【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第33回

2009/10/29
「ベタ記事」

 J1第29節、新潟×浦和。
 どう書いたらいいだろう。
とりあえず手元に10月18日付の東京新聞がある。これで試合経過をふり返る。
 「浦和が逃げ切った。試合開始1分もたたないうちにエジミウソンが相手GKをかわして右足で先制ゴール。その後は攻め込まれる場面が多かったが、GK山岸を中心に無失点でしのいだ。新潟は好機でシュートやパスの正確性を欠いた」(同日付スポーツ面、小見出しは「浦和が1点死守」)
 記事はたったこれだけ。首都圏のブロック紙としては「浦和目線」も仕方ないかな。ちなみに写真入りで大きく取り扱われているのは「川崎 暫定首位」。

 ベタ記事の本文には、「北野」の名前も「永田」も出て来ない。武者震いするような気持ちで浦和戦を待ったサポーターの姿もない。その一方で天皇杯初戦敗退の屈辱から1週間たった浦和のチーム心理も触れられていない。ケガ明け後、リーグ戦初スタメンの田中達也、急造サイドバックで奮戦の堀之内もメンバー表に名前があるだけ。

 僕は「だから東京新聞はダメなんだ」といった話がしたいのじゃない。それどころか一般紙のなかではサッカー記事が充実してると思って購読している。何しろ大住良之さんのコラムが毎節掲載されている。
 17日のJ1は7ヶ所開催だ。限られた紙面で個々のカードに割ける文字数はこの程度だ。唯一、特権的に「新潟×浦和」を大きく扱える一般紙は新潟日報(と埼玉新聞)だろう。それはそういうものだと思う。

 僕が言いたいのは「大一番」がどこかへ蒸発してしまったような不思議さだ。主観的にはこれ以上、リキみようがないほどリキんで、この一戦がクラブ史を変える扉の役目を果たすんじゃないか、ぐらいの入れ込みようだった「大一番」が蒸発してしまった。その入れ込みようが前提としてあったからこそ、開始早々、永田の不用意なバックパスからの失点も、終盤、まんまと敵の術中にハマったジウトンの退場も腰がガクッとくだけたのである。もしかして、浦和戦を大袈裟に考え過ぎていたのか。

 久々に見る浦和はハードワークする好チームだった。崖っぷちのチーム事情がそうさせるのか、とにかく足が動いた。攻撃の芽をつむ飛び出し、攻守の切り替え、味方との距離感、ホントによくやっていた。東京新聞が書いてくれてるより、「攻め込まれる場面」は少なかった。
 が、どうにもならない相手だったかというとそんなことは全然ない。うまく戦えば充分勝てた。前半14分、敵GK・山岸と交錯しながら放ったマルシオのシュートは、ポーランド人審判の判定でノーゴールになったけど、僕に言わせれば山岸が自分でバランスを崩して倒れただけのことだ。24分、こぼれ球を拾った松下のシュートも惜しかった。そのいずれかが決まって、完封勝利という目だって充分あったと思うのだ。もちろん、開始早々の失点がなかったらの話。

 まぁ、「大一番」を「大一番」たらしめているのは双方の主観なのだろう。「大事な一戦」も他人にとってはあんまり大事じゃないかも知れない。試合を決定づけた不用意なミスは、果たしてどっちだろう、「大一番」だから生まれたのか? 「大一番」なのに生まれたのか?

 結果的に「大一番」も蒸発してしまった、「好勝負」も蒸発してしまった。これもサッカーだとグウの音も出ないほど思い知ることになった。浦和戦を大袈裟に考え過ぎただろうか。J1最少失点のチームが考えられない失点をしてしまった。


附記1 残り5節、目標をはっきり持ちたいですね。あくまで優勝を目指すのか、優勝争いをしたいのか、ACL圏内なのか。僕は当コラムに優勝のことを書かないよう努めてきたけど、もう重圧のなかでサッカーをやるべきなのかも知れません。

2、先日、『オレンジページ』誌の担当ひきつぎをやったんだけど、新しい担当編集者・後藤智美さんが開口一番「えのきどさん、アルビレックスのコラム書いてるんですよね?」と言う。話を聞いたら新潟南高出身だって。

3、その打ち合わせの帰り、上野駅の駅弁イートインで「えび千両ちらし」(新発田三新軒)っていうのを食べた。これは旨いです。全面、玉子焼きにおおわれた下にウナギの蒲焼きとかイカの一夜干しとかが埋もれている。新潟駅と新発田駅で買えるらしい。次は「まさかいくらなんでも寿司」に挑戦だ。

えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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