【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第29回
2009/10/1
「悪かった印象はない」
J1第26節、新潟×大分。
引き締まった好ゲーム。まぁ、「最下位・大分」相手に「ホーム」でスコアレスドロー、という額面だけを考えると、物足りなく思う読者もおられるだろう。だけど、大分は全然弱いチームじゃない。何しろ去年はナビスコ杯を獲って、リーグ戦4位なのだ。むしろ、ほんの少し歯車が狂っただけで、そのチームが最下位に沈んでしまうJリーグの怖さを思うべきだろう。別の言い方をすると、それがJリーグの面白さでもある。欧州の各国リーグのようにビッグクラブに圧倒的な戦力が集中しているわけじゃない。
大分は前節、ホームで磐田を破り、闘志満々だった。残り全試合、一戦必勝体制で奇跡を呼び込みたい。試合を見ていて、僕は何でこのチームが最下位なんだろうと不思議に思った。DFの集中力もいい、1トップの高松が流れて空いたスペースに2列目が飛び込んで来る戦術も魅力的だ。72分、松下のFK対策でDFラインを上げて、オフサイドトラップを仕掛けたのもお見事だった。つまり、大変よくチューンナップされたチームだった。やっぱり、Jは順位がアテになんないなぁ。
新潟の得点機で最高にカッコ良かったのは、61分、矢野貴章が身体を投げ出して放ったボレーシュートじゃなかったか。マルシオから右サイドの内田へ渡り、そこから最高のクロスが入る。ゴール前にオレンジの人数がいる。ニアがおとりになって矢野がフリーになった。感覚としては横向きのバイシクルシュートだ。残念ながらクロスバーを直撃した。敵GK・西川がまったく反応できなかったから、もう5センチ内側へ行っていたら、ビッグスワンはスーパーゴールでお祭り騒ぎだった。
惜しかったという点では76分、千葉から縦パスが通り、松下が反転してのゴールがオフサイドになった。あれなんかイタリアだったら、本当にオフサイドかどうか夜のサッカー番組で激論が交わされるところだ。さんざん意見が出尽くして、もう終わりかなと思ったら、「それではもう一度、VTRを見てみましょう」なんて司会が言って、まだ1時間くらい引っぱる。それくらいのオフサイドだ。まぁ、イタリア人は「カテナチオ哲学」なんっつって勝ちにこだわるところばかり強調されるけれど、ディティールを楽しむ天才でもあるだろう。
まぁ、あと74分、内田の左足シュートも惜しかったわけだが、そんなことを言ってもスコアレスドローはスコアレスドローだ。両軍、ノドから手が出るほど欲しかった勝ち点3を逃す結果となった。
が、内容が悪かった印象はない。逆に言うと、内容が悪くなくて勝てなかったところが問題だという言い方も出来る。チームは「ペドロ電撃移籍」から立ち直って、再建されつつある。新しい4-4-2のなかで、特に松下が輝きだしている。
結局はゴールなのだと思う。
スコアレスドローの試合評で、結局はゴールと言うのも当たり前すぎて気が引けるけれど、ゴールが全てを解決する。
サッカーではよく、「ゴールが内容の悪さを隠してしまう」という現象も起きるのだけど、点取りゲームは点を取らないと勝利に結びつかない。
大分戦で何度か見せた得点機を増やして行くことだろう。チームは間違った方向へ行ってない。次節から広島、鹿島、浦和と面白いとこと当たる。ここで食らいつけるかどうか、正念場だ。いやー、「お楽しみはこれからだ」って感じじゃないすかー?!
附記1、『サッカー批評』(双葉社・44号)、広島・ペトロヴィッチ監督のインタビュー中に矢野貴章の話が登場しますね。ポジションやシステムにこだわりすぎる日本サッカーの常識をくつがえす選手の例として、ペトロヴィッチさんは矢野をイメージしてくれた。
2、同誌の最後の見開き編集ページに「初代『サッカー批評』編集人/真井新さんの逝去に寄せて」という、森編集長の追悼文が掲載されています。故・真井新氏は僕も「反町康治ロングインタビュー」企画等でお世話になった方です。あらためて御冥福をお祈りします。
3、第三舞台・大高洋夫さんからメールが来ました。「何故、最下位相手に引き分け? オレが行かなかったからか?」、まぁ、そうとも言えますよね。大高さん的なスタンスの「オレ」がもっと大挙ビッグスワンへ駈けつけてたら、矢野のボレーだって入ったかも知れませんよ。たのむぞ大高さん!
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第26節、新潟×大分。
引き締まった好ゲーム。まぁ、「最下位・大分」相手に「ホーム」でスコアレスドロー、という額面だけを考えると、物足りなく思う読者もおられるだろう。だけど、大分は全然弱いチームじゃない。何しろ去年はナビスコ杯を獲って、リーグ戦4位なのだ。むしろ、ほんの少し歯車が狂っただけで、そのチームが最下位に沈んでしまうJリーグの怖さを思うべきだろう。別の言い方をすると、それがJリーグの面白さでもある。欧州の各国リーグのようにビッグクラブに圧倒的な戦力が集中しているわけじゃない。
大分は前節、ホームで磐田を破り、闘志満々だった。残り全試合、一戦必勝体制で奇跡を呼び込みたい。試合を見ていて、僕は何でこのチームが最下位なんだろうと不思議に思った。DFの集中力もいい、1トップの高松が流れて空いたスペースに2列目が飛び込んで来る戦術も魅力的だ。72分、松下のFK対策でDFラインを上げて、オフサイドトラップを仕掛けたのもお見事だった。つまり、大変よくチューンナップされたチームだった。やっぱり、Jは順位がアテになんないなぁ。
新潟の得点機で最高にカッコ良かったのは、61分、矢野貴章が身体を投げ出して放ったボレーシュートじゃなかったか。マルシオから右サイドの内田へ渡り、そこから最高のクロスが入る。ゴール前にオレンジの人数がいる。ニアがおとりになって矢野がフリーになった。感覚としては横向きのバイシクルシュートだ。残念ながらクロスバーを直撃した。敵GK・西川がまったく反応できなかったから、もう5センチ内側へ行っていたら、ビッグスワンはスーパーゴールでお祭り騒ぎだった。
惜しかったという点では76分、千葉から縦パスが通り、松下が反転してのゴールがオフサイドになった。あれなんかイタリアだったら、本当にオフサイドかどうか夜のサッカー番組で激論が交わされるところだ。さんざん意見が出尽くして、もう終わりかなと思ったら、「それではもう一度、VTRを見てみましょう」なんて司会が言って、まだ1時間くらい引っぱる。それくらいのオフサイドだ。まぁ、イタリア人は「カテナチオ哲学」なんっつって勝ちにこだわるところばかり強調されるけれど、ディティールを楽しむ天才でもあるだろう。
まぁ、あと74分、内田の左足シュートも惜しかったわけだが、そんなことを言ってもスコアレスドローはスコアレスドローだ。両軍、ノドから手が出るほど欲しかった勝ち点3を逃す結果となった。
が、内容が悪かった印象はない。逆に言うと、内容が悪くなくて勝てなかったところが問題だという言い方も出来る。チームは「ペドロ電撃移籍」から立ち直って、再建されつつある。新しい4-4-2のなかで、特に松下が輝きだしている。
結局はゴールなのだと思う。
スコアレスドローの試合評で、結局はゴールと言うのも当たり前すぎて気が引けるけれど、ゴールが全てを解決する。
サッカーではよく、「ゴールが内容の悪さを隠してしまう」という現象も起きるのだけど、点取りゲームは点を取らないと勝利に結びつかない。
大分戦で何度か見せた得点機を増やして行くことだろう。チームは間違った方向へ行ってない。次節から広島、鹿島、浦和と面白いとこと当たる。ここで食らいつけるかどうか、正念場だ。いやー、「お楽しみはこれからだ」って感じじゃないすかー?!
附記1、『サッカー批評』(双葉社・44号)、広島・ペトロヴィッチ監督のインタビュー中に矢野貴章の話が登場しますね。ポジションやシステムにこだわりすぎる日本サッカーの常識をくつがえす選手の例として、ペトロヴィッチさんは矢野をイメージしてくれた。
2、同誌の最後の見開き編集ページに「初代『サッカー批評』編集人/真井新さんの逝去に寄せて」という、森編集長の追悼文が掲載されています。故・真井新氏は僕も「反町康治ロングインタビュー」企画等でお世話になった方です。あらためて御冥福をお祈りします。
3、第三舞台・大高洋夫さんからメールが来ました。「何故、最下位相手に引き分け? オレが行かなかったからか?」、まぁ、そうとも言えますよね。大高さん的なスタンスの「オレ」がもっと大挙ビッグスワンへ駈けつけてたら、矢野のボレーだって入ったかも知れませんよ。たのむぞ大高さん!
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!