【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第44回
2010/4/1
「未勝利戦」
J1第3節、G大阪×新潟。
偶然というか何というか、開幕から3節続けて、互いに勝ち星のないどうしの「未勝利戦」だ。まぁ、開幕戦は開幕だから未勝利は当然なのだが、3節ともなるとそろそろ結果が欲しくなって来る。強豪・G大阪はACL等を戦って、試合数をこなしているものの今季未勝利。「黒崎アルビ」と違って、実績を残して来た西野体制だけど、現場の空気はハタが思うよりも微妙なものだ。
ムードは断然、新潟がいい。マルシオ・リシャルデスがスタメン復帰して、ついにキャンプからとり組む「4-2-3-1」の腕試し。GKはガンバユース出身の東口が万博スタメン出場に張り切っている。対してガンバはDF・山口を欠く程度でメンバーは揃っている。ただルーカス、遠藤のコンディションが悪く、全体に重い第一印象。
試合はその第一印象のまま、最後まで推移した。ガンバの連動性が少なく、持ち前の軽快なパスワークがなりをひそめる。新潟は練習試合のように自在にゲームを支配した。あらゆる時間帯で積極的にセカンドボールを拾い、2列め3列めがガンガン攻めに加わる。結局、スコアレスドローに終わったが、こういう場合の常套句「ボクシングのように優勢勝ちがあれば、新潟の判定勝利」はガンバサポーターですら同意してくれるだろう。問題はサッカーに判定勝利がないところだ。
まず、内容を言う。ガンバの出来を差し引いても新潟は満点に近い試合をした。ヨンチョルは好調を維持し、安田とのマッチアップで見せ場を作った。三門が本当にスーパーな働きを見せた。マルシオは完調とはいかないが、充分凄味を発揮した。東口はこの機会に第1GKの座をモノにしてしまいそうだ。
つまり、文句ないわけだ。文句ないのに勝てなかった。再三、ゴールポストを叩く惜しいシュートがあった。シュート数自体は多くはないのだから、逆にいえばどえらい確率でポストを叩いたことになり、ホントにちっきしょーってなもんだ。いやー、なかなかないでしょう、ポストに当たってタイムアップって試合も。最後、あれ決まってたら、マルシオは「サヨナラホームラン」でしたね。
で、この際、どれが惜しかったってシーンを抜き書きで再現してもあんまり意味ないと思う。スコアレスドローはスコアレスドローだ。考えるべきは後半、ガンバに起きたペドロ・ジュニオール交代劇のようなことじゃないだろうか。足を痛めたルーカスに代わって途中出場したペドロ・ジュニオールだったが、古巣・新潟相手に意欲が空回りしたのか何なのか、散漫なプレーが続いた。西野監督がポジション取りを指示するが、ボールを受けたくて下がってしまう。ゴール前で不出来なプレーをした直後、西野監督はわざわざ交代カードの最後の1枚を切ってペドロを代える。納得いかないペドロはゲームシャツを地面に叩きつける(で、すぐ拾う)。
ことはよそ様の台所事情なので、とやかく言う筋合いにない。これは単に風景としての印象だ。チームの雰囲気がいいようにはとても見えない。あぁなってしまうと監督さんという職業は、基準をハッキリ示して、不満分子をシャットアウトするしかないだろう。その基準にチームが納得すればまとまりが作れるし、納得が得られなければ次第にバラバラになっていく。
そのこと自体はガンバの問題なのだ。思うべきは「西野ガンバ」ですら揺れて見えてしまう、現場の大変さだろう。新潟は好ゲームを続けている。好ゲームを続けているのに結果が出ない。ここでガマンがきくかどうか。「未勝利戦」はサッカーの根幹にかかわることを僕らに投げかけている。
附記1、以前、飲み屋で女友達が「別れた男に再会して、その男がダメになってたりして後悔してる風だったりするのほど嬉しいことはない」みたいなことを言ってて、うわっ、言うなーと、ちょっと引いたことがあるんですけど、ペドロ・ジュニオールはそんなニュアンスでしたね。残念なことだなぁ、いい選手なのに。僕は全然嬉しくは感じません。といってキレキレで、やりたい放題やられてたらそれもショボーンだったろうけど。読者はどんな感想でしたか?
2、しかし、GK受難のシーズンですね。黒河が何と骨折だったとは。黒河貴矢も高木貴裕もホントに悔しいでしょう。だけど、これがプロの世界です。チャンスをつかんだ東口は大いに飛躍して欲しい。
3、次節はついに「反町ベルマーレ」との対決です。反町さんヒゲはやして戦国武将みたいになってますね。試合後の監督会見も含めて、実に楽しみです。又、果たして新潟応援席は「男前」コールをぶつけるのか封印するのか。
4、『峠』(司馬遼太郎・著、新潮文庫)中巻読了。軍学についての記述。
「継之助にいわせれば、そこが日本人のおもしろさであろう。こういう日本式戦法にあっては、合戦はあくまでも個人々々の勇怯(ゆうきょう)にたよっている。個人々々が勇敢ならば勝ち、個人々々が臆病ならば負ける。
ところが洋式にあっては、あたまから戦士というものは臆病なものだときめつけているらしい。なぜならば調練をする。
調練とは、集団のなかで動くすべをさとらせる訓練である。それも頭でさとらせず、体でさとらせる。くりかえしおなじ動作を訓練させることによってどのように惨烈な戦況下でも体のほうが反射的に前へゆくようにしてしまう。ある号令をきけばとっさに伏せ、ある号令をきけば敵にむかって突撃する。恐怖が足を食いとめるゆとりをなくするのである。すべての戦士を反射運動の生きものにしてしまう」
幕末期は日本式戦法→個人技、洋式戦法→組織だったわけですね。ま、泰平の世が続いて、日本人は戦術・戦法を磨く機会自体持ちあわせなかったとも言えるけど。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第3節、G大阪×新潟。
偶然というか何というか、開幕から3節続けて、互いに勝ち星のないどうしの「未勝利戦」だ。まぁ、開幕戦は開幕だから未勝利は当然なのだが、3節ともなるとそろそろ結果が欲しくなって来る。強豪・G大阪はACL等を戦って、試合数をこなしているものの今季未勝利。「黒崎アルビ」と違って、実績を残して来た西野体制だけど、現場の空気はハタが思うよりも微妙なものだ。
ムードは断然、新潟がいい。マルシオ・リシャルデスがスタメン復帰して、ついにキャンプからとり組む「4-2-3-1」の腕試し。GKはガンバユース出身の東口が万博スタメン出場に張り切っている。対してガンバはDF・山口を欠く程度でメンバーは揃っている。ただルーカス、遠藤のコンディションが悪く、全体に重い第一印象。
試合はその第一印象のまま、最後まで推移した。ガンバの連動性が少なく、持ち前の軽快なパスワークがなりをひそめる。新潟は練習試合のように自在にゲームを支配した。あらゆる時間帯で積極的にセカンドボールを拾い、2列め3列めがガンガン攻めに加わる。結局、スコアレスドローに終わったが、こういう場合の常套句「ボクシングのように優勢勝ちがあれば、新潟の判定勝利」はガンバサポーターですら同意してくれるだろう。問題はサッカーに判定勝利がないところだ。
まず、内容を言う。ガンバの出来を差し引いても新潟は満点に近い試合をした。ヨンチョルは好調を維持し、安田とのマッチアップで見せ場を作った。三門が本当にスーパーな働きを見せた。マルシオは完調とはいかないが、充分凄味を発揮した。東口はこの機会に第1GKの座をモノにしてしまいそうだ。
つまり、文句ないわけだ。文句ないのに勝てなかった。再三、ゴールポストを叩く惜しいシュートがあった。シュート数自体は多くはないのだから、逆にいえばどえらい確率でポストを叩いたことになり、ホントにちっきしょーってなもんだ。いやー、なかなかないでしょう、ポストに当たってタイムアップって試合も。最後、あれ決まってたら、マルシオは「サヨナラホームラン」でしたね。
で、この際、どれが惜しかったってシーンを抜き書きで再現してもあんまり意味ないと思う。スコアレスドローはスコアレスドローだ。考えるべきは後半、ガンバに起きたペドロ・ジュニオール交代劇のようなことじゃないだろうか。足を痛めたルーカスに代わって途中出場したペドロ・ジュニオールだったが、古巣・新潟相手に意欲が空回りしたのか何なのか、散漫なプレーが続いた。西野監督がポジション取りを指示するが、ボールを受けたくて下がってしまう。ゴール前で不出来なプレーをした直後、西野監督はわざわざ交代カードの最後の1枚を切ってペドロを代える。納得いかないペドロはゲームシャツを地面に叩きつける(で、すぐ拾う)。
ことはよそ様の台所事情なので、とやかく言う筋合いにない。これは単に風景としての印象だ。チームの雰囲気がいいようにはとても見えない。あぁなってしまうと監督さんという職業は、基準をハッキリ示して、不満分子をシャットアウトするしかないだろう。その基準にチームが納得すればまとまりが作れるし、納得が得られなければ次第にバラバラになっていく。
そのこと自体はガンバの問題なのだ。思うべきは「西野ガンバ」ですら揺れて見えてしまう、現場の大変さだろう。新潟は好ゲームを続けている。好ゲームを続けているのに結果が出ない。ここでガマンがきくかどうか。「未勝利戦」はサッカーの根幹にかかわることを僕らに投げかけている。
附記1、以前、飲み屋で女友達が「別れた男に再会して、その男がダメになってたりして後悔してる風だったりするのほど嬉しいことはない」みたいなことを言ってて、うわっ、言うなーと、ちょっと引いたことがあるんですけど、ペドロ・ジュニオールはそんなニュアンスでしたね。残念なことだなぁ、いい選手なのに。僕は全然嬉しくは感じません。といってキレキレで、やりたい放題やられてたらそれもショボーンだったろうけど。読者はどんな感想でしたか?
2、しかし、GK受難のシーズンですね。黒河が何と骨折だったとは。黒河貴矢も高木貴裕もホントに悔しいでしょう。だけど、これがプロの世界です。チャンスをつかんだ東口は大いに飛躍して欲しい。
3、次節はついに「反町ベルマーレ」との対決です。反町さんヒゲはやして戦国武将みたいになってますね。試合後の監督会見も含めて、実に楽しみです。又、果たして新潟応援席は「男前」コールをぶつけるのか封印するのか。
4、『峠』(司馬遼太郎・著、新潮文庫)中巻読了。軍学についての記述。
「継之助にいわせれば、そこが日本人のおもしろさであろう。こういう日本式戦法にあっては、合戦はあくまでも個人々々の勇怯(ゆうきょう)にたよっている。個人々々が勇敢ならば勝ち、個人々々が臆病ならば負ける。
ところが洋式にあっては、あたまから戦士というものは臆病なものだときめつけているらしい。なぜならば調練をする。
調練とは、集団のなかで動くすべをさとらせる訓練である。それも頭でさとらせず、体でさとらせる。くりかえしおなじ動作を訓練させることによってどのように惨烈な戦況下でも体のほうが反射的に前へゆくようにしてしまう。ある号令をきけばとっさに伏せ、ある号令をきけば敵にむかって突撃する。恐怖が足を食いとめるゆとりをなくするのである。すべての戦士を反射運動の生きものにしてしまう」
幕末期は日本式戦法→個人技、洋式戦法→組織だったわけですね。ま、泰平の世が続いて、日本人は戦術・戦法を磨く機会自体持ちあわせなかったとも言えるけど。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
※アルビレックス新潟からのお知らせ
コラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。
更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!