【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第32回
2009/10/22
「晴れの日」
天皇杯2回戦・奈良クラブ×新潟。
今年から大会規定が変わって、Jリーグ勢が全チーム、2回戦から出場することになった。リーグ戦、ACLとかけ持ちになる名古屋には気の毒なことだ。新潟は「奈良県代表・奈良クラブ」戦という、滅多にないカードを戦うことになった。
カテゴリー的には「4部リーグ」相当のチームだ。それが練習試合でなく公式戦だ。現監督の山口幸司氏が中心になって91年に創設、将来のJリーグ入りを目指してるらしい。
それは見に行きますよ。夜行バス「ドリーム福井号」乗りますよ。いや、1回戦の組み合わせを見て、サウルコス福井が勝ち上がったら「越前・越後ダービー」だなと思ってたんですけどね。そこへ歴史的に見ると荘園領主的な奈良が勝ち上がって来たのも一興だ。ユニホームに「せんとくん」入ってます。会場でグッズ売ってたら正直、買いたい。
会場のテクノポート福井には不思議な晴れやかさがあった。新潟は「ベストメンバー規定」通り、主力級をぶつける。千代反田が休んだ他はレギュラーが全員ベンチに揃う。奈良クラブは、ゴール裏の「奈良クラブです。よろしくお願いします」の断幕がよかった。サポーターも選手らも顔が輝いている。
スタメンが発表になって、奈良クラブの8番・水越潤のとき、新潟ゴール裏から拍手が起こる。かつてのアルビ戦士に対して親愛とリスペクトを示した。何かこう、両ゴール裏がニコニコしている。ついでに言うと00年4月、鹿島×市原戦以来、9年ぶりにJ1チームを地元に迎えた福井県サッカー関係者や少年チームがニコニコしている。
これもサッカーの情景だなぁと思う。メンバー表を見て、最初、「うわ、マルシオ先発かよ」と思ったが、よく考えたらこういう試合こそマルシオ・リシャルデスや矢野貴章を出すべきだ。それがJを目指している奈良クラブに対して礼にかなうし、福井のサッカー少年への贈りものになる。「ベストメンバー規定」云々を離れて、ここに集ったサッカーを大切にしている仲間に対し、誠実だと思う。
試合は前半で決した。新潟にとってエンギがいいのは、スタメン出場したエヴェルトン・サントスが2ゴールを記録したことだ。リーグ戦残り6節、エヴェルトンには大仕事を期待したい。新潟ゴール裏は「きっかけにしてくれよー」という感じで、大いに盛り上がる。ハットトリックの期待が高まるが、3点めは矢野だった。奈良クラブの公式記録に矢野貴章のゴールが残った。
サッカー的には(当たり前だが)、力の差が歴然だった。ポゼッションを支配し、やりたいように攻めた。0対3になった後半は、敵陣で試合を続けるけれど無理をしない。奈良クラブも無理をして来なかった。
つまり、他会場で起きたようなアップセット(番狂わせ)と、テクノポート福井は無縁だった。
試合後、奈良クラブ・山口監督がこらえ切れず涙を見せていた。
彼らの旅に幸多かれ。新潟ゴール裏の「奈良クラブ」コールが続いた。
僕らも旅を続ける。又、会いましょう。
附記1、「奈良クラブです。よろしくお願いします」断幕に対して、新潟ゴール裏は「水越潤をよろしくお願いします」断幕を即席でこしらえてアンサーとしていた。ほのぼのした。
2、奈良クラブのチャントで考えさせられたのは「バモバモ」だった。JでいえばFC東京ばりに奈良クラブも「バモバモ」をやったんだけど、「奈良」が2音なんだね。僕の耳が確かなら、彼らは「♪バモバモー、奈良ラー、バモバモー、奈良ラー」と最後に「ラー」を足してた。
3、今回、福井を旅して最も感銘を受けたのは、一乗谷でも北の庄城址でも永平寺でもなく「えちぜん鉄道のアテンダントのお姉さん」だった。真心こもったおもてなし。興味のある方は「ローカル線ガールズ」(嶋田郁美・著、メディアファクトリー)を参照されたし。僕は試合開始の2時間前、三国港駅で「秋祭りの町内みこしに無理矢理乗っけられ、ゆさゆさ揺らされてるアテンダントのお姉さん」に遭遇、大変感じ入った。
4、で、特に誰もクルマでピックアップしに来ないので、三国駅まで引き返し、タクシーで会場入りした。試合終了後、
スタジアム脇の通路で、「あ、えのきどさん!俺、三国港行ってみたんだよ」的な声を何人もにかけられる。まぁ、そういうもんですよねー。なかなか待ち合わせもしないでバッタリ出くわしませんよ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
天皇杯2回戦・奈良クラブ×新潟。
今年から大会規定が変わって、Jリーグ勢が全チーム、2回戦から出場することになった。リーグ戦、ACLとかけ持ちになる名古屋には気の毒なことだ。新潟は「奈良県代表・奈良クラブ」戦という、滅多にないカードを戦うことになった。
カテゴリー的には「4部リーグ」相当のチームだ。それが練習試合でなく公式戦だ。現監督の山口幸司氏が中心になって91年に創設、将来のJリーグ入りを目指してるらしい。
それは見に行きますよ。夜行バス「ドリーム福井号」乗りますよ。いや、1回戦の組み合わせを見て、サウルコス福井が勝ち上がったら「越前・越後ダービー」だなと思ってたんですけどね。そこへ歴史的に見ると荘園領主的な奈良が勝ち上がって来たのも一興だ。ユニホームに「せんとくん」入ってます。会場でグッズ売ってたら正直、買いたい。
会場のテクノポート福井には不思議な晴れやかさがあった。新潟は「ベストメンバー規定」通り、主力級をぶつける。千代反田が休んだ他はレギュラーが全員ベンチに揃う。奈良クラブは、ゴール裏の「奈良クラブです。よろしくお願いします」の断幕がよかった。サポーターも選手らも顔が輝いている。
スタメンが発表になって、奈良クラブの8番・水越潤のとき、新潟ゴール裏から拍手が起こる。かつてのアルビ戦士に対して親愛とリスペクトを示した。何かこう、両ゴール裏がニコニコしている。ついでに言うと00年4月、鹿島×市原戦以来、9年ぶりにJ1チームを地元に迎えた福井県サッカー関係者や少年チームがニコニコしている。
これもサッカーの情景だなぁと思う。メンバー表を見て、最初、「うわ、マルシオ先発かよ」と思ったが、よく考えたらこういう試合こそマルシオ・リシャルデスや矢野貴章を出すべきだ。それがJを目指している奈良クラブに対して礼にかなうし、福井のサッカー少年への贈りものになる。「ベストメンバー規定」云々を離れて、ここに集ったサッカーを大切にしている仲間に対し、誠実だと思う。
試合は前半で決した。新潟にとってエンギがいいのは、スタメン出場したエヴェルトン・サントスが2ゴールを記録したことだ。リーグ戦残り6節、エヴェルトンには大仕事を期待したい。新潟ゴール裏は「きっかけにしてくれよー」という感じで、大いに盛り上がる。ハットトリックの期待が高まるが、3点めは矢野だった。奈良クラブの公式記録に矢野貴章のゴールが残った。
サッカー的には(当たり前だが)、力の差が歴然だった。ポゼッションを支配し、やりたいように攻めた。0対3になった後半は、敵陣で試合を続けるけれど無理をしない。奈良クラブも無理をして来なかった。
つまり、他会場で起きたようなアップセット(番狂わせ)と、テクノポート福井は無縁だった。
試合後、奈良クラブ・山口監督がこらえ切れず涙を見せていた。
彼らの旅に幸多かれ。新潟ゴール裏の「奈良クラブ」コールが続いた。
僕らも旅を続ける。又、会いましょう。
附記1、「奈良クラブです。よろしくお願いします」断幕に対して、新潟ゴール裏は「水越潤をよろしくお願いします」断幕を即席でこしらえてアンサーとしていた。ほのぼのした。
2、奈良クラブのチャントで考えさせられたのは「バモバモ」だった。JでいえばFC東京ばりに奈良クラブも「バモバモ」をやったんだけど、「奈良」が2音なんだね。僕の耳が確かなら、彼らは「♪バモバモー、奈良ラー、バモバモー、奈良ラー」と最後に「ラー」を足してた。
3、今回、福井を旅して最も感銘を受けたのは、一乗谷でも北の庄城址でも永平寺でもなく「えちぜん鉄道のアテンダントのお姉さん」だった。真心こもったおもてなし。興味のある方は「ローカル線ガールズ」(嶋田郁美・著、メディアファクトリー)を参照されたし。僕は試合開始の2時間前、三国港駅で「秋祭りの町内みこしに無理矢理乗っけられ、ゆさゆさ揺らされてるアテンダントのお姉さん」に遭遇、大変感じ入った。
4、で、特に誰もクルマでピックアップしに来ないので、三国駅まで引き返し、タクシーで会場入りした。試合終了後、
スタジアム脇の通路で、「あ、えのきどさん!俺、三国港行ってみたんだよ」的な声を何人もにかけられる。まぁ、そういうもんですよねー。なかなか待ち合わせもしないでバッタリ出くわしませんよ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
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