合う者。皆、心の底からホッとしている。ずっと身体に力が入っていた。

 サポーターも選手らも、つまり、アルビレックス新潟は勝利を思い出した。
 勝つってこんなに嬉しいものだったのか。
 このまま空の彼方まで飛んで行きたくなる。
 胸がいっぱいで「やったー」しか言葉がない。こんなにしびれるものだったのか。

 勝利より大きなことがないというのは、そういうことだ。それが次へつながる。
 今季残りの9節、ひとつずつていねいに獲っていこう。次はホームで爆発だ。ビッグスワンに純度最高級の「アイシテル新潟」を響かせよう。


附記1、第三舞台・大高洋夫さん連れて行きましたよ。思えば初めてです、「新潟出身の知人をアルビレックス新潟の試合に誘う」パターン。大高さんは、ずっと気になってたけどこれまで縁がなかった的なスタンスでした。そもそもJリーグの試合自体が初体験とのこと。いやー、大変な勢いで応援してましたね。ものすご嬉しかったらしい。首都圏で、3千人規模の人が新潟愛を叫んでる状態が。考えたらなかなかないことですよね。で、途中出場のゴートクについて「今、入った24番、大高さんと同じ長岡出身だよ」と教えたらめっちゃ反応してた。

2、チャントでは「アイシテル新潟」はもちろんだけど、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」の「おれのー、にいがたー、おおおおおー」に反応してた。ま、ひとり味方を増やしましたよ。ユニ買うらしい。

3、だけど、アレですね、新潟人って今、現に新潟に住んでるかどうかじゃないですね。大高さんなんて早稲田入学以来、ずっと東京で、もう、東京の方が長いんだけど、やっぱり新潟愛に反応する。僕はアイルランド人を連想しました。W杯のとき、ビッグスワンにも来た緑色のアイルランドサポって実は国籍に関しては色々だったりします。ま、映画「タイタニック」で描かれたように移民してますから。で、国籍がアメリカでもオーストラリアでも、アイルランド人なんだな。W杯などのスポーツイベントは(あるいは聖パトリックデーのパレード等は)、彼らにとってアイデンティティーを確認する場になっている。もしかすると、首都圏開催の新潟の試合はそういうことになり得ますね。

4、その場合、チケット収入は首都圏のクラブに入るから、何かビジネススキームを考えたいとこですね。「故郷につながってるクラブ」。遠隔地ファンの動機づけみたいな発想です。アジア人がバルサやマンUのシャツを買うんだから、東京在住の新潟人がアルビのシャツ買ってくれてもいい。

5、モバアル読者から「ゴートクの出身地は長岡じゃなくて三条です」とのご指摘をいただきました。しまった、大高さんにウソ教えちゃった。謹んで大高さんと読者にお詫びし、訂正します。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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