【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第40回
2009/12/17
「気持ち」
J1最終節、新潟×FC東京。
ゴール裏が「鈴木アルビ FOREVER」の断幕を掲げる。ついにこの日が来た。鈴木淳監督の本拠地ラストゲーム。雨のなか、3万4千人近くのファン、サポーターがビッグスワンを埋めた。試合の意味は重い。「09年アルビレックス」というチームの総決算でもある。又、鈴木淳監督4年間の最終章でもある。
が、苦戦は必至だった。FC東京はACL出場を目指し、高いモチベーションを保っている。それに対し、新潟は故障と累積で大島、マルシオ、本間と主軸のプレーヤーが欠けている。このメンバーは誰かひとり欠けても苦しいところだ。それが揃って不在。もう、気持ちで行くしかないだろう。スタメンはFWにエヴェルトン・サントス、中盤の右にチョ・ヨンチョル、2ボランチの一角に千葉和彦という布陣になる。
試合は想像以上に厳しかった。新潟はほとんど攻めが作れない。前線にボールが入らないし、攻め上がりにタメがない。起点を米本あたりにことごとくつぶされる。完全にFC東京のペースだ。
FC東京が又、開幕戦とは見違えるほどいい感じに仕上がっていた。さすがナビスコ杯のカップウイナーだ。前半12分、中村北斗のゴールで先制、追加点も時間の問題に思えた。新潟はフルメンバーでこのチームを迎えたかった。
最大のチャンスは28分、CKに矢野、ジウトンがオトリになり、千代反田がDFを抑えつけながらヘディングを放ったシーン。シュートはポストを叩き、こぼれ球をジウトンが蹴り込んでもおかしくなかった。
新潟のはっきりした得点機はこの一回きりじゃなかったろうか。FC東京はプレスでボールを奪い、快調に攻めたてる。平山、米本に再三のゴールチャンスがあった。サッカーの質という意味では誰もがFC東京に軍配を挙げるだろう。が、勝負となると話は別だ。FC東京は再三のチャンスに追加点を奪えなかった。
試合終盤、両軍監督が一種、センチメンタルとも思える采配を見せる。新潟は78分・マーカスIN、83分・松尾IN。FC東京は82分・藤山IN、89分・浅利IN。4人とも今季かぎりの退団が決まっている選手だ。当然、試合にかける思いが強い。又、ピッチのチームメイトに強いメッセージが送れる。
会場が特別な熱を帯びる。見ている僕らにとってはセンチメンタルな感情だが、現場の空気は鉄火場だろう。選手は「残り時間に自分の全てを出し切る」と飛び出してゆく。送り出す監督さんは「ひと勝負して来い」だ。あるいは「爆発して来い」だ。
89分、松尾直人のひと勝負。CKのチャンス。場内は割れんばかりのゲットゴールコール。キッカー松下は迷わずファーへボールを送る。敵GK・権田の指先がわずかに届かない。DFをふっ飛ばして松尾がヘディングを仕掛ける。ボールはオレンジのネットにつき刺さる。試合は圧倒的劣勢をはねのけて、1対1のドローに決する。
アルビレックス新潟は8位でリーグ戦を終えた。とうとう6月以来のホームゲーム勝利は来季までおあずけになった。ペドロ・ジュニオールの電撃移籍以降、1点をとるのが簡単じゃなかった。本当は悔しい。もっとやれたチームだ。
だけど、最終節の土壇場、松尾が見せた「気持ちのゴール」を思う。「09年アルビレックス」は素晴らしいチームだった。戦い抜いた選手ら、そして鈴木淳監督をはじめスタッフに心から拍手をおくりたい。
附記1、と終わってしまったかのように書いてますけど、間髪をいれず天皇杯準々決勝です。清水戦は相手にとって不足なしです。このチームを元日まで追いかけましょう。タイトル獲って堂々とACLへ行きましょう。
2、FC東京戦、久々にジウトンがスローイングで手がつるっとすべってましたね。
3、この試合の翌日、日光アイスバックスのホームゲームに足を運んで下さったアルビサポがいたようです。あいにく直接お話できなかったんですが、遠くまでありがとうございます。アイスバックスもチームカラーがオレンジだから、親近感を持たれたんじゃないでしょうか。
4、リーグ戦は鹿島の3連覇で決しました。その鹿島にホーム&アウェー2勝している唯一のチームが新潟です。これは誇るべきことでしょう。それから湘南の昇格は嬉しいですね。今からビッグスワンに反町ベルマーレを迎える日が楽しみです。寺川、野澤も帰ってきますよ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1最終節、新潟×FC東京。
ゴール裏が「鈴木アルビ FOREVER」の断幕を掲げる。ついにこの日が来た。鈴木淳監督の本拠地ラストゲーム。雨のなか、3万4千人近くのファン、サポーターがビッグスワンを埋めた。試合の意味は重い。「09年アルビレックス」というチームの総決算でもある。又、鈴木淳監督4年間の最終章でもある。
が、苦戦は必至だった。FC東京はACL出場を目指し、高いモチベーションを保っている。それに対し、新潟は故障と累積で大島、マルシオ、本間と主軸のプレーヤーが欠けている。このメンバーは誰かひとり欠けても苦しいところだ。それが揃って不在。もう、気持ちで行くしかないだろう。スタメンはFWにエヴェルトン・サントス、中盤の右にチョ・ヨンチョル、2ボランチの一角に千葉和彦という布陣になる。
試合は想像以上に厳しかった。新潟はほとんど攻めが作れない。前線にボールが入らないし、攻め上がりにタメがない。起点を米本あたりにことごとくつぶされる。完全にFC東京のペースだ。
FC東京が又、開幕戦とは見違えるほどいい感じに仕上がっていた。さすがナビスコ杯のカップウイナーだ。前半12分、中村北斗のゴールで先制、追加点も時間の問題に思えた。新潟はフルメンバーでこのチームを迎えたかった。
最大のチャンスは28分、CKに矢野、ジウトンがオトリになり、千代反田がDFを抑えつけながらヘディングを放ったシーン。シュートはポストを叩き、こぼれ球をジウトンが蹴り込んでもおかしくなかった。
新潟のはっきりした得点機はこの一回きりじゃなかったろうか。FC東京はプレスでボールを奪い、快調に攻めたてる。平山、米本に再三のゴールチャンスがあった。サッカーの質という意味では誰もがFC東京に軍配を挙げるだろう。が、勝負となると話は別だ。FC東京は再三のチャンスに追加点を奪えなかった。
試合終盤、両軍監督が一種、センチメンタルとも思える采配を見せる。新潟は78分・マーカスIN、83分・松尾IN。FC東京は82分・藤山IN、89分・浅利IN。4人とも今季かぎりの退団が決まっている選手だ。当然、試合にかける思いが強い。又、ピッチのチームメイトに強いメッセージが送れる。
会場が特別な熱を帯びる。見ている僕らにとってはセンチメンタルな感情だが、現場の空気は鉄火場だろう。選手は「残り時間に自分の全てを出し切る」と飛び出してゆく。送り出す監督さんは「ひと勝負して来い」だ。あるいは「爆発して来い」だ。
89分、松尾直人のひと勝負。CKのチャンス。場内は割れんばかりのゲットゴールコール。キッカー松下は迷わずファーへボールを送る。敵GK・権田の指先がわずかに届かない。DFをふっ飛ばして松尾がヘディングを仕掛ける。ボールはオレンジのネットにつき刺さる。試合は圧倒的劣勢をはねのけて、1対1のドローに決する。
アルビレックス新潟は8位でリーグ戦を終えた。とうとう6月以来のホームゲーム勝利は来季までおあずけになった。ペドロ・ジュニオールの電撃移籍以降、1点をとるのが簡単じゃなかった。本当は悔しい。もっとやれたチームだ。
だけど、最終節の土壇場、松尾が見せた「気持ちのゴール」を思う。「09年アルビレックス」は素晴らしいチームだった。戦い抜いた選手ら、そして鈴木淳監督をはじめスタッフに心から拍手をおくりたい。
附記1、と終わってしまったかのように書いてますけど、間髪をいれず天皇杯準々決勝です。清水戦は相手にとって不足なしです。このチームを元日まで追いかけましょう。タイトル獲って堂々とACLへ行きましょう。
2、FC東京戦、久々にジウトンがスローイングで手がつるっとすべってましたね。
3、この試合の翌日、日光アイスバックスのホームゲームに足を運んで下さったアルビサポがいたようです。あいにく直接お話できなかったんですが、遠くまでありがとうございます。アイスバックスもチームカラーがオレンジだから、親近感を持たれたんじゃないでしょうか。
4、リーグ戦は鹿島の3連覇で決しました。その鹿島にホーム&アウェー2勝している唯一のチームが新潟です。これは誇るべきことでしょう。それから湘南の昇格は嬉しいですね。今からビッグスワンに反町ベルマーレを迎える日が楽しみです。寺川、野澤も帰ってきますよ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
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