【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第35回

2009/11/12
「ホーム勝利」

 天皇杯3回戦、新潟×横浜FC。
 この試合はNHK-BS1の中継が組まれていたんだけど、前の試合(磐田×鹿屋体育大@ヤマハ)が延長戦になって、なかなか始まらなかった。うわ、まいったなぁと思いました。考えたら2試合放送予定の日は、前の試合がもつれた場合、こうなるんですよね。カップ戦は一戦一戦、決着をつけていかなきゃなんないから引き分けがない。とにかくPK戦突入のフルコースだけは勘弁してくれと祈ってたら、磐田が勝った。

 やっとビッグスワンに映像が切り替わったときは既に前半32分経過、スコアは2対1でした。もう色んなことが起きていた。どうも話を聞いてると横浜FCに先制を許したらしい。で、すぐに追いついて逆転したらしい。こういうのは状況に気持ちが追いつかないもんですね。先に失点して「えぇっ、ヤバイよー!?」と思ってないし、同点に追いついて「お、OK!」とも思ってないし、逆転して「よっしゃー!」とも思ってない。敢えて言葉にすれば「はぁ、そうですか」と思っている。詰め将棋みたいなものを連想しました。「前半32分、1点リード」というシチュエーションだけを出題されて、ヨコに「15手詰め(ヒント・難波の動き)」とか書いてあるかんじです。

 だもんで、詰め将棋の要領で「ここから勝ち切るにはどうしたらいいか」というテーマで試合を見ました。この試合は勝つこと以外、何も求められていないと思うんです。それは冒頭書いたカップ戦の宿命ですね。よくリーグ戦の終盤、「ここから一戦一戦、トーナメントのつもりで戦う」なんて監督コメントが新聞に載ったりするけど、カップ戦でそれを言う監督さんはいない。
監督「いよいよ天皇杯も残り4試合、ここまで来たらトーナメントのつもりで戦いますよ」
アナ「トーナメントですけど?」
 そういうことになる。だけど面白いことですね、「トーナメントのつもりで」と「トーナメント」。残り試合全勝という目標は同じでも何となくニュアンスが違う。

 と、前半33分、左サイドから崩されて横浜FC・サイドバックの田中輝和にマイナスのパスが通り、決定機を作られる。田中がハズしてくれたから助かったが、「J1最少失点チーム」どうした?
 横浜FCはモチベーションが高かったと思います。対戦を前にここ3節のリーグ戦(岡山、甲府、C大阪戦)をひかりTVで見たけれど、今日の出来が一番いい。攻め手のキモは2列めだ。2トップの一角、アン・ヒョヨンが事実上、MFになっていて、前線は難波宏明ひとり。新潟としては片山、西田、小野、八角の2列めを大忙しにして、飛び出すシーンを作らせないのが望ましい。

 後半開始早々の3分、マルシオの意表をつく縦パスから、矢野貴章が左足でダイレクトに合わせるがクロスバーに弾かれる。なかなか矢野の2ゴールは見れないなぁ。
 危なかったのは同16分、新潟のCKからカウンターの逆襲を食らった場面。アン・ヒョヨンがドリブルで持ち上がり、充分ひきつけておいて新潟市出身の6番・吉田正樹にパス→長駆した吉田がサイド突破からグラウンダーのクロス→ゴール前に飛び込んできた難波のつま先をボールがかすめる。ヤバかった。NHKのカメラが吉田の悔しそうな表情をアップで抜いた。彼は自身のブログに、故郷での一戦を心待ちにする「新潟に行きたい」というエントリーをアップしている。

 ロスタイム、マルシオが3点めのゴールを流し込んで勝負あった。新潟は(皮肉なことに)「鬼門」と化していたホームで久々の勝利。この試合の裏テーマはこれだった。ホームで勝てない嫌な流れ・ジンクスを破って、リーグ戦につなげることだった。


附記1、しかし、天皇杯4回戦の相手が明大っていうのは驚きですね。新潟からすると、おかげで「新旧監督さんダービー」の湘南戦、「天地人ダービーVol.3」の山形戦が消えてしまった。これは油断のならない相手ですよ。

2、やっぱりサッカーはメンタルの要素が大きいスポーツだと思いますね。山形だってリーグ戦の前節、生き残りをかけた柏戦の勢いだったら明大に勝ってたでしょう。逆に言うと「翌週、気持ちが抜けて明大に0対3の完敗食らってしまうくらい、残留争いに全てを出し切った」とも言える。

3、奥山選手昇格の報を見て、八丈島へ行きたくなりました。クラブはオフ企画で八丈島ツアーやってくんないかなぁ。たぶん焼酎好きが集まると思うんですよ。僕は下戸なんですけど、つき合ってもいいですよ。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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