【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第30回

2009/10/8
「挑戦」

 J1第27節、広島×新潟。
 絶好調の広島に挑戦する。どのくらい絶好調かというと「ここ9戦負けなし」&「ホーム5連勝中」だ。負ける気がしないだろう。第6節、ビッグスワンでハットトリックを決めたペドロ・ジュニオールはもういない(しかも、その試合、3対3に追いついている)。広島ビッグアーチで当たったナビスコ杯予選は圧勝だった。不安材料は柏木(累積)、ストヤノフ(体調不良)の欠場だが、代わりの選手で充分、戦える。

 敵地へ乗り込んだ鈴木淳監督は大胆な用兵を見せる。
 三門雄大デビュー。
 千葉和彦が足を痛めたタイミングとはいえ、なかなかこの大一番に新人をスタメン起用できるものじゃない。サテライトで使って、デビューさせる時期を見定めてきたのだろう。僕は鈴木淳監督らしいなぁと思う。この監督は決めたらブレない。
 三門はプレーヤーとして最高の初陣を与えられた。勝敗がチームの浮沈を握る試合で、現在、Jトップ級の折り紙のつく中盤とやり合えるのだ。

 試合はさすがに両軍、モチベーションの高い入りだった。激しい攻防が続く。こりゃどっちも「ハイオク満タン」だ。三門も憶せず戦っている。このテンションの試合にすーっと入っていけるところは並の新人じゃない。

 先にリズムが出たのは広島だった。柏木、ストヤノフが欠場しても、やっぱり広島の構成力は脅威だ。11分、佐藤寿人がワンタッチでDFの裏へパスを出す。高柳が抜けて至近距離からのシュート。これはGK・北野がよく防いだ。18分、佐藤寿人のヘッドも危なかった。相手が一手ずつ上回ってる印象。結果的にこの時間帯を耐えたことが勝利を引き寄せる。

 流れを変えたのは本間勲だ。機を見て前へ行く。4-4-2に変わって、ボランチの1枚が攻撃参加する形がチームに意識づけられている。壁パスから左サイドに持ち込み、クロスを入れる。
 そこへジウトンが猛然と駈け上がって来た。とんでもない勢いでゴール中央へ飛び込んでゆく。広島DFがそれにつられる。で、スルー。
 ファーの矢野貴章がフリーになった。20分、もらって落ち着いてゴール。新潟のいい形。ジウトンの勢いにはかなり笑わしてもらった。

 が、37分には爆笑していた。ジウトンがひとりで持ち込んで、DFにからまれても止まらず、キーパーともみ合ってもあきらめず、そのまま押し込んでしまった。「何人抜き」というような美技ではない。構成力もへったくれもない。ニュアンスとしてはですね、子供がかけっこしていてズボンが下がってきちゃったんですよね。ヒザまで下がっても走るのを止めず、くるぶしまで下がったところで転んで、転んだけどいっしょうけんめい手を伸ばすなどしてゴールラインにタッチして一等賞もらった。そんなゴール! ま、「ひとりでできたもんゴール」と命名してもいい。ジウトンって選手は本当に面白い。笑って笑っておなか痛かった。

 スタッツ的には前半、新潟のシュート4本、そのうち2本が入ってしまった。そんなのってある?

 後半6分、広島は青山のゴールで反撃に転じる。早々、1点返されたことから、その先の試合運びは至難の業になると思われた。それが北野が鬼神のように防ぎつづけるでもなく、DFが死戦を繰りひろげるでもなく、バランスを保ってどうにか抑え込んでしまう。言うのは簡単だが、大変なことだ。あらためてチームのストロングポイントは守備だと実感する。

 1対2の快勝。ナビスコに続いて性懲りもなく広島へ出向いたサポーターは、してやったりというところだ。新潟は上位戦線にとどまった。価値ある勝利だ。初陣・三門は生涯この試合を忘れないだろう。


附記1、美しいサッカーを信条とする広島・ペトロビッチ監督は試合後、TVインタビューで、ジウトンの2点目を「安いゴール」と表現した。気持ちはわかります。だけど、1点は1点だもんねー。

2、僕はこの土日、日光アイスバックスの地元開幕戦だったわけですけど、今シーズン、チームのトレーナーをお願いしているのが、小林巧さんといって長くアルビレックス新潟のトレーナーをされてた方なんすよ。空き時間に本間勲のルーキー時代の話を聞いたりして、すごく楽しいです。

3、あと南魚沼の岡村健彦さんから新米が届きました!岡村さんはドイツW杯のツアーで知り合った方で、地域の子供らをビッグスワンに連れてったりされている熱心なアルビサポです。で、本当においしいお米を作るんですよ。06年の秋、新米を送っていただいて「世の中にこんなにうまい米があるのか」と衝撃を受けました。今年の出来も素晴らしい。
岡村さん、考えたら僕にこの連載を持たせた遠因のひとつは確実に岡村さんですよ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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