【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第36回

2009/11/19
 「代表作」

J1第31節、磐田×新潟。
 最初に楽屋話をすると、この試合は結果を知ってから試合映像を見た。というのは8日夜、仕事から戻って「ひかりTVの配信まだかなぁ」とチューナー電源を入れてみた僕は5秒ほど後、腰を抜かすことになるからだ。「視聴」の欄に「不可」の表示があって、まだ試合がアップされていない。ま、日曜の試合は運が悪いと翌日アップになるケースがこれまでもあった。と、欄外に「12日配信」と書いてあるじゃないの。凍りついた。12日っていったら木曜日で、モバアルに当コラムをアップする日だ。ここまで遅いのは契約してから初めてだ。あわててJスポーツの録画中継の放送日を確認する。そうしたらラッキーなことに11日21時から放送予定だった。これなら水曜夜に徹夜すればどうにか間に合う。だもんで試合映像はケーブルTVで見た。

 で、人間には日曜昼の試合結果を水曜夜まで知らずに生きることは不可能だ。ネットも見るし、新聞だって読む。0対2の完勝、大島が2ゴール(!)。これは凄いぞと思ってスタッツを調べてみたら磐田の総シュート数が2だった。同節、鹿島が山形相手に被シュート数0という、前代未聞の完封劇(2対0)を演じているが、磐田相手に2というのもあり得ない。だって磐田の2トップは得点ランキング1位の前田と、帰り新参(?)のイ・グノだぞ。

 さぁ、そうなると何が起こったのか気になって水曜夜が待ち遠しかった。ひとつ想像していたのは前節、名古屋戦でJ1残留を決めた磐田がホッとひと安心して、気が抜けてたんじゃあるまいな、ということだった。磐田の黄金時代を知る者として、そんな姿は見たくないが、現実に順位を考えると可能性は否定できない。

 そうしたらこれが文句のつけようのない試合だった。磐田が気が抜けてたかどうかなんて関係ない。今季、「4-4-2」のシステムにしてからの代表作だ。試合開始から攻勢に出て、主導権を握る。前半12分の先取点はジウトンのロングスローに対し、磐田GK・八田が目測を誤った幸運によるものだが、そこまでの新潟の攻勢が伏線になっている。磐田側からすると、第3キーパー格の八田をスタメン起用せざるを得ない台所事情がつらいところ。序盤の防戦をどうにかしのいできたが、ミスから失点してしまった。

 両チームの完成度というのか、連携の練度、信頼感、関係性、どういう言葉で呼んでもいいが、そこには相当な差があった。新潟は本当に皆、わかり合っている。個々の動きがつながって意味を持っている。
 
対して磐田は攻撃が作れない。組み立ての前につぶされ、単調になる。たまにゴール前にボールが入っても、新潟の戻りが早く、オレンジの壁に余裕を持って弾き返される。なるほど、これがシュート2本の正体か。

 この試合を集約するシーンは、2点めへと至る守から攻への一連の展開だ。後半32分、磐田はDFからのロングフィード、左サイドを中継して前田にボールがおさまる。バイタルに前田とイ・グノ。が、ゴールとの間にオレンジの壁が4、5枚揃ってる。前田はシュートもパスも叶わず、カットされ、そこから新潟のカウンターが始まる。
 左に展開した矢野が受けて、ドリブルしながら斜めに持ち込む。駈け上がった松下をスルー気味に、パスが右で待ち構えた大島に渡る。大島は切り返してDFをひとり振り切り、シュートコースを消すもうひとりの股を抜いてシュート!そのとき、大島の右にマルシオ、ゴール前には松下が全速力で詰めていた。

 強い勝ち方をした。チームは鈴木淳監督4年間の総決算に入った。これからクラブ史に残るドラマが始まる。トップギアだ。エンドマークまでこのまま突っ走る。

附記1、しかし、鈴木淳監督の退任発表(契約更新しない旨、先週、公式リリースされる)には、僕も驚きました。今シーズンは本当にトゥーマッチかつドラマチックな年ですね。

2、ひかりTVは、その後、チューナーの調子までおかしくなっちゃって(「ステータス」「予約/お知らせ」にピンクのライトが点滅、画面は全く映らず)、マニュアルを読むとどうも修理に出す必要がありそうです。しょぼーん。こうなるといつ動画配信されようがあんまり関係ない。

3、読み返して磐田GK・八田選手の為にひと言添えたくなりました。自らのミスで1失点した後は、切り替えてよく守っていたと思います。後半1分の矢野の飛び出し、同7分の内田のシュート、共にナイスセーブでした。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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